決して引き下がらない女たちはプーチンを倒せるか、いや倒してほしい。(マリヤ・アリョーヒナ著『プッシー・ライオットの革命』)
ロシアで2011年に結成され、反プーチンの活動を続ける女性パンクバンド「プッシー・ライオット」。その主要メンバーの一人マリヤ・アリョーヒナ(マーシャ)による「獄中記」がこの本『プッシー・ライオットの革命 自由のための闘い』(2018年、DU BOOKS)だ。
プッシー・ライオットは2012年、大聖堂で反プーチンソング『パンク・プレイヤー』を演奏するパフォーマンスを行ったことで、指名手配され、マーシャを含む3人のメンバーが逮捕。マーシャは裁判で2年の刑期を言い渡されて投獄される。
この本は、マーシャ自身がパフォーマンスから、逮捕、交流、裁判、刑務所でのさらなる抗議活動を綴った「獄中記」になっている。
マーシャの勇気と実行力
この本にはいろいろな要素があるが、何より心を打たれるのは、マーシャの不屈の精神だ。理不尽さに折れることなく国家権力に戦いを挑み、裁判でも折れず、刑務所でも折れない。その行動を見るだけで勇気づけられるし、こんな世の中でも希望はあるんだということを教えてくれる。
彼女はこんなことを書いている。
本当にすごいとしか言いようがない。それがこの本を読んだ正直な感想だ。
もちろん、すごいすごいと行っていてもしょうがないので、彼女がそんな行動を取らなければならない理由もこの本からはわかる。それは彼女が受ける理不尽な仕打ちに現れる。
理不尽が通ると地獄が訪れる
プッシー・ライオットは反体制ということで目をつけられて逮捕されたわけだが、その容疑は政治的なものではなく、簡単に言えば「教会に対する冒涜」で、大聖堂で下品なパフォーマンスをして人々を傷つけたことで捕まる。
ちなみに、そのパフォーマンスはこのようなものだ。
それに続く理不尽な逮捕と理不尽な裁判によってマーシャは2年間の刑務所生活を余儀なくされる。このようなことはロシアでは今に始まったことではない。マーシャはソ連時代強制労働収容所を体験した作家ヴァルラーム・シャラーモフの『コルィマ物語』からこんな言葉を引用する。
ロシアの政府は今も昔も、無理を通して道理を引っ込まさせてきたのだ。彼女はこんな言葉も引用している。
ロシアでは正直でいることさえ難しい。そこまで理不尽が通り、人々は行動を起こすこともできないのだ。
引き下がらなければ光は見える
マーシャも刑務所に入ってしばらくはその理不尽さに服従せざるを得ない。しかし、彼女は引き下がらない。自分が独房に入れられることが理不尽だと感じたことから、刑務所の待遇改善を訴え始める。
そして裁判で、刑務所のひどい状態は法律に反しているうえ、看守たちは私腹を肥やそうと囚人のそもそも少ない給料を着服するなどしていたことが明らかになる。それで看守がクビになったり、あたらしいマットレスが支給されたりして、マーシャは小さな勝利を掴む。
最初の引用の通りマーシャは一歩も引き下がらない。本当に感心するばかりだ。
しかし、彼女の小さい勝利は体制を変えることはできない。彼女の起こした革命はとかげの尻尾切りに過ぎず、プーチンを始めとした権力者はびくともしない。なぜなら彼らも引き下がらないからだ。
この「過ちを認めることができない」という事実が、現在のウクライナ情勢のさらなる悪化を招いているのだろう。私たちはウクライナを支援することも大事だけれど、ロシアで権力と戦うプッシー・ライオットのような人たちも支援しなければならない。権力を打ち倒すことができるのは彼女たちのようなロシア国内の正直な人たちなのだから。