Bar Gattino
店の名前はイタリア語で子猫。
店内には2匹の猫が我が物顔でカウンターやテーブルを自由に闊歩しているという、猫好きにはたまらない環境でお酒が飲めるBAR。
そこでママと「STEINS;GATE」、つまりシュタゲーの話をするのが楽しかった。
震災の年に北陸の片田舎から上京してきた自分にとっての東京とは、=アキハバラであり、それはつまりSTEINS;GATEの世界観だったのである。もうそれはそれは。
毎週、休日となれば朝早くから小田急線、総武線を乗り継いでJR秋葉原駅に降り立ち、嗚呼これがラジ館ことラジオ会館か、タイムマシンか、とらのあなか、牛丼のサンボか、秋葉神社かと何度も何度も飽きずにぐるぐるとこの魅力あふれる街を歩き回っていた。もちろん選ばれし者の知的飲料、ドクペを片手に。
このお店でオカリンこと岡部倫太郎のように「フゥーハハハ!」と愉快に、アルファ世界線だ、ベータ世界線がどうしたと楽しく飲んでいると、そこはやはりここはDr.pepperのラム割り(そんな飲み方があるのか知らんが)なんかを飲んでいるのかと思いきや、この店で飲むのはもっぱらジンである。しかもロックで。
ジンなんてそのまま飲んでも美味いわけ無いやん、とずっと思っていたのだが。
村上龍の『愛と幻想のファシズム』でも
洞木はヒメマスのマリネを食べ、ワインではなくドライジンのオン・ザ・ロックを飲んでいる。ジンを飲むのは、まずい酒だと飲み過ぎることがないだろうから、という洞木独特の妙な考え方による。
というくだりがあって、ずっとジンがそのまま飲んでも旨い酒ではないと思いこんでいた自分は、なるほどなるほど、そうだよなぁ、逆にかっこいいなぁ、真似しようと思ったものだ。
ところがところが、この店でジンの愛好家で蒐集家でもあるママに勧められるまま飲んでいるうちに、ボタニカルなのとか、キレっキレのとか、およそ今までジンに対して感じていたクスリくさいアルコール、という先入観が悉く覆されたのだよね。
モンキー47、ロン・サカパ とか、ボルス ジュネヴァなんかが特に美味かったなあ。
あれからいろんなところで珍しいジンの一風変わったデザインの瓶を見かけるたびに、この店のことを懐かしく思い出すのだ。
そして十年近くたった今になって思うのは、この世界線の幸せな時間はあまりにも限りある短い刹那的なものでとても切ない、ということ。
至福の時は、まさに風のようにあっという間に過ぎていく。
エル・プサイ・コングルゥ