誰かから貰ったテーマでエッセイを書く
12月1日(日)の文学フリマ東京39で出るアンソロジー『エモセルシオールでエモーヒー』に参加させていただくことになった。ZINE作家のやーはちさんに、以前私のエッセイを読んでいただいたのがきっかけで、声をかけて貰った。
「寄稿する」というのは、私の憧れの一つ。今年に入ってエッセイをZINEにしよう! といろいろ活動し始めたあたりから、「いつかは『寄稿させていただきました』とか言ってみたいな~」とささやかな夢を持っていた。ZINEを製作して半年ほどで、こんな嬉しいお声がかかるとは思っていなかった。寄稿の経験がないので勝手も分からなかったが、私の文章を読んで「ぜひ一緒に」と言ってくれる方がいる事実が本当に嬉しい。何より自分が挑戦してみたかったので、すぐさま参加の返事をさせてもらった。
これまでは一人でエッセイを書いていたが、今回はアンソロジーなので「誰かと作る」ことになる。
全てが未知の体験だが、自分にとっての大きな違いは「自分以外の人が決めたテーマに沿ってエッセイを書く」点だ。学生時代の作文課題などを除いて、そういった状況でエッセイを書いたことはほとんどない。
なんなら、これまでエッセイを書き始めるときは「自分が書きたいと思ったテーマを書かないと意味がない!」と思っているフシがあった(尖ってんな?)。
だから、書き上げられるか不安を感じるときもあった。だが杞憂だった。むしろ世の中に転がっている「エッセイのテーマ」を外から持ってくると、書くネタが増える。「自分はこんなことを考えていたんだ!」と新しい発見もできた。
校正まであらかた終わった今振り返ると、
「エッセイ書くの楽しい~!! 自分の決めたテーマじゃなくてもめちゃくちゃ楽しかった~!!」
とハッピーな気持ちになってた(単純)。
・素直に書く
今回の執筆にあたり、とにかく心に浮かんだことを素直に書くように努めた。
今回の寄稿のテーマは「記憶に残る喫茶店」。
エッセイのテーマを聞いてから、お気に入りの喫茶店がいくつか頭に思い浮かんだ。最寄り駅のあのお店にしようかな。でもこないだ行った美味しいオムレツのカフェもいいな。あ、あの店主さんの物腰が柔らかい落ち着くカフェはどうだろう……と、ネタは豊富だった。
でも、そのたくさん浮かんだ喫茶店候補の中から、私が今本当に書きたいのはどのお店だろう?
心の中に浮かんだあのお店も、座った席から見える景色も、大好きな飴色の紅茶も、全てのイメージを頭の中で掻き分けて、心に残っている喫茶店はどれなのか。
そして、最終的にエッセイに書きたい喫茶店が分かったとき、気づいたことがある。その喫茶店は「ただ美味しいものを食べたり飲んだりした場所」ではなく、「私にとって大事な時間を過ごせた場所」だったのだ。
その気づきに素直に、忠実に、なるべくブレずに最後まで書き上げる。こういった意識を持ってエッセイを書いたのは初めてだった。「この経験は、今後の創作活動のヒントになる」とはっきり感じられた。
・過度な演出をつけない
似たようなことで言うと、文章上での過剰な演出もなるべくしないよう心がけた。過剰な演出とは「こう書いたらもっとおもしろくなるかな」から生まれる、いわゆる「盛る」ような表現のことだ。
余談だが、私は生粋のミーハーである。以前は「おもしろいツイート命!!」でTwitterを動かしまくっていた人間だ。だから、その、ちょっと大げさに話を盛る、みたいな表現は、実はよくやっていた(えへへ)。
たとえば、推しを見たときに「泣いた」とか「感動」とか「尊い」とか、息を吐くようにそういうストロングめな言葉を打ち込むクセがある。推しの頑張っている姿は本当に感動ものだし尊いのも間違いないんだけど、ちょっと感心した程度の気持ちでも「マジ感動」と表現したりしていた。
今回は、そういう大げさな表現をなるべく控えた(今回の執筆では控えようと決めただけで、上記のような表現が悪いわけではないと思う。そういうエネルギッシュな文章も私は大好き)。
本当は泣いていないのに「感動して泣いた」と書くのをやめよう。泣いてはいないけど心が震えるような経験だったら、素直に「心が震えた」とだけ書けばいいじゃないか。逆に、誰かにとっては「そんなことで?」と思われたとしても、自分が本当に悲しかったなら、そのときに「本当に悲しかった」と書けばいいじゃないか!
その都度、自分の心に「この表現でOK?」と問いかけながら書く。どれだけおもしろくても「過剰だ」と感じる表現、また自分が書いていて嫌になる(自分を切り売りしてるな、と感じる)表現は、執筆や推敲の段階で全てカットした。
結果、心情描写の部分は嘘がなく、一方で淡々と書き上げることができた。
淡々とした心情描写の代わりに、そのとき見えていた景色や情景はできる限り細かく書くようにした。情景描写は今まであまりしたことがなかったので苦労したが……。「自分の場所から見えていたものを自分が見たまま、かつ分かりやすく描写できているか?」と自分に問いかけ、何度も読み返したり書き直したりした。
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そうしてできあがった原稿は、初稿の段階でかなり満足度の高いものになったと思う。校正を繰り返すことで、ブラッシュアップも進む。自分以外の人に文章を校正してもらうのもまたおもしろかった。自分のエッセイなのに、校正が進むたび「この文脈で私はこういうことが伝えたかったんだ!」と新しい発見がある。推敲を繰り返し、どんどん「これは私のエッセイだ」という思いが原稿に宿っていく感覚だった。
もし少しでも大げさに感じられる表現をしていたり、誰かに「これほんとの話?」と聞かれたらちょっと困る……みたいなエピソードを盛り込んでいたりしたら、気持ちよくエッセイを送り出せなかったと思う。
誰かから貰ったテーマでエッセイを書くのはほぼ初めてだったけど、「やり切った!」と言える原稿を作り上げることができて嬉しい。
細かい部分まで意図を読み取って、一緒に原稿をブラッシュアップしてくださったやーはちさんには心から感謝している。参加された他の方々のエッセイを読むのが今から楽しみだ。