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情報社会を生き抜くための本35「レイヤー化する世界」テクノロジーとの共犯関係が始まる(佐々木俊尚)

この本が書かれたのが2013年。ITの進化により世界システムが変化し、民主主義の崩壊とともにレイヤーという概念で個人が社会に規定されるようになると論を起こしている。2020年、コロナ禍の社会では確かに民主主義は崩壊しつつあるし、レイヤー化は進んできたと思える。レイヤー化の世界でどう生きるかをこの本では提示しているが、現実としてはコロナ禍で中国のデジタル全体主義が勃興してきている。このことをどうとらえればいいのか、再読してみた。

レイヤーというのは、階層あるいは層のこと。アニメやイラストをコンピュータで作ったことがある人はイメージがすぐに湧くと思う。コンピュータで絵や図を描くときには、レイヤーに絵を何層にも重ねて描きながら仕上げていく。佐々木氏は、社会がレイヤー化し、個人はそれぞれの属すレイヤーで生活していく姿をイメージしている。社会のレイヤー化は、テクノロジーの進化によってなされ、個人の属性はそのレイヤーにあるという。ネットによって横につながっていくということなのだろう。

レイヤー化に至る社会構造(世界システム)の変遷としてこの本は構成されている。第一部は中世の帝国主義、第二部は近代の民主主義、そして第三部を未来としてレイヤー化した世界を位置づけている。民主主義が崩壊し、世界のシステムがレイヤー化しているというのがこの本の論点である。

レイヤー化を推し進めるのは「第三の産業革命」(ITテクノロジー)である。佐々木氏はこのことを次のように書いている。「コンピュータにとインターネットによる第三の産業革命が進行していくと、ウチとソトという区分けは意味がありません。インターネットによってただひとつの<場>のようなものがつくられ、その<場>はインターネットに接続している限りすべての人々に開放され、無限の広がりを持つからです。その<場>では、かつてウチだった人たちは優位性をなくし、ソトだった人は前よりも活躍できるようになります。強かったウチと、弱かったソトはガラガラポンと混ぜなおされるのがインターネットの<場>なのです。」

ただ、2013年に佐々木氏が予想した以上にレイヤーは別の面を表すようになってきていると思う。横のつながりで確かにいろいろな制約をぶちこわしていったのは確かなのだが、レイヤーが新たな階層社会になっていったのではないだろうか。

また、民主主義の崩壊はたしかに「アラブの春」から始まったと思われるが、レイヤーの中で強固な自己形成に結びつき民族主義、自国主義が進んだ。広い世界観には結びつかなかったのだ。さらに中国は、民主主義国家ではとうていできなかった短期間での国家によるデジタル化をはたし、コロナ化でも強い統制による感染爆発を抑え込むことができた。デジタル社会主義の勝利という主張も聞こえる。国家統制はたしかにスピードある変革に有利なのだ。この本の中では予想しきれないような変革がこの7年間であったと考えられる。もっとも民主主義国家はそのしがらみにより変革に手間がかかるが、途上国ではリープフロッグ(カエル跳び)と言われう急速な変革が可能だと予測をしている。中国はまさしくリープフロッグをなしえた。

「レイヤー化する世界」テクノロジーとの共犯関係が始まる
佐々木俊尚
NHK新書  2013







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