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飛行機の本#29 アブロ・ランカスター爆撃機(鈴木五郎)

アリオット・ヴァードン・ロー(A.V.ロー)は、1909年イギリス人ではじめて飛行機を自作して74メートル飛んだ。イギリスにおける飛行機のパイオニアだ。本書は、そのA.V.ローの生涯を軸に、最終的にイギリスを勝利に導くことになったランカスター爆撃機の活躍を描いている。ジグゾー法という学習がある。いくつかの班が異なる視点から調査を行い、それぞれの情報を共有して全体像を浮き上がらせる学習法である。この本は、ジグソー的な手法でランカスター爆撃機の全体像にせまるような書き方をしている。ランカスター爆撃機の作戦、A.V.ローの物語、アブロ社の飛行機、戦後のアブロ社のあゆみである。時系列で語るのではなく、それぞれの章が独立していて全体を構成している。

A.V.ローは、アフリカ郵便会社の汽船の技師だったが、船のまわりをグライディングしているアホウドリを見ていて、自作の模型をつくることから出発した。模型飛行機から実際の飛行機をつくるまで、馬鹿にされたり資金に苦労したりと他の国のパイオニアと同じ辛苦をなめてようやくジャンプ飛行に成功する。飛行機会社を設立し、社名をA.V.ローからそのままアブロ社とする。

1910年代にアブロ社は画期的な練習機アブロ504を生み出した。後に第二次世界大戦で活躍するイギリス軍パイロットはみなこの練習機で育つことになる。1914年から18年前での第一次世界大戦とその後で1万機以上もつくられたという。当然、日本にも入ってきている。

その後は、哨戒機アブロ・アンソンがヒットし、世界中で軍用、民間用を含めてやはり1万1千機以上も作られた。

第二次世界大戦では、バルチャーという特殊なエンジンを積んだマンチェスターという爆撃機を開発する。バルチャーエンジンは、二つのV型飛行機エンジンを組み合わせてX型にした双発エンジンで、トラブル続きで失敗におわる。そのエンジンを汎用性のあるロールスロイスマリーン4発に換装して作り直したのがアブロ・ランカスターである。このランカスターが、「不細工でおよそスマートというにほど遠い」と言われながらも、頑丈でタフで搭載量や速度も他の飛行機を抜いて性能も良く、イギリス空軍がドイツへの侵攻作戦で八面六臂の大活躍をするのである。

ドイツへの爆撃を行ったイギリス空軍の全爆弾投下量の三分の二がランカスターのものによるものだ。また、出撃回数40回で1機損失という損失量は、他の機種にくらべ小さく安心感を抱かせたという。でもそれって、怖い統計数値だ・・・・。ハリファックス爆撃機が31対1、ウェリントン爆撃機が27対1、スターリング爆撃機は18対1だったという。

戦後ランカスターを旅客機化するが、失敗。専門の旅客機も輸送機も失敗。三角翼ジェット戦闘機でようやく息を吹き返すとういう状態だった。今はその精神が引き継がれているのみでアブロ社はない。

アブロ・ランカスター
アブロ社が開発したイギリスの大型爆撃機。4基のロールス・ロイス・マリーンエンジンを積んだ戦略爆撃機。ドイツに対する夜間の戦略爆撃で活躍した。
「1942年から1945年にかけてランカスターは156,000回の作戦に従事し、合計で608,612トンの爆弾を投下した。作戦行動中に3,249機が失われ、100回以上の作戦に成功したランカスターは35機に過ぎなかった。」という記録がある。
乗員:は7名(パイロット・航法士・機関士・爆撃手・無線士兼機首銃手・背部銃手・尾部銃手)である。

<ランカスターの出てくる本>

セイラ・パターソンの「遠い夏の日」
https://note.com/ishimasa/n/n16979f809cbc?magazine_key=md6976e797df7

レン・デイトンの「爆撃機」
https://note.com/ishimasa/n/n4ad1c59bdf99

『アブロ・ランカスター爆撃機』
鈴木五郎
光人社NF文庫   2006




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