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走り高跳びは1m物差しとゴムを使って個の学びを充実させる

「リフレク帳137」で、走り高跳びの学習効果を高める「基準記録」の算出方法を紹介しました。

ところで、この走り高跳びの学習をどのように進めているでしょうか。

どんな用具が学習効果を高めるか

かつて私は、バー、スタンド、セーフティーマットという「競技としての走り高跳びのための用具」を使って学習を進めていました。

しかし、この方法では、子供の運動量が確保できません。
この「走り高跳びセット」は、ほとんどの学校で多くても2セットしかありませんでしたから、跳ばずに待っている時間が長くなるのです。
また、これでは個々の子供の学びそのものが進みません。

文科省の「小学校学習指導要領解説」には、「試技の回数やバーの高さの決め方などのルールを決めて競争したり」と書かれていますが、毎時間このような競技会方式で学習を進めていたら、「解説」のその後に続く「自己の記録の伸びや目標とする記録の達成を目指したりしながら、リズミカルな助走から力強く踏み切って跳ぶことができる」ようになるための[知識及び技能]はもちろん、[思考力、判断力、表現力等]も[学びに向かう力、人間性等]も身に付けることができないことは明らかです。

「リフレク帳137」において、走り高跳びの学習における中核的な技術は、①助走、②踏み切りの二つに絞られるという私の教材分析をお伝えしました。
その技術についてもう少し詳しく述べます。

①の助走では、ある程度のスピードを出しながらも②での安定した踏み切り姿勢が作れるためのリズムが求められます。3歩のリズムが基本となると考えます。
②の踏み切りでは、ストライドを広くした1歩前の沈み込みと後傾姿勢、そこからの両腕の振り上げによる上体の引き上げが、「走」から「跳」へと運動を変換させる最も大切な技術でしょう。その時に振り上げ足の使い方もポイントとなると考えます。

こうした技術を自分の既有知識や身体能力の特徴等と関連付けながら、具体的な学習の目当てとして設定し、その練習方法を工夫し、繰り返し取り組んだり仲間と教え合ったりしなくては、資質・能力は身に付いていかないはずです。

そこで、私が先輩や同僚に教わった指導方法は、「競技としての走り高跳びのための用具」を使うのではなく、基本の運動の棒(後に、これを私は高さが分かりやすい1m物差し(算数備品です)に変更しました)とゴム、そしてマット運動用のマットを使うことでした。
学習場所は、体育館です。

子供たちを少人数のグループに分け、2本の1m物差しを二人で持ち、その間に渡したゴムを跳ぶのです。
もちろん、役割はグループ内で交代して行います。

安全面も配慮し深い学びにつながる展開過程

安全面を心配されるかもしれませんが、大丈夫です。

この用具で行ったどの学級も、足の捻挫などの怪我は全くありませんでした。
なぜなら、上に述べたように、走り高跳びは走り幅跳びのように全力で助走をしないからです。もちろん、跳び方もベリーロールや頭から突っ込むようなことはやらせません。

ポイントとなるのは、リズミカルな3歩の助走です。
その技能が高まったら5歩に伸ばし、さらに7歩に伸ばすのですが、マットが敷いてあればそれぐらいの距離の助走で怪我をすることはありません。
ただし、跳び終わった後の着地の指導は、「踏み切り」及び「バーをまたいだ後の足の使い方・動かし方」として必要です。

以下に、私が行った学習の大まかな展開過程を示します。

①「足をどのように動かすとバー(ゴム)が越えられるだろうか。立ち高跳び(助走なし)で見つけよう」…振り上げ足を中心とした動き=形作りをまず行う。これにより、<振り上げ足を高く鋭く上げる>ことが「大切ポイント1」であると分かるだろう。
②「どんな助走をすればタイミングよく跳べるだろうか。輪踏み高跳びで見つけよう」…3歩助走での高跳びを行わせる。リズミカルな助走のよさに気付くことができるように、輪(ケンステップ)を使う。間隔を変えたものを何セットか作り、踏み切りやすい助走のリズムを体で見つけさせる。「タ・タ・ターン」という言葉での理解を後付けさせ、「大切ポイント2」とさせる。
③「どんな踏み切りをするともっと上に体を持ち上げられるだろうか」…最も難しくかつ大切な運動ポイントである。具体的には、沈み込み、後傾姿勢、腕の振り上げ、強い踏み切りを「大切ポイント」として気付かせたいが、容易ではないだろう。そこで、さらに焦点化し、「実験」を通して比較させる。まず、「踏み切る時、胸はどこを向いていたらいいのか」、実際に正面向き、下向き、上向きで何回も跳んで比較してみる。その上で、踏み切り板やジャンピングボードを使って後傾姿勢を意識した跳びを繰り返す中でモデリングによって、腕の使い方に気付かせたい。

では、「競技としての走り高跳びのための用具」は使わないのかというと、これも使います。
単元の途中で「中間記録会」を実施するとともに、最後に「記録会=走り高跳び大会」を行います。この二回は、競技会方式で「用具」を使います。

跳び方とグループ編成

最後に、跳び方とグループ編成について言及しておきます。

「解説」には、「はさみ跳び」とありますが、実際のはさみ跳びとは、初めに振り上げた足は、後から着地する跳び方のはずです。空中で足をハサミのように動かし、踏み切った足から着地するのが本来のはさみ跳びです。
しかし、これは子供には困難ですし、やらせる必要もないと考えます。
一般的に「はさみ跳び」と呼ばれている跳び方は、振り上げ足から着地しますので、「またぎ跳び」などと言うのが正しいのでしょうが、こちらで十分に走り高跳びの学習のねらいは達成できます。

子供たちのグループ編成には、ご存知のように幾つかの方法がありますが、私は、「能力別グループ」によって編成しました。
ただし、「能力別」といっても、同程度の跳躍力、近い高さを跳ぶ子供同士でグルーピングをしたわけではありません。
学び合いによる相互作用が効果的に高まると思われる能力の子供たちでグループを編成しました。
その意味では、「生活グループ」に近い編成と言えるかもしれません。
このグループがチームとなり、最後の「大会」で合計得点を競い合いました。

ただし、学習の過程では、同じ課題に取り組んでいる子供同士で学習グループを作る場合もありました。例えば、「振り上げ足の上げ方がもっとうまくなりたいグループ」、「もっとリズミカルに助走したいグループ」、「体を起こした踏み切りが上手になりたいグループ」などです。
同じ課題を共有しているので、同じ練習の場を設定して取り組むほうが効率的あり、的を絞った教え合いになるからです。

以上、参考になれば幸甚です。