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12/1【B】バーフバリとRRRは理屈をねじ伏せる勇気をくれる - 2日目
文章を書く習慣を取り戻したくて、11/30からABCを頭文字にしたエッセイを毎日書いています。(予約投稿の場合もあり)
新しい企画をはじめようとするとき、私に一番足りていないのは勇気だと思っている。
企画をするのは楽しい。これをこうすれば、こんなことやあんなことができる!こことここがつながるからこんな結果が出せるはずだ!想像を広げていく作業が好きだ。頭の中でキラキラでピカピカの企画が出来上がる。
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でも、大きい企画になればなるほど、ある程度まで考えると、「これより先は他人の助けが必要になるな…」という部分が出てくる。
協力してもらうには企画の説明をしなくてはならない。
そんな時に急にキラキラでピカピカの企画に傷が見えてくる。「その企画って面白いの?」「それって誰の役に立つの?」「それってただの自己満足じゃない?」そんなふうに言われたらどうしよう…。
想像の中の上司や知り合いの反論に応えて、後からどんどん付け足したり、まるっきり変えてしまう。そうして、つぎはぎと絆創膏だらけになった企画は最初のキラキラでピカピカだった時と違って、なんだか見すぼらしく思えてくる。
…いや、実際に人に見せるのはこれからだというのに、なんという臆病。
そんなわけで、企画書を人に見せる瞬間が一番緊張する。
けれど、企画者が企画を人に見せる時には自信満々に振る舞わなくてはならないとも思っている。
だって考えてもみてほしい。
「こんな企画に協力してほしいんだけど…」
って持ってきた人が、自信なさそうに…なんなら「これはもしかしたら失敗するかもしれないんだけど…」としょげた顔をして持ってきたら、そんな企画に乗りたいと思う人がいるだろうか?
だからこのときばかりは臆病な気持ちを隠して自信を奮い立たせて、作ったものが最高であると思い込まなければならない。けれど自分には、その勇気が足りていない。なかなか踏み出せずに企画書をこねこねこね回してしまう。
そんな時に、私が見るのがインド映画「バーフバリ」と「RRR」だ。
「RRR」については第95回アカデミー賞で歌曲賞を獲得した「ナートゥ」でご存知の方も多いと思う。インド映画の巨匠S・S・ラージャマウリ監督による映画で、どちらもインド神話をベースにしたファンタジー作品だ。
2つの作品に共通していえるのは、人間の肉体は鋼鉄より硬く、弾丸より疾く、矢は無限に湧くということだ。
おおよそあり得ない生身の人間の強さをなぜか信じさせられてしまう。
日本のアニメや漫画で、「人間が岩盤に叩きつけられて岩盤の方がひしゃげる」という人体の頑強さを表したよくある表現があるが、これはあくまでアニメや漫画だからという暗黙の説明をうけている。しかし、S・S・ラージャマウリ監督はそれを生身の人間でやる。
ハリウッド映画ではその頑強な肉体の理由を宇宙人のハイテクノロジーなど科学で説明しようとするが、S・S・ラージャマウリ監督は説明しない。
「バーフバリ2 王の帰還」でバーフバリが滞在中の国が野盗の大軍に襲われ、その国の姫とともに撃退するというシーンがある。
窓から城に次々と乗り込んでくる野盗を、2人で一度に三本ずつ矢を射て、数十はいるだろう野盗をすべて撃退する。
これが、当初持っていた矢の数とは明らかに数が合っていない。さすがのファンでもちょっとおかしいなと思う。
思うのだが、それでもこれでいいのだ。ここで矢を補充するカットは明らかに冗長なのだ。ここはバーフバリと後にバーフバリの伴侶となるディーバセーナ姫の初めての共闘シーンであり、2人の圧倒的武力、言葉を言わずとも通じ合うところを永遠に見たいのだから、矢の補充は不要なのだ。
観客の見たい気持ちに応えて理屈をねじ伏せる。とんでもない手法なのだ。(突如挟まれるオタクの早口)
と、言った形で一時が万事あまりにも説明がなく、冷静な人であれば「いやいや、そんなことあり得ないから」と冷めてしまうかもしれない。(うちの夫はそうだ)
しかし、「理屈はどうでもいいんだよ!見たいのはこれだろ!」と言う圧倒的な映像の勢いと強さ。この強さこそが、見たものに自信をくれるのだ。
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企画を通す時、これくらいの勢いと強さも必要だと思っている。
そんなわけで、勇気が欲しい時…「私はこれが最も素晴らしいと思っている、みんなもそうだろ!」という勢いを出したい時、勇気づけてもらうために「バーフバリ」と「RRR」を見ている。
さて、そんな真面目な話とは別に、最近小4の息子がトラブルがあって、とある場所で大人に強く注意された。それがとてもショックだったようで、次にそこに行くのが嫌だと言い始めた。
そんな時、「大丈夫だって」「トラブルの行為はダメだったけど、君がダメなわけじゃないんだから」と説得するも、「でも嫌だなぁ、行きたくないなぁ」と、なかなか気持ちが晴れない。
「こんな時は、そうだ!」母は思いつき、Amazonプライムで購入して、いつでも見られるようにしている「RRR」をつけた。
華やかなナートゥダンスに血湧き肉踊る戦闘シーンを見て息子は視聴後少し気持ちが晴れたようだった。母と同じく映画で心が救われるタイプでよかった。そう思ってふと夫を見ると「いや……まぁ、いいけど……」と若干引いて見ていた。
世の中には、映画で心が救われるタイプと、そうでもないタイプ、どうやら二種類がいるようだ。