情報社会を生き抜くための本53「デジタル・デメンチア」子供の思考力を奪うデジタル認知障害(マンフレド・シュピッツァー)
デジタル・デメンチアとは「デジタル機器を原因とする認知障害」と筆者が紹介している。もともとは韓国の医者のグループが、デジタル・メディアの過剰被曝によって記憶障害、注意障害、集中力障害および感情の皮相化、一般的な感情の鈍麻という病像を指して名付けた言葉だという。
「脳はその使用を通して絶えず変化し続けるという事実があります。知覚、思考、体験、感情、行為、これらはいずれもいわゆる記憶痕跡を残します。・・・脳がつねに学習しているとすると(脳には学習しないということができません)、デジタル・メディアで過ごした時間もまたその痕跡を残すことになります。この場合注意すべきは、われわれの脳は進化の産物だということです。つまり脳は長い時間をかけて特定の環境条件に適合しながら生まれてきたものですが、明らかにデジタル・メディアはこの環境条件の中には入っていませんでした。・・・デジタル・メディアが精神ー心理的なプロセスに与えるマイナスの影響も進化論や神経生物学の枠組みにおいてより良く理解できます。・・・注意力、言語発達、知能発達といった認知作業に関わる(人間の精神機能に関わる)メカニズムとプロセスが記述されることになり、感情のプロセスや社会心理的なプロセス、人格アイデンティティに多大な影響をもたらすのです」・・・前提として書かれている部分を要約するとこのような感じ。・・・私の独断かもしれないが。
「かつてテクストは読まれましたが、今日ではスキム、つまりうわべだけすくい取られます。かつては資料に入り込んでいましたが、今日ではそれに代わってネットでサーフィンされます(内容の表層を滑っていく)。」・・・続けて、コピーペーストが表面的な処理にしかすぎず、深い情報処理にならないという段落が続く。私もこのことに強く同意を抱く。調べ学習はネットで検索が主流になる中で、単なる答え探しになってしまっていないかと危惧する。そこには思考するプロセスが省かれ、マッチする答えを探す能力がつけられていくことになる。
本書ではキラーゲームの影響やデジタル教材の影響などを事例をあげて論じているが、気になるのはどうすればいいのかということだ。著者はリテラシー(読解力)をあげている。メディア・コンぺテンス(メディア・リテラシー)ではなく、リテラシーそのものだ。
「本当に必要なのは堅固な基礎的、一般的教養の方です。これを習得すれば、インターネットでも多くのことを見つけることができたり、詳しく調べたりすることができます。しかし何も知らない場合は、デジタル・メディアを使っても賢くはなりません。なぜなら、知識を深めるためには、その専門分野についての予備知識が必要となるからです。」
今後、デジタル教材が主流になることは必然である。しかし、それが表層的にならないようにするためにも幼児期に非認知能力をたっぷりつけて、体幹のような基礎的な思考力を養っていくことが重要になると考える。教育現場もそのことを念頭におくことが重要だと思うのだが。