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飛行機の本#10海辺の王国(ロバート・ウェストール)

時代は1942年くらい。戦争初期のドイツ軍の侵攻をかろうじて食い止めたイギリスの海岸周辺が舞台。まだドイツ軍との戦いは拮抗している。ドイツ軍の都市爆撃で家族や家を失った12歳の少年の物語だ。微妙な年齢である。男の子が自立心を芽生えさせる時期だ。少年は、きらいなおばさんや警察などの自治組織に頼るくらいなら自分一人で生きようと決意し放浪する。何よりも同じく焼け出された犬と知り合ったからだ。見つかれば犬は処分されてしまう。

母の言ったことや父の所作を思い出しながら、少年は生きるための知恵を身に付けていく。「おたおたすんな、まず、考えろ。ぼうず、考えるんだ」。ママが用意してあった非常持ち出し用のカバンをもち犬といっしょに放浪を続ける。犬は、いつも元気だ。戦争は関係なしで、冒険を楽しんでいるようにも思える。少年にとっては食べること、寝ること、生きることすべて厳しい。いろいろな人と知り合い、いじめられたり、助けられたりしながら、生きる力を育てていく。

戦争の時はこのような子供達がたくさんいたのだろうな。「火垂るの墓」と同じようなシチュエーションだ。「白旗の少女」もそうだ。国は関係なく、戦争の中で多くの子供達が生きるために強くならねばならなかった。

この本に飛行機が出てくる場面は一箇所なので「飛行機の本」と言いづらい。ロバート・ウェストール作品つながりで取り上げた。主人公がイギリス空軍の爆撃演習を浜で見る場面。「とうとう爆撃機がやってきた。イギリス機だ。最初の爆撃機が来たのは、二人が浜にでて、2時間ほどもしたころだった。じりじりと海辺をなめるようにして、ビーコン・ポイントやスカーズのあたりをぐるぐるまわっている。ぱたぱた・・・ごー・・・きーん・・・エンジンの音はしだいに大きくなる。黄色の横腹から、湾におだやかに浮いている黄色の標的めざして小さい爆弾がばらばらとおちてくる。ハリーが、見たこともない爆撃機だった。パパが持っていた雑誌や、航空機カタログには、こんなのはでてなかった。鼻づらは小さく、とがってかたく、二つのエンジンもとがっていて、尾翼はだえん形だ。新型らしい。」

物語の流れとあまり関係はないのに、ロバート・ウゥストールはここまで詳細に書いてしまう。「爆撃機・横腹から小さい爆弾・新型機・鼻づらが小さくとがっている・二つのエンジンもとがっている・尾翼はだえん形・低高度での投下訓練」おそらくデ・ハビランド モスキート爆撃機だろう。秘密爆撃などで使われたので訓練中のシーンなのかもしれない。あくまでも推測ですが。


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デ・ハビランド モスキート
第二次世界大戦中に開発されたイギリス空軍機。特徴は、機体が木製だったこと。木製にすることで家具職人や木工職人が制作に参加できた。戦時体制が生んだ苦肉の策だが、レーダーにひっかからないという利点も生じた。双発の戦闘機は各国で制作されたが、ほとんどが失敗している。このモスキートは極めて高性能で、戦闘機、爆撃機、偵察機として活躍した。ただ、雨が続くと木が変形したとかキノコがはえたという話もある。デハビランド社はこのモスキートをカナダでも生産した。カナダ・デハビランド社は、戦後も生き残り、現在のボンバルディア・エアロスペースへとつながる。

モスキートだとするとフランスのレジスタンスとの共同作戦が有名だ。その訓練だったのかもしれない。「633爆撃隊」という映画にもなった。

「海辺の王国」
ロバート・ウェストール 作
坂崎麻子 訳
徳間書店 1994



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