中国ドラマ「WILD BLOOM」(风吹半夏)
主演:チャオ・イーリン(赵丽颖)、オウ・ハオ(欧豪)、リー・グアンジェ(李光洁)、ホアン・チェンチェン(黄澄澄)
2022年 全36話
いしゃーしゃ的オススメ度:★★★★★
(写真=すべて本作公式ウェイボーより)
昨年末に出て非常に評価の高かった本作、『BEING A HERO(冰雨火)』に続く2022年度フー・ドンユー(傅东育)監督による二作目、そして原作が2019年の高評価ドラマ『ALL IS WELL(都挺好)』と同じアーネー(阿耐)という小説家の作品ということで、もう期待しかない一本であった。
フー監督の作品は2本視聴していて、両方とも覚醒剤がらみばかりだったが、本作は女性が主役、しかも中国の鉄鋼業の歴史にもなっているようだったので、観るのをとても楽しみにしていた。
男世界の鉄鋼業界でビジネスを切り開いていく女性の物語
全36話の本作、だいたい12話ずつ3部に分かれている。
(1)町のクズ鉄屋から大規模な鉄鋼工場へ
幼馴染であるバンシャーとユウジョウはクズ鉄屋をやっているが、そこへマンホールを盗んで転がり込んできたシャオチー。行動がはちゃめちゃな野生児で、バンシャーの夫に怪我をさせたことにより、有罪になって服役する。シャオチーが刑務所から出てきたのを機に、バンシャーはビジネスを発展させるため、ロシアへと大量のスクラップを買い付けに行く。
ユウジョウとシャオチーはその受け入れのために漁村と交渉し、そこへ大きな鉄鋼工場を建てるために奔走するのであった。
ロシアでのスクラップの買い付け、工場を建てるための資金集めや交渉など、人間関係でどん底に突き落とされながらも、3人が模索しながらも夢を追い続ける姿は応援したくなる。
(2)元国営製鉄所の入札
1990年代の中国では国有企業の非国有化が進み、ビンハイのある江东省でも廃炉になっていた製鉄所「省二鋼」の非国有化が進められる。入札に参加するバンシャーたちだが、入札のライバルたちとの様々なバトルと同時に、入札した場合の操業へ向けての準備など、絶えず問題があり、心を休ませる暇もない。
そんな折、ユウジョウの病気が発覚。
この入札のあたりのエピソードは、バンシャー、ユウジョウ、シャオチーのそれぞれの恋愛エピソードも取り入れられていて、涙なしには観られない部分もある。
(3)最新テクノロジーを取り入れた新工場建設
国有企業の非国有化に続き、2000年代に入ると中国の経済発展を見据えて、外資系企業も多く入ってきており、企業形態、そして鉄鋼の需要も不動産などの建設業界から、医療用精密器具まで、多様化してくる。
そんな中、バンシャーは自分でゼロから最新テクノロジーを取り入れた製鉄所、および板金工場などを一体化させた工場を建てることにした。
しかし、中国はWTO参加を機に、国内の法律や規程を見直すことに。バンシャーの工場も過去に遡って色々と調べられ、彼女たちは様々な問題に直面することになる。
バンシャーの野望がそのまま中国の鉄鋼業の発展となって描かれている。
近年の中国の経済発展の舞台裏
日本や欧米から見ると、1990年代以降の中国の経済発展は脅威として捉えられ、その成長ぶりばかりが取り上げられることが多いが、その裏では様々なドラマがあったというのを本作では見せてくれた。
バンシャーは大きな工場を作り、お金を儲けることを夢みる。しかし、女であるが故に男たちが牛耳る鉄の世界ではなかなか受け入れられない。
そして、少しずつ夢が叶っていくものの、その分大きな犠牲も払うことになるとは思ってもみなかった。
彼女はビンハイの4人の男性起業家たちと仕事をしていくようになるが、その中で彼らとの様々な取り引き、人間関係に悩まされていく。
バンシャーが次第に頭角を表し、本格的にビジネスに乗り出してくると、先輩ヅラしていた彼らも「女に追い越されるんじゃないか」と心配するようになる。最初は猫撫で声で宥めようとしていた彼らも、そんなのではダメだと悟って策略や裏切りを繰り返す。
バンシャーはただきちんとしたビジネス関係、取引関係をもって対等に扱って欲しいだけなのだが、男たちにはそうは問屋が卸さない。
ユウジョウ、シャオチー、ジャオ・レイたちのような、バンシャーの能力を信じてついてきてくれる人がいる反面、ビジネス、人間関係の厳しさをまざまざと見せつけられるバンシャーであった。
キャストもいい、見応えのあるヒューマンドラマ
オウ・ハウ見たさにこの作品を選んだのもあったが、フー監督作品お馴染みのキャストをはじめ、初めて見たチャオ・イーリンもとても良かった。
バンシャーがなぜここまで、鉄鋼業での成功を夢見ていたのかのモチベーションは正直よくわからなかった。もちろん最初はお金だけだっただろう。しかし、1990年代という中国における重要な成長期にビジネスを始めたことにより、その時代の波というか、流れに乗った、そんな感じだったのかもしれない。
私はたとえ人生やり直すにしても、こんな起業家にはなれないし、中国人ともビジネスはしたくないが(笑)、中国関係のお仕事をしている人には興味深い内容だと思うし、キャストもいいので、オススメしたいドラマである。
全36話、長いと言えば長いが、時間があるときは一気に3話など軽く見続けてしまうくらい、引き込まれる内容であった。
宮廷ものとか、ラブコメばかりでなく、こんなドラマもぜひぜひこれからは日本で配信していって欲しい。
これは2022年年末に配信された作品であるが、すでに2023年度のベストドラマの候補の一本に数えたい。
こちらはトレイラーにもなっている、マオ・ブーイー(毛不易)が歌う同名の主題歌『風吹半夏』♫