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台湾ドラマ「斯卡羅 SEQALU: Formosa 1867」

主演:ウー・カンレン(吴慷仁)、ジェニー・ウェン(温贞菱)、チャマケ・ヴァラウレ(查马克・法拉屋乐)、ファビオ・グランジョン、ショーン・ホアン(黄远)、アンドリュー・チョウ(周厚安)
2021年 全12話
いしゃーしゃ的オススメ度:★★★★★
(写真:全て公共電視サイトより)

台湾から出国できない!(ドラマの話ね)
少し前に読んだこちらのKay.taiwanさんの記事で興味を持った本作、ドラマ関連のグループや豆瓣でも全く紹介されていなくて知らなかったが、観て良かった!

注意:本記事では、日本では避けられている、あるいは意味が異なるが、台湾では普通に使用されている「原住民」「部落」「混血」という言葉をそのまま使用します。

「ローヴァー号事件」を巡る各民族の物語

本作は実際に1867年3月12日に起こった、「ローヴァー号事件」という史実をベースとしている。アメリカの商船ローヴァー号は広東省汕頭シャントウ港から満州牛庄ニューチュワン港(現在の遼寧省営口えいこう市)へ向かう途中、台湾南部の沖で遭難してしまう。そして漂着した場所は、当時原住民18族の領地であった恒春こうしゅん半島の部落近くであった。

乗組員14人中13人は、その場で原住民に首切りの刑(出草)にあい殺されてしまうが、一人は息が残っていて、漢人の親子に助けられる。

ローヴァー号の乗組員の家族から連絡を受けたアモイの在清国アメリカ領事館では、遭難船の捜索をさせるために、ファビオ・グランジョン演じる領事ル・ジャンドルを現地に派遣する。

府城(Taiwanfu)に到着したル・ジャンドルは、現地に住むアンドリュー・チョウ演じるイギリス人商人ピッカリングと、彼のジェニー・ウェン演じる使用人バタフライを(蝶妹、Tiap Moe)を通訳として雇い、遭難場所付近の部落へ向かう。

果たして、ローヴァー号の生存者はいるのか?
多くの船員はなぜ殺されなければならなかったのか?
事件の背景と真相が、アメリカ人、漢人、原住民のそれぞれの立場から明らかになっていく。

人物相関図(中国語)。今後視聴する方の役に立てば。

アイデンティティーを問いかける物語

本作では全く知らなかった台湾の原住民について多少知ることができ、大変興味深かったが、個人的には4人の登場人物のアイデンティティーに関する葛藤が一番印象に残った。この4人とも、二重のアイデンティティーを持ち、現状に自分はどのように対応するべきか悩むのである。

(1)シュイ:台湾漢人(闽南ビンナン人)と原住民(平埔へいほ族)の混血

この役のために11kg減量したそう。

ここのところ視聴している台湾ドラマにはどれにも登場しているウー・カンレンだが、実は最初、すぐに彼だとは気が付かなかった(女装姿とか見たばかりだったし)。

シュイは狡猾な庶民で、その時その時で様子を伺いながら、漢人と原住民の両方におべっかを使う。パイワン語(原住民の言語)も操るため、通訳を務めるが、必ずしも忠実には訳していない。その狡猾さを皆見抜いているのであるが、原住民との対話には通訳が必要とされるため、なんとか生き抜いていく。

(2)バタフライとジェ:台湾漢人(客家ハッカ)と原住民(斯卡羅スカロ)の混血姉弟

彼らの地の姿が原住民と言われても納得してしまうぐらい、服装と髪型が似合っていた二人。

この二人も他の作品で見ているにも関わらず、この姿格好で全く分からなかった。特に、ジェ役のショーン・ホアンはそうそう、『太陽を見つめた日々1 (他們在畢業的前一天爆炸1)』で爆発した子じゃないか!なかなか個性的な役が似合う。

二人は亡き母の遺志に従って一緒に暮らそうと思っていたものの、この事件の状況からそれぞれが違う道を選ぶことになる。混血ということで、父母どちらの人種からも仲間とは見なされず、自らの意思でどちらかを選ばなければならなくなるのである。

(3)米国領事ル・ジャンドル:フランス生まれのアメリカ人

本作ではアメリカ人の役

『君の心に刻んだ名前 (刻在你心底的名字)』での神父役が印象的だったファビオ・グランジョン。本作では、彼はもう自分のアイデンティティーについての葛藤は無くなっており、自分をアメリカ人としている。しかし、バタフライの心の揺れを見て、唯一理解を示す人物。自分達のような人物がコウモリであることもわかっているのであった。

この二重のアイデンティティーの葛藤というのは、現在でも世界のどこかしらで起こっている紛争において、同じように感じる人がたくさんいることであろう。本作の各民族達がどうやってこの「ローヴァー号事件」を解決しようとしたのか、もしかしたら今でもヒントになる部分があるのかもしれない。
本作は台湾ではNetflixでも配信されたようなので、これは各国語字幕をつけて、ぜひとも全世界配信にしてほしい。歴史や原住民の文化だけでなく、「フォルモサ」(元々はポルトガル語で「美しい女性」という意味)とも呼ばれる美しい台湾の自然も見所である。

【以下は私がドラマ視聴中に覚書としてメモした用語集】

斯卡羅・・・スカロ、台湾南部の原住民の総称。原住民たちは自分達のことをこう呼ぶ。
生番 (savage) ・・・中国人及び外国人による原住民の呼び方。
部落 (Nation) ・・・原住民の住んでいるところ。
出草 (scalping)・・・テリトリーに入り込んできたよそ者の首を切る原住民の習わし。
漢人 (Han) ・・・清国(Qing Empire)の中国人。または広義の中国人。
客家 (Hakka) ・・・台湾の中国人。
大股頭 (Chieftain) ・・・原住民部族の長。「ガマガマ」とパイワン語で言うっぽい。二股頭、三股頭も出てくる。
文明と秩序 (civilization and order)・・・アメリカ人がやたらと使う。しかし原住民の言語にはない概念で、バタフライは「规矩 (rule)」と訳している。

こちらの記事も大いに視聴中に参考にさせていただいた。

こちらが予告編。現在はYouTubeでも全話公式配信されているが、英語字幕のみ。私はTaiwan+のサイトで視聴(上のKay.taiwanさんの記事にリンクあり)、こちらだと中国語字幕と英語字幕がついている。撮影のドキュメンタリーも面白い。