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縄文時代とは?定住とは?知ってるようでわかってなかった縄文時代「の」歴史が分かる本『縄文時代の歴史』(山田康弘著)

縄文時代に興味を持って色々見ていると、なんとなく縄文時代というものがわかってくる。草創期から晩期という区分とそれぞれの特色だったり、地域による違いだったりといったものだ。そしてそのバリエーションの豊富さにどんどんハマっていくわけだが、逆に、こんなにバリエーションに富んだものを一つの文化と呼べるのだろうかという疑問が頭をよぎることもある。

そんな疑問に答えてくれるのではないかと手にとったのがこの本だ。

縄文時代「の」歴史

タイトル通り、縄文時代の歴史を丹念に説明した本。と書くと、なんてことはなさそうだが、縄文時代「の」歴史について詳しく書いた本というのは意外とない。この本の冒頭にもあるが、縄文から現代までを日本の歴史とすると、縄文時代はその約8割を占める。そんな長い時代が一つの時代として説明するのには無理がありそうなのに、大体の歴史の本はひとまとめに論じている。だから、その縄文時代を細かく説明してくれる本が欲しかったのだ。

この本は、本当に理路整然と縄文時代の歴史を説明していく。まず、いつからいつまでを縄文時代とするのか、つまり旧石器時代、弥生時代との区切りはいつなのかを論じる。そして次に、縄文時代をどう区切るのかを論じ、伝統的な草創期、早期、前期、中期、後期、晩期という区切りを活かしながら、前期と中期、後期と晩期をまとまった時期として4つに区切るやり方を提案する。そして、その4つの時期がどんな時期であったのかを順に解説していくという丁寧な構成になっている。

本当に縄文時代がどんな時代だったのかをしっかりと、しかも最新の学説に拠って知ることができる縄文時代を知るための教科書だ。

わくわくするのは縄文人の「暮らし方」

という本なので、読んでもらうしかないし、縄文について知りたいなら読むべき本だと言えば感想としては十分なのだが、せっかくなので個人的にワクワクしたポイントをいくつか上げながら、この本に拠って縄文時代の捉え方がどう変わったのか(変わらなかったのか)書いてみたい。

草創期の部分では、土器の誕生というのが気になるポイントだった。そこで面白かったのは、草創期の段階ではまだ定住と言える段階ではなく、いくつかの拠点を行き来しながら暮らしていたという部分だ。遊動的生活をしながら土器という便利な道具を得て暮らしが豊かになっていくそれが草創期だったというのは、物語の始まりとしては最高ではないか。

早期に入ると人々は定住していく。土器が定着し保存食を作れるようになると、移動するよりも蓄えた食べ物で暮らすほうが容易になって定住するようになったのではないかということだ。

それはいいのだけれど、定住することで移動生活にはない様々な社会問題が生まれ「社会複雑化」が起きる(この定住の問題については柄谷行人さんの『世界史の構造』にも出てきているのでいつかここで書きたいと思う)。

それはさておき、早期においては定住の進展や集落の大きさには地域差が大きいが、漆製品や装飾品が出てきたり、土偶も増えてきたりしていよいよわたしたちの好きな縄文時代が始まったという感じがする。

そしていよいよ縄文の黄金期、前期・中期。御存知の通り縄文海進が進み、豊かな生活が送られるようになった時代。ここでは、詳しくは書かないが、低湿地の利用や、漆製品から見える縄文人の豊かさ、墓制から社会構造を推測し、地域によっては「特別な人物」が存在していたのではないかと論ずるなどおもしろポイントがたくさんある。さすが黄金時代。

後期・晩期では、後期の入り口で一時的な寒冷化が起き、人口減少、集落の小規模化などが起きたことで、社会と文化が大きく変容する。ただ、中期までに培われた集落間のネットワークは残存し、塩、石、装飾品など様々なものが遠隔地へと運ばれる時代だったというのは面白い。

一部地域では社会の階層化が起き、晩期に入ってすぐ九州には灌漑稲作が導入され、亀ヶ岡文化と初期稲作が併存する時代を迎える。このあたりの縄文と弥生のせめぎあいはエピローグへで詳しく書かれていて、西から東へと稲作が広まっていったイメージは必ずしも正しくないこともわかるし、社会の複雑化や階層化が古墳時代以降の社会構造に影響を与えたのかなどの問題も提起されている。

読み終わってみればまだまだわからないことだらけなのだけれど、今わかっていることはスッキリとわかって、土器のキャプション一つでも見え方が少し変わるかなという気はした。


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