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京から旅へ/インド仏跡巡礼(40・完)/サルナート④ダメーク大塔
ダメーク大塔は大きく、見る者を圧倒する。が、どこか愛らしい。
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角度にもよるが、ヌーボーみたいに目の離れた、ユルキャラが、
茶の烏帽子を被り、地面から顔を出しているみたい、だからだ。
とは言え、高さは43.6mm、底辺の直径も36.6mもあり、周囲だって、
単純に、直径×3.14で、計算しても114.9mはある。それだけに、
近づくほど、塔の巨大さと、人々の抱いた信仰の高さを感じる。
大きな砂岩を積んだ塔の周りには、アーチ状の小窓みたいな凹み
が八か所あるが、この高さだけでも、大人の背丈程はある。
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かつてはこの凹みの中、夫々に、グプタ王朝時代に彫られた石仏
が座られていたが、今は剥ぎ取られ、黒い痕だけが残っている。
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だが、塔の壁面には、19世紀末に芽生えたアール・ヌーボー的な
つる草の曲線デザインと、卍を崩した幾何学模様のシルエットが、
主張し合い、融合し合い、過去の栄華を抜け目なく、刻んでいた。
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そして、大塔の頭上の青空では、白い雲が広がり、ただ悠然と
あるがままに、常に形を変えながら、静かに流れていった。
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まるで。釈尊(ブッダ)の、諸行無常の教えを示すかのように…、
インド仏跡巡礼の連載ブログは、ここで完了する。
実際は、ダメーク大塔の後、考古博物館、ムルガンドゥ・クティ
寺院等を観てからサルナートを離れ、夕方の4時半にベナレス空港
を飛び立ち、バンコクで乗継、翌朝の6時25分に関空へ戻るのだが、
考古博物館は撮影禁止で、載せる写真が無いのと、ムルガンドゥ・
クティ寺院と共に、以前、簡単に紹介したので省略した。
と云うよりも、釈尊(ブッダ)の四大聖地(誕生、悟り、初転法輪、
涅槃の地)について、一通り書いた後であり、インド仏跡巡礼の
テーマに絞れば、これ以上は余分と思えたからである。
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兎にも角にも、2014年2月25日から書き始めた、本ブログもこの
40話でやっと完了した。本日、2015年9月25日で、1年7か月。
その間、2度もFBで、誕生日おめでとうのメッセージを頂いた。
日にちにすると574日、40話で割ると14.35日。約一話2週間平均。
仕事や外泊があっても、恐るべき、筆の遅さである。のだが、
浅学非才な凡夫が、インド仏跡巡礼を書くには、やはり、多くの
本から学び、様々な情報や考えを得ながらも、それを鵜呑みせず、
自分なりに発酵させ、手探りでまとめる工程も必要であった。
結果として、何とか連載ブログは終えることができたが、改めて
釈尊(ブッダ)が、初めに説かれた教えである、原始仏教について、
まだまだ学びが足りないことを、痛感した。
最も、今回のインド仏跡巡礼は、釈尊(ブッダ)の四大聖地を巡った
旅の記録でもあり、終り際の38話/中道と39話/四諦の話で、若干、
書いただけで、あまり触れる機会もなかったのだが…、
今後はもっと釈尊(ブッダ)の原始の教えについて、ポイントを絞り、
原始仏典も含め学び、解り易くお伝えできれば、と考えている。
釈尊(ブッダ)の原始の教えは、哲学である。
その哲学が、釈尊(ブッダ)が生きた時代も、国も、人種も、制度も、
死生観も異なる、現代の日本で、心の閉塞感が漂う今の日本の中で、
少しでも、凡夫が生きる指針となりえるのか?が、探れたらと思う。
そう言う意味では、釈尊の死後に造られた仏塔などの仏跡とは違う、
心の中に残る“仏跡”への巡礼は、これからが始まりだと、云える。
インド仏跡巡礼、完了。
【インド仏跡巡礼/参考資料一覧】
■手塚治虫「ブッダ・全八巻」潮出版社
■中村元訳「ブッダ最後の旅」岩波書店
■中村元「ブッダ入門」春秋社
■中村元・田辺祥二「ブッダの人と思想」NHKブックス
■奈良康明「ブッダ知れば知るほど」実業之日本社
■宮本啓一「仏教誕生」講談社学術文庫
■宮本啓一「ブッダが考えたこと これが最初の仏教だ」春秋社
■保坂俊司「インド仏教はなぜ亡んだか」北樹出版
■丸山勇「ブッダの旅」岩波新書
■巨新蔵「原初の仏教」けいせい出版
■ブックス・エソエステリカ「釈迦の本」学研
■ブックス・エソエステリカ別冊「図説ブッダの道」学研
■歴史がおもしろいシリーズ「図解ブッダの教え」西東社
■いちばんやさしい「ブッダの教え」西東社
■高瀬広居監修「ブッダの教え」青春出版社
■白鳥春彦監修「ブッダ」宝島社別冊
■龍谷ミュージアム編「釈尊と親鸞」宝蔵館
■前田行貴「インド仏跡巡禮」東方出版
■山崎玄一著「世界の歴史 古代インドの文明と社会」中央公論社
■小西正捷・岩瀬一郎編「インド歴史散歩」河出書房新社
■高橋修史編著「80分でわかるインド」ATパブリケ―ション
■門倉貴史「今のインドがわかる本」三笠書房
■ブックス・エソエステリカ「ヒンドゥー教の本」学研
■森本達雄著「ヒンドゥー教 インドの聖と俗」中央新書
■クシティ・モーハン・セーン、中川正生訳「ヒンドゥー教」講談社現代新書
■リチャード・ウォーター・ストーン、藤沢那子訳「インドの神々」創元社
■ジャン・ボワスリエ、木村清孝監修「ブッダの生涯」
■B.B.アンベードカル、山際素男訳「ブッダとそのダンマ」三一書房
■ティク・ナット・ハーン、池田久代訳「小説 ブッダ」春秋社
■藤原新也「印度放浪」朝日文庫
(2015年9月25日 記)