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飛行機の本#18夜間戦闘機-戦闘日誌1941-1945(J・H・ウィリアムズ)

 第二次世界大戦中イギリス空軍のパイロットだった筆者の戦闘日誌をもとにした5年間の物語である。1941年、スピットファイアのパイロットだった兄に憧れ、志願して双発戦闘機のパイロットになる。20歳の時だ。それから戦争終結まで、双発戦闘機に備えるレーダーのテスト開発に従事しながら、夜間の哨戒任務をこなす。

レーダーのテストをするために作戦行動(ミッション)としての任務につくことは少ない。敵に出会うことは少ないが、日中、夜間と間切れなく出撃を続けなければならない。当初はブリストル・ブレニムで訓練が行われ、その後ボーファイターに転換し、モスキートと変わっていく。レーダーもドイツとの戦いでどんどん進化していく。日中は、そんなレーダーのテストのために飛ばなければならない。そのまま夜間はイギリス本土にやってくるドイツ爆撃機に対しての哨戒任務に着く。ハードな仕事だ。

戦後、自分の書いた戦闘日誌をもとにして追補するという独特の形式で書いている。戦闘日誌は淡々と綴られているが、その時の思いや書けなかったことをドキュメンタリーとして綴っている。

たとえば、戦闘日誌には「1943年10月18日 爆撃機擁護のためハノーヴァーへ。何事もなし。」と書かれている。しかし、実はそうではなかったし、忘れられない場面を目撃もしているのだ。「日誌には『何事もなし』と記入したが、この頃私は難しい時期にさしかかっていた。どんな天候の下でも夜間飛行を続けたことや、敵の領空の上を一度に飛んだことがないことなどの累積が私の神経に作用して、”ピクリ症”の兆候があらわれた。・・・(それだけではない)・・・「そのうち前方にひろがった雲を通して赤い炎の色がぼんやり見えてきた。接近するにつれて、赤い区域が分かれていくつかの火になり、さらに近付いて雲の切れ間から調べると、それが燃え上がっているのが見えた。爆弾が投下され地上で爆発する時の衝撃を目の当たりに見たが、それはハノーヴァーの町が組織的に裂きちぎられ、空軍の破壊力とはこのようなものだという恐ろしい実例だった。・・・下を見ると火は依然として激しく燃え上がり、われわれが基地に向かった後も長いことそれが見えた。下界に展開されている悲惨や困苦についてはあまり考えないで、目印になる地点や気づいた敵の電光標識などをノートしながら帰投した。この作戦中、私は終始、牛のように汗のかきどおしで、帰着した時は絞るほどだった。これで”何事もなし”とはね・・・。」

実際には、汗をしぼれるほどの強烈な印象をもったのだ。しかも、何十年もたってからもこのときのストレスからぬけられないでいるのだ。戦闘日誌には「何事もなし」と書いたハーノーヴァーへの爆撃行のことだ。

ドイツへの夜間爆撃行はランカスターなどの爆撃機が担った。落とした爆弾でドイツの都市が壊滅する。高射砲やドイツの戦闘機で多くの爆撃機は撃墜されたり破壊されたりする。ランカスターの尾部銃手の寿命はミッション4回と言われていた。そのような爆撃行にはモスキートがパスファインダーとして先行する。爆弾を落とす場所を照明弾を落とすことで目標をわかりやすくするのだ。


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ブリストル・ボーファイター
第二次世界大戦時のイギリスの双発戦闘機。長距離飛行ができる双発の重戦闘機として開発されたが昼間戦闘機とするには性能不足であったが、余裕のある搭載量で夜間戦闘機や戦闘雷撃機などとして活躍した。

筆者は、操縦のためのメーターやスイッチ類の配置など使いやすく設計されていたと書いている。「車輪を上げるレヴァーはちょいと手を伸ばせばとどくし、スウィッチの配置も考えたもので、いくつか小分けにしてまとめてある。だからパイロットは、夜でもスウィッチの一つ一つが手ざわりでわかるわけだ。トリム・タブの調整装置も右手ですぐとどくし、一つ一つがなめらかに自然に働くようになっている。何よりありがたいのは、座席からは機外も機内も実によく見えることだ。<ブレニム>の計器類は盲目飛行用の操作盤本体からはなれており、操縦席の見やすい場所に一つにまとめていない。でたらめに一箇所に放り込んだようなものだった。」ボーファイターの前に乗っていたブレニムは扱いにくいため操作ミスにより墜落する機体もあったという。高性能機として評価の高いモスキートは操縦席が並列でせまく、レーダー航法士ととなりあって座るためにいろいろからまったという。

デ・ハビランド・モスキートについては
飛行機の本#10海辺の王国(ロバート・ウェストール)で紹介している
https://note.com/ishimasa/n/n5ad05ef690e9

夜間戦闘機 戦闘日誌1941-1945
J・H・ウィリアムズ
渡部辰雄、宇田道夫 訳
ハヤカワ書房    昭和52年



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