君は『ボヨヨンロック』を知っているか?
先日、大槻ケンヂのファンだという女性とお会いした。ハッキリ言うが、初めてだ。彼のファンを公言する女性は、これまでの僕の人生には誰一人いなかった。それだけに大槻ケンヂを『オーケン』という愛称で呼ぶ彼女に、女性ではなく人間としての興味をそそられた。
大槻ケンヂ。
言わずと知れた『筋肉少女帯』のヴォーカルだ。『 筋肉少女帯』を知らないという人のために一応説明しておこう。
筋肉少女隊は1980年代後半から1990年代後半にかけて活躍したロックバンドだ。代表曲として『日本印度化計画』『踊るダメ人間』『元祖高木ブー伝説』などがあげられる。
音楽としては秀逸なヘヴィーなロックなのだが、いわゆるキワモノであることも間違いない。大槻ケンヂの類まれな作詞能力がそれを際立たせる。
~『元祖高木ブー伝説』~
高木…ブー!!
俺は高木ブーだ! 俺は高木ブーだ!
まるで高木ブーだ! 俺は高木ブーだよ~(ウェイ!)
一人で生きろよ つらくとも死ぬな また合う日まで 御機嫌よう
苔のむすまでに 愛し合うはずの二人が
予定調和の中で 離れ離れになる
何も出来ないで 別れを見ていた俺は
まるで無力な俺は まるで…まるで…高木ブーのようじゃないか!
俺は高木ブーだ! まるで高木ブーだ!
俺は高木ブーだ! まるで高木ブーだよ~!
この詩を特攻服を着て顔にメイクを施した大槻ケンヂが、ヘヴィなギターサウンドにのせて叫ぶように歌う。
どうだ、このイカレ様は。
もう一度言う。音楽としては秀逸なのだ。だが、この歌詞とパフォーマンスにより、彼らは”キワモノ扱い”をされることになる。
筋肉少女帯がデビューする少し前、日本のロックシーンにはあるバンドが登場していた。そのバンドはライブを『ミサ』、アルバムを『経典』、チケット代を『参拝料』と呼び、ヴォーカルの生年月日はB.D.100036(B.C.98038)年11月10日とされている。
そう、聖飢魔Ⅱだ。彼らもまた、キワモノロックバンドとされていた。
現在も発行されているBURRNというハードロック/ヘヴィメタルの音楽情報系専門月刊誌には、その月にリリースされるアルバムを点数で評価するコーナーがあるのだが、聖飢魔Ⅱのデビューアルバムにつけられた点数は、なんと0点だった。
『BURRN!』1985年11号より
「面白い、楽しい、笑える―でも、それは、結局、HMに対する侮辱だと思う。完全に色物だが、当然、ファンもつくし、興味を示すプレスもあるだろう。しかし、それが一体どれくらい続くのか? もし、洒落でやってるとしたらこれほど人を馬鹿にしていることはない。こういう新人を出すレコード会社の人間も最低である。奴らはHMのことを真剣に考えてはいない。頭の中は“商売、商売、金、金、金……”。頭がいいのに悪事に使ってしまう愚か者と同様、技術はあるのに邪道を走ってしまったこのバンドにインテリジェンスを求める僕が悪いのか……。真面目にやってるバンドが可哀いそうだ。宛名の書き方も知らない不作法なスタッフもバンド以上に情けない。Fuck Off!!」
いまやワイドショーのコメンテーターとしてテレビで見ない日がないデーモン閣下にも、こんなつらい時代があったのだ。
(上の72点はたぶんサブラベルズ、下の65点はSHOW-YAだと思われる)
聖飢魔Ⅱも音楽的には悪くはなかった。結果このアルバムは10万枚以上を売り上げる大ヒットとなったのだが、それでも色物、キワモノ扱いは免れなかった。
筋肉少女帯を初めて見た時、「また聖飢魔Ⅱみたいなバンドが出て来たのか」と思ったハードロックファンは少なくなかったはずだ。
だが、あくまで個人的な感想だが、彼らの音楽性は聖飢魔Ⅱの上をいっていた。
ギターのリフ、メロディー、リズム、音の作り方、曲の構成、正統なハードロック/ヘヴィメタルファンとして、筋肉少女帯の音楽は十分に『聴ける』ものであった。
しかし。
やはりこの歌詞とパフォーマンスである。本気で彼らの音楽を好きだとは公言しにくいものがあったのも確かだ。多くの人にとって、音楽を聴かせるバンドではなく、彼らはコミックバンドであり、芸人集団であった。
だが。
人生経験を経た自分が、今もう一度筋肉少女帯の音楽を聴くと。
大槻ケンヂにインテリジェンスを感じるのだ。
笑いだけではなく、その歌詞からは人生哲学や、悲哀までも感じさせる。
「受け取り側の感性にゆだねたい」僕にはそう聞こえてくるのだ。
ひょっとしたら、大槻ケンヂは猛烈な照れ屋なのかもしれない。
自分が訴えたい事を正面から言うにはあまりにも照れ臭い、だったら笑いでくるんでしまえばいい、彼の歌詞はそんな彼の一つの技法なのかもしれないとまで、僕は思っている。
今なら正々堂々と言える。
「僕は筋肉少女帯が好きだ」と。
さて、最後に紹介したいのは残念ながら筋肉少女帯の曲ではない。
大槻ケンヂが『まんが道』名義で出したシングルである。
僕はこの曲に大槻ケンヂの魅力の全てが詰まっていると思っている。
ぜひ聞いて欲しい。
『まんが道』で、『ボヨヨンロック』
炎と 戦え ♪ ファイトー!
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心灯杯とは
今日の記事。けっこう時間かかったんですが、書き終わったあとの感想は「ワシ、こんなに一生懸命なにやっとんねん」でしたw
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