白石和彌監督「ひとよ」(2019年)
白石和彌監督「ひとよ」(2019年11月公開)感想
2021.7.12 石野夏実
8月例会課題作「禁じられた遊び」の感想を書いていたら、確かめたい個所が出てきたので、プライムビデオを見直そうとHPを立ち上げたら目新しい作品が目に入った。
それは、もうひとつの課題作「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017年公開)の監督、白石和彌の19年作品「ひとよ」であった。
タイトルはひらがなで「ひとよ」。
「人よ」かと思った。ところが小さな字で「一夜」と出てきた。
「ああ、あるひと晩のことなんだ、この映画の軸は」と思い、プライムのあらすじ紹介だけを少し読んで、錚々たる俳優陣を眺め、すぐに観始めてしまった。
久しぶりの田中裕子であった。地方(水戸ナンバー)の小さなタクシー会社を経営している社長が夫で、思春期の子供達、長男(鈴木亮平)次男(佐藤健)長女(松岡茉優)がいる。
母はこの3人を、高校中学小学生の時にDVをし続ける夫から守り自由にするため、雨の夜、自分が運転するタクシーで夫をひき殺した。
15年後、子ども達の前に母は現れた。
刑期は終えていて職を転々とし、ほとぼりが冷めたころ会いに来るとの約束を果たしに、甥が社長をして守っていてくれたこのタクシー会社兼自宅に戻ってきたのだった。
長男は小さな電器会社の社長の娘と結婚し女の子もひとりいて、専務と呼ばれている。妻とは相性が合わず一方的に離婚話を進められていた。
次男はエログロ三流雑誌のフリーライター。
長女は末っ子でスナックで働いている。
3人ともタクシーとは無縁の仕事で生きている。
ピタリ15年後、突然の母の帰宅。
戸惑う3人より、社長や従業員、事務員など、この家の事情を知っている人たちの方が温かく出迎えて歓迎してくれた。
タクシー車両も数台しかない小さな有限会社のタクシー会社。
田舎に行けば、よくある風景かもしれない。寄り添い合って生きている。
そこへひとりの新人が入社した。
社長が良い人なのですぐに雇い入れた。そのあとも、この新入りの給料の前借10万にも応じた。この新入りを佐々木蔵之介。足を洗ったヤクザだった。
口には出さないけれど、母と新入りには共通点がある。そして子供のためには何だってする覚悟がある。
と、あまりネタバレをしてしまうと面白味がなくなるので、この辺にして。
ラストが救われる。この家族は、多くの悲しみを乗り切ってきたから、どんなことがあっても生きていかれるだろう。
田中裕子を筆頭に、松岡茉優、佐々木蔵之介、佐藤健、鈴木亮平、そして社長役の音尾琢真、運転手の浅利陽介と韓英恵、事務員の筒井真理子など実力俳優でみせることができる映画であった。
ただ観終わってすぐに、もっと知りたい個所がいくつか出てきた。
母親は、夫からの暴力を受けていなかったのであろうか。
それと繰り返してここまできてしまったDVであったなら、もっと早く止めることができなかったのであろうか。
この母は、強い。タクシーの運転手もできる。
子供たちを連れて家を出ても、15年前なら何とか生活出来たはずだ。
それと佐々木蔵之介の元やくざの話。17歳の息子との関係。もっと突っ込んでもいい話だと思った。この話だけで映画が1本撮れるのではないだろうか。
主役は、小さなタクシー会社のセットだったのかもしれない。一番リアリティがあった。
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