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【連載】「いるものの呼吸」金子由里奈

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幽霊、場所、まだ生まれていないものーー。目に見えない、声を持たないものたちの呼吸に耳を澄まし、その存在に目を凝らす。わたしたちの「外部」とともに生きるために。 『眠る虫』(202…
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記事一覧

【連載】「いるものの呼吸」#8 散歩をすると

***  街にはあらゆる存在者がいる。家を出ると、今日も隣の家の木が煙草を吸っていていた…

石原書房
1か月前
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【連載】「いるものの呼吸」#6 TIKI BUN映画『悪は存在しない』と『ぼのぼの』

***  モーニング娘。の『TIKI BUN』という楽曲にこんな一節がある。  数年前、コロナに…

石原書房
4か月前
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【連載】「いるものの呼吸」#5 本気の図

***  人は思考するときその身体の中で、外で、一体何が起きているのだろうか。以前一緒に…

石原書房
6か月前
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【連載】「いるものの呼吸」#4 視線人(しせんびと)の語彙集

***  言葉とわたしは一生別れることができない。言葉一切を捨てても、その片鱗は脳味噌の…

石原書房
7か月前
114

【連載】「いるものの呼吸」#3 まどのそとのそのまたむこう

***  私はいま冬のベルリンにいる。朝7時。あたりはまだ真っ暗で、朝日の気配はない。外…

石原書房
8か月前
29

【連載】「いるものの呼吸」#2 山登り納得派

***  山は登れる墓である。隆起した古墳のように、それはある。わたしはいつも半分死にに…

石原書房
10か月前
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【連載】「いるものの呼吸」#1 幽霊とわたし

***   小さい頃、見えないものの気配にもっと怯えていた。なにかに見られている気がして、悪さの手を引っ込めたりすることがよくあった。透明から向けられる視線があるということをわたしは「知っていた」のだ。「知っていた」はずの透明を、わたしはいつの間にか失くしかけている。見えることや事実に権威がある社会で、なんの科学的根拠もない、透明な存在たちの居場所はなくなっていく。透明な存在たち。仮にそれらを「幽霊」と呼ぶ。  幽霊という概念がこの世からなくなってしまったら。明日ふつうに目