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情報社会を生き抜くための本36「学校UPDATE」情報化に対応した整備のための手引(堀田龍也外4名)

いよいよGIGAスクールが前倒しになって本格的にスタートする。本書は、GIGAスクール構想を踏まえて学校のUPDATEを行うための「はじめの一歩」(手引書)として書かれている。執筆代表者は文科省の情報化政策の要となっている堀田龍也さん(東北大学教授)だ。

稲垣忠さん(東北学院大学教授)の分担した「育てたい力のアップデート」に次のように記されている。
「『学力』は、現代社会を生きる基礎的な力であり、文化・学問を体系的・系統的に整理したものでもあります。従来の学力観の前提には、社会は順調に漸次的に発展していく社会という認識がありました。総論でみたように、社会は急激に変化していきます。変化する社会に柔軟に対応できる力をめぐって、キー・コンピテンシー、21世紀型能力、非認知能力など、さまざまな概念が登場しました。OECDでは『新たな価値を創造する力』『対立やジレンマを克服する力』『責任ある行動をとる力』を掲げています。新学習指導要領では、『資質・能力』と呼んでいます」
かいつまんで言えば、「学力」から「資質・能力」へと育てたい力は変化(アップデート)したというのだ。この論は決して新しいものではなく、ずっとその筋の関係者は言い続けてきたことだ。しかし、あえて稲垣さんは、冒頭にこの文を書かねばならなかった。関係者が当然皆理解しているべきことが、まだまだであるという認識を稲垣さんはもっているからだと思う。私もそう思う。

長らく日本の教育界は不毛な「学力論争」に明け暮れていた。しかし、前回の指導要領から実は「学力重視」(コンテンツベース)から「資質・能力重視」(コンピテンシーベース)へと切り替わった。しかし、学校現場では相変わらず「学力」が問われ、マスコミも「学力低下」をあおる報道をしている。文科省自体もいつまでも「全国学力テスト」の呪縛から逃れられていない。子どもたちにとって重要なのは「全国学力テスト」や「入試学力」ではなく、21世紀を生き抜く「資質・能力」なのだと10年前から変わったはずなのに・・・。今回の学習指導要領では、この点をかなり力を入れて説明を行っている。情報社会の進展、society5.0、DX(デジタルトランスフォーメーション)が目前に迫っており、資質・能力の向上が必須になってきているからである。いつまでも不毛な「学力偏差値での比較」をやめてほしい。

学力と資質・能力にひっかかって寄り道論をしてしまったが、この本にはGIGAスクールに向けて授業改善の事例や、授業づくりのポイント、環境整備や体制整備のの基本的事項が書かれている。文科省の描いたイメージ図を見て、すぐに理解できる者には不要であるが、学校現場教員にとっては「いまさら聞けない」という基本的なことがきちんと理解できるように工夫されている。苦手意識をもつ教員にとってはたいへん役に立つと思う。このような本が欲しかった。ICT関係の用語は、説明すれば説明するほど専門用語が出てきて、かえって混乱を増してしまう。教師の資質・能力もアップデートする必要があるのだ。


「学校UPDATE」情報化に対応した整備のための手引
堀田龍也外、為田裕行、稲垣忠、佐藤靖泰、安藤明伸
さくら社  2020




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