ファンマネジメント(2)
前回の記事では、ファンが形成するグループを、コミュニティ感覚(Sence of Community)の側面から述べた。この記事では、ファンの階層構造および負の側面について述べる。
まずファンには、ファン活動に使う時間・お金といった熱量に応じて、階層構造があると考えられる。ビールを中心としたエンターテインメント事業を展開しているヤッホーブルーイングでは、ファンを、その熱量の低い順から ①一般消費者 ②好き ③ファン ④熱狂的ファン ⑤伝道師 の5つに分類している[熱狂顧客がなぜ冷める(日経ビジネス2018年11月19日号)]。従って、ファンをマネジメントする際は、この階層に応じたきめ細やかなマーケティングや顧客管理が必要となる。
基本的には、前回の記事で述べたSCI(Sense of Community Index)のスコアの高低によって、上記5つの階層にファンを分類できると考えられるが、まだ実証研究が出揃っていないので、SCI使用の際には注意が必要である。
また、ファンあるいはファンダムには負の現象が出現する場合もある。その一つはアンチの出現である。このアンチファン(anti-fan)、アンチファンダム(anti-fandom)の出現に関しては、通常のファン研究に比べて研究蓄積が少ない[Harman & Jones(2013)]。しかし、SNSの発展により、今日的にはアンチの発言が容易に拡散され、アンチファンが形成されやすい状況にある。この状況が度を超すと、最悪、タレントやアーティストの自殺に結びつく場合があることは周知の事実。アンチ形成のメカニズムの解明と、それに基づく実務上の対応策の検討は喫緊の研究課題と考える。
もう一つの負の現象は、あるファンコミュニティに対して、そのイメージだけで、部外者がネガティブなレッテルを貼り付けてしまうことである。このネガティブなレッテルは、スティグマ(stigma)と呼ばれる。例えば、アメリカで「スタートレック」の熱心なファンのイメージは、コンピューターオタクの男性、いわゆる "geek" な人たちとなる[Cohen, Seate, Anderson & Tindage(2017)]。このスティグマに関してもいまだ研究蓄積が少なく、コンテンツ提供者側/ファンクラブ運営者側が、実務上どのように、どこまで関与すべきかも分かっていない。
前回の記事と合わせていえば、ファン研究はまだまだ発展途上であり、更なる研究の蓄積が必要な領域といえる。
参考文献
『熱狂顧客がなぜ冷める』日経ビジネス2018年11月19日号
Harman, S. and Jones, B. [2013], "Fifty shades of ghey: Snark fandom and the figure of the anti-fan," Sexualities, Vol. 16(8), pp.951–968.
Cohen, E., Seate, A., Anderson, S., and Tindage, M. [2017], "Sports Fans and Sci-Fi Fanatics: The Social Stigma of Popular Media Fandom," Psychology of Popular Media Culture, Vol. 6(3), pp.193–207.