【レシピ付】ひょっとしていい事が? 江戸時代から伝わるひょう干し煮
(この記事は東北を深掘りする日刊webマガジン『まいにち・みちこ』に2019年1月23日に掲載されたものです)
まことに遺憾ながら、山形県は一部で「不思議県」として認知されているらしい。
テレビ番組「秘密のケン〇ンショー」などで面白く取り上げられるおかげだが、県民は自分達が他地域とずれているなどと少しも思わない。
①を『いちまる』と読むのも、(1)を『いちかっこ』と読むのも、子供がよその家に遊びに来た時、玄関で「あーそーべ」と命令形で叫ぶのも、即身仏を拝むのも当たり前のことなのだ。
いや、最後の一件は地域的に限られているけど。
なかでも一番言われているのは「山形県民は垣根や、道端に生えている雑草を食べる」だ。
でもこれは山形県の中でも内陸部、さらに上杉家の領地だった置賜地方で一般的なお話で、他の村山や最上、庄内地方ではどうなのだろう。
上杉米沢藩9代目の鷹山公は、貧乏な藩の財政を建て直し、飢饉対策に食べられる草や木の芽の書を編纂させた。「かてもの」という、今に至るまで置賜人の食生活に広く浸透した食の書である。
そのなかに垣根であるウコギ、そして雑草こと「ひょう」について書かれている。
前者は春にその柔かい芽出しや若葉を摘み、天婦羅や焼き味噌との切りあえ、ウコギ飯にしてほろ苦さを賞味する。
そして問題の「道端の草」は山形県では『ひょう』と呼ばれる草で、一般的には「スベリヒユ」。
皆様も「ああこれか」と思われるに違いない。グランドや畑、庭の草むしりでおなじみの、地面を這って抜いても抜いても生えてくる強い草である。でもこの草、一部で栽培もされている。
初夏や梅雨明けに青々とした小さな葉がびっしりついた太い茎を摘み、そのまま茹でて芥子醤油でいただくこともあるが、大抵は箕やゴザに広げて日に干す。若干の酸味があるので好き嫌いが別れるのだが、干すことで酸味が消えるのだ。
私が山形に居た頃は家々の玄関先や庭、屋根の上、このような乾物がむしろに広げてあった。ちょうど梅の土用干しのように。
緑の野菜が乏しい冬場、塩漬けの葉物野菜を塩抜きして煮ものにすると同様に、干し野菜の煮物もよく作られた。
特にお正月には祝の膳の中にこの「ひょう干し」の煮ものが加えられる。
『ひょっとしていいことがありますように』のげん担ぎである。
さて、今回この記事を書くにあたってインターネットで調べてみると、「ひょう」ことスベリヒユは沖縄でも夏の葉物野菜として食べられているらしい。
そして海外の情報もあった。トルコ料理でも『セミズオトゥ』と呼ばれ、市場で山積みにして売られているらしい。食べ方も生のまま刻んでトマト、チーズと混ぜオリーブ油ととレモンで味付けしたサラダ、濃厚なヨーグルトで和えた前菜、にんにくを効かせた炒め物など、美味しそうだ。
古くはローマ時代、プリニウスの『博物誌』に薬草として書かれている「ひょう」
手に入ったら是非試してみてください。
【ひょう干しの煮物】
【材料】
ひょう干し…軽く1つかみくらい
油揚げ…1枚
人参…小2分の1本
干ししいたけ…2枚
さつま揚げ…2分の1枚
(1)ひょう干しをざるに入れ、水を張ったボウルにつけ細かい砂やゴミを落とす。
(2)なべに入れ、たっぷりの水を加え、中火で沸騰させる。沸いたら火を止めそのまま一晩おく。
(3)翌日ざるにあけ、水を替えてさらし、数時間ごとに水を替える。これを2回くらい繰り返す。
(4)干ししいたけはカップ1杯のぬるま湯で戻しておく。戻し汁はとっておく。
(5) 戻したひょうの水気を絞り、2~3センチ長さに切る。油揚げ、皮をむいた人参、さつま揚げは短冊に切る。戻した干ししいたけは太めの千切りにする。
(6)ごま油大匙1で人参、干ししいたけ、さつま揚げの順に炒め、刻んだひょうと油揚げを加える。全体に油が回ったらシイタケの戻し汁とみりん大匙2、醤油大匙1を加え、汁けがなくなるまで煮る。
刻んだ板こんにゃくや白滝、打ち豆や冷凍枝豆などを加えて煮つけても美味しいです。
煮詰める事を前提に、初めは薄めに味付けしてください。
茎立ち干し(育った菜花の葉と茎を干したもの)を同様に戻して煮つけるのも、山形ではポピュラーなおかず。
トルコ風の料理法も調べて試してみたいもの。