南 伽耶子

特撮、料理、音楽が好きな主婦です。東京で地元・山形県置賜地方の料理を再現する試みを継続中。 芋煮は絶対牛肉&醤油味派。

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マガジン

  • お米の神様 ?

    昭和の暮らし、家族、ごはん。そんなものを書いてみました。 一部会話が山形県南部・西置賜弁ですが共通語字幕を入れたから大丈夫(のはず)  筆者がご近所や祖父母、両親、見聞きしたお料理ネタとレシピエッセイ。 ひとつの素材でも故郷によってお料理は様々。 取り巻く家庭模様も様々。 これは東北・山形県の、一つの家族の昭和史でもあります。

  • おいたま食堂多摩川支店です

    ご近所や祖父母、両親。見聞きした昭和的暮らしとお料理のレシピエッセイ。山形県置賜(おいたま)地方の伝統を、器用な母から不器用な娘へ。受け継がれるはずが失敗したり忘れたり。日々のご飯のヒントになるかな。

  • 推し推し日記

    推している俳優、稲葉友君について主に語ります

最近の記事

『大地の闇と孤独を取り込んで』~人気作家・鳴神響一【後編】

2018年、若き日の宮沢賢治をモデルとした全く新しい小説が世に送り出された。 20代の血気盛んな「賢治さん」が大冒険を繰り広げる『謎ニモマケズ』シリーズ。 冒頭から飛行船が登場し、外国の武装集団の影がちらつき、美しい外国人ヒロインと、遠野物語の緑濃き静謐な世界が国際的陰謀に巻き込まれていく。 知識と行動力でヒロインを救い、謎を解くべく疾走する賢治。 一見荒唐無稽に思える設定と展開に目を見張る冒険小説を生み出したのは、現代犯罪小説から絢爛たる時代小説まで幅広く手掛ける鳴神響

    • 『大地の闇と孤独を取り込んで』~人気作家・鳴神響一【前編】

      2018年、若き日の宮沢賢治をモデルとした全く新しい小説が世に送り出された。 20代の血気盛んな「賢治さん」が大冒険を繰り広げる『謎ニモマケズ』シリーズ。 冒頭から飛行船が登場し、外国の武装集団の影がちらつき、美しい外国人ヒロインと、遠野物語の緑濃き静謐な世界が国際的陰謀に巻き込まれていく。 知識と行動力でヒロインを救い、謎を解くべく疾走する賢治。 一見荒唐無稽に思える設定と展開に目を見張る冒険小説を生み出したのは、現代犯罪小説から絢爛たる時代小説まで幅広く手掛ける鳴神響一先

      • 『知りたいのは歴史的な風景よりそこでの生活〜人気歴史作家・秋山香乃【後編】

        越後・長岡藩筆頭家老・河井継之助を朗々たる筆致で描き切った「龍が哭く」は、2015年から2017年にかけて新潟日報、河北新報他10紙で掲載され、後に単行本として出版された。また、激動の会津から斗南藩、そして西南戦争の時代を題材にした「獅子の棲む国」他、人の価値観が激しく変わる時代を多く手掛けるのは、気鋭の歴史作家、秋山香乃先生。 骨太な文章とスケールの大きなストーリーテリングで、歴史の波に翻弄されながら必死であらがう人物達を、一貫して丹念に描き続けている。 同時に2016年に

        • 知りたいのは歴史的な風景よりそこでの生活〜人気歴史作家・秋山香乃【前編】

          越後・長岡藩筆頭家老・河井継之助を朗々たる筆致で描き切った「龍が哭く」は、2015年から2017年にかけて新潟日報、河北新報他10紙で掲載され、後に単行本として出版された。また、激動の会津から斗南藩、そして西南戦争の時代を題材にした「獅子の棲む国」他、人の価値観が激しく変わる時代を多く手掛けるのは、気鋭の歴史作家、秋山香乃先生。 骨太な文章とスケールの大きなストーリーテリングで、歴史の波に翻弄されながら必死であらがう人物達を、一貫して丹念に描き続けている。 同時に2016年に

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          観音裏の迷宮 第37話 口づけの仕方も知らない

          「どこでどうしていたの?」  平田は部屋の扉のすぐ前で、少女を固く抱きしめたまま尋ねた。  大層疲れて青ざめた顔をしていたので、すぐにでも畳の部屋に上げたかったのだが、ここでこうしていたいと和子は言い張った。  幼い舌足らずの口調と声だったが、彼女は昭和20年3月9日の夜に愛し合った昭島和子だった。 「わからない」  和子は一層不安げな様子を見せて腕を伸ばし、平田の首にしがみついた。 「何も覚えていないの。どこから来たのかもわからない」 「お父さんとお母さんは? 親は

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          観音裏の迷宮 第36話 訪れた少女

           平田は意に介していなかったが、ご近所や界隈の住民からの警戒ぶりには理由がある。  前年冬に起こった帝都不祥事件(2・26事件) 以来、東京全体が浮足立ち、刹那的な世相に拍車がかかっていた。  そんな中、無政府主義者や共産主義者、ソビエトのスパイと言われる者たちの逮捕摘発も相次いだ。  街には変った人物、自分達と様子が違う者を極度に警戒する空気がみなぎっていた。  だが観光地・歓楽街としての浅草は空前の好景気に沸き、六区の映画館街、芝居小屋は来る日も来る日も満員盛況。人々は東

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          観音裏の迷宮 第35話 昭和12年・浅草千束町の男

          「鶏の頭ともみじを100匁ずつ」  またあの男だよ。  目くばせしつつ囁き交わす、奥さんたちのひそひそ声が聴こえてくる。  鶏肉屋に来ては、肉ではなく目をつぶったまま切断された鶏の頭と、モミジと呼ばれる鶏の足首を買っていく若い男。  何だろうね、薄気味悪い。  吉原へと続く通りに面した浅草千束町。その商店街には様々な店が軒を連ねている。  その中でも老舗中の老舗、明治の初めから続く鶏肉屋に、目深に帽子をかぶった男が訪れるのだ。  週に2・3度ふらりとやって来ては鶏の首と、爪

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          観音裏の迷宮 第34話 死の夜

          「空襲警報発令 ! ここはもうダメだ。逃げろ !」  平田は火の粉が降り注ぐ中、懸命に叫びながら走った。  みな兵隊にとられて若い者は自分くらいしか残っていないから、町内会での役割は重い。 「貴様、何を言っておるのか!」  突然国民服の背中をひっつかまれた。  腰から軍刀を下げた男が切り殺さんばかりに、鬼の形相で睨みつけていた。  その狂気に満ちた目の光に、こいつは本気だ、斬られる、平田はそう覚悟した。  当時は「防空法」という法律が国家総動員法の下で施行されており、自

          観音裏の迷宮 第34話 死の夜

          観音裏の迷宮 第33話 炎

           第二波の攻撃は平田と和子が眠る浅草が標的となった。  深川・木場と同じ大型焼夷弾と、そこから分解して一升瓶くらいの大きさになって降り注ぐ、筒形の小型焼夷弾。  それが文字通り雨あられと落ちて来た。  とび起きた平田と和子は窓を開けた。  川の向こうが真赤な火の壁になり、崖一面の滝のように、炎が上に下にと踊っている。 「最小限身の回りのものだけ持て。身軽に足ごしらえはしっかりと、防空頭巾も」 「逃げる支度!? 消火しないと」 「馬鹿を言え。この状態で火を消そうなんてなんて、

          観音裏の迷宮 第33話 炎

          観音裏の迷宮 第32話 大空襲

           浅草の街は静まり返っていた。  たまに聞こえてくるのは隣組の防火見回りの靴音と、窓をがたがたと激しく揺らす北風の音、また遠くで鳴いているメス猫の盛っている声くらいだ。  キンと張り詰めた怜悧な夜気の立ち込める、痛いほどに暗い夜だった。  突然、警戒警報が浅草の街に響き渡った。  電柱のてっぺんのスピーカーから大音響の警戒音が鳴る。  平田と和子は飛び起きた。 「ラジオ、ラジオをつけて!」  平田は箪笥の上にある古いラジオのスイッチをいれ、二人でじっと聞き入った。 『

          観音裏の迷宮 第32話 大空襲

          観音裏の迷宮 第31話 3月9日の初夜

           二人の初めては、傍目に可笑しいほど手際が悪かった。  お互いを脱がせ合うわけでもなく、平田は自分のゲートルを足から解くのに難義し、シャツを脱ぐときに丸眼鏡を床に吹っ飛ばしてしまった。  和子もブラウスのボタンを自分で外していいものか、それとも近所の婆ちゃんに下卑た笑いと共に教えられた通り全部男にゆだねた方がいいのか迷い、ただ膝を抱えて座っていた。  平田が気付き、押入れから一枚だけの毛布を出し、和子に放った。  そして解きかけたゲートルに自分の足を絡めて、転びそうになった。

          観音裏の迷宮 第31話 3月9日の初夜

          観音裏の迷宮 第30話 3月9日の僕と君

           江戸通りをひたすら歩き、二人が平田の住む長屋に着く頃にはすっかり日が暮れていた。  立春を過ぎ、暦の上ではもう春だと言っても、体の芯まで冷えるような木枯らしはごうごうと吹き荒れていたし、巻き上げられた土埃で平田の国民服の中や、和子のひっ詰めた髪の毛の中まで汚れていた。  二人は畳の上にへたり込んだ。 「どうしたんですか?」 「ん?」 「どうしたらいいんですか? 私。あんなことになって……」 「どうもこうもないよ」  平田は破れかけた靴を脱いで狭い四畳半に上がり、肩から鞄

          観音裏の迷宮 第30話 3月9日の僕と君

          観音裏の迷宮 第29話 昭和20年3月9日

           翌、昭和20年3月9日。  路地や四つ辻で渦を巻くほどの強烈な木枯らしが、早朝から吹き荒んでいた。  浅草・花川戸の町工場は近くの中学生や女学生による建物疎開の音でにぎやかだった。  いつもは始業より早く工場に来て、仕事の準備にかかる和子だが、その日はギリギリで他の女工たちに珍しがられた。  どうしたのと同僚や先輩たちに聞かれても、気が抜けたような曖昧な笑顔で返す。 「何でもありません。昨日よく眠れなかったし早く目が覚めてしまったから」 「そうね。こう毎日のように警戒警報

          観音裏の迷宮 第29話 昭和20年3月9日

          観音裏の迷宮 第28話 昭和20年の花やしき

           言問通りから観音堂裏に入ると、途端に閑散としてくるのは、戦時下ならではかも知れない。  本来なら小さな住宅密集地の間に銘酒屋、小料理屋に娼婦宿が怪しげな明かりをともし、六区のブロードウェイから流れて来た男達が大勢行き交う町だからだ。  観音堂脇の細道に面して小さな長屋を指差し、ここが私の家、と呟く昭島和子と一緒に、平田はその家の前を通り過ぎた。  花やしきが閉園したのはいつだったろう。  確か3年前、昭和17年には強制疎開で大半の遊具は取り壊された。  今は寒々とした廃墟が

          観音裏の迷宮 第28話 昭和20年の花やしき

          観音裏の迷宮 第27話 昭和20年の浅草・3

           昭島和子には「家庭」というものの記憶がほとんどない。  小学校の同級生に聞くと「家庭」とは『ただいま』と帰るところで、母親と父親がいて一緒に食事をして寝るところだという。  彼女にとってそれは、教会の司祭館に併設された孤児院であり、父と母はアメリカ人の牧師とその妻の、青い目の牧師夫人。兄妹は同じ孤児仲間の子供たちだった。  そういう意味では彼女に悩みはなかった。  『本物の家庭』とやらを知らないので、憧れる事も羨むこともなく現況を受け入れてきた。  だが周囲は、自分達より

          観音裏の迷宮 第27話 昭和20年の浅草・3

          観音裏の迷宮 第26話 昭和20年の浅草・2

           風の音でも建物を壊すメリメリガシャーンという音でもない、何か高い音が近くでした。 平田にはその音が何か、よく聞こえなかった。 ただ胃液を吐いてのたうち回る自分の咳の音や激しい特徴的な呼吸音が激しく響いていた。  やがてぱたぱたと小さな足音と、どたどたというどた靴の音が飛び込んで来た。 「先生、こちらです」  若い娘がさけぶ。 「ああ、これは喘息の発作だな。かなり悪いが大丈夫だろう」  丸眼鏡をかけた医師はそう言うと、 「こいつおさえとけ」 と娘に言った。  無茶

          観音裏の迷宮 第26話 昭和20年の浅草・2