未就学児と攻略本とインターネット
19年にYahoo!、21年にLINE、昨年にXをアンインストールするなど段階を踏んでデジタルデトックスを進めてきましたが、いよいよもって完遂したのだなあということがありました。私は趣味で模型雑誌を眺めたりするんですけど、先日書店で久しぶりに模型誌を手に取ったところめちゃくちゃ感動したんですよね。
雑誌ってこんなにワクワクしたっけ?
模型雑誌というのは表紙にグラビアがあり、中身は作例や新商品情報が目白押しなんですけど、これ今まで購入前に相当ネタバレされてたんだなって思います。思い返してみると、その雑誌の公式アカウント自体が今回の書影はこれだの、付録はこれだの、作例の最初の数ページはこれだのってとにかく宣伝ポストをしていたわけで、しかもそれに作例を書いたモデラー、それを撮影するカメラマンもそれぞれ思いの丈を発信して、それがリポストされて私の前に現れてたりしてたんだなということに気づかされます。
翻って、今回手に取った雑誌はもう本当に宝箱のようでした。初めて見るすばらしい巻頭グラビア、超絶技巧の作例、遂に立体化されたあの機体…、どれをとっても古い情報はなく、食い入るように眺めてしまいました。付録はないけれど無事お買い上げです。帰ったら何度も読み返そうという気持ちがふつふつと湧き上がり非常にワクワクしましたし、サイズも大きめの雑誌なので歩きながら読む事が出来ず、むしろ「楽しみは家に帰ってから」という気持ちを強くする素敵な舞台装置になったように思います。事前の情報が無いと、雑誌ってこんなに素晴らしい媒体だったのか。
広告しか流れてこなくなったインターネット
SNSやニュースアプリはもっぱら広告アプリであることは周知の事実です。おおっぴらになったのは件のロシアゲート事件の際で、Facebook上で金銭取引による露骨なステマが行われ選挙が損なわれた件に関して、米国公聴会がザッカーバーグを呼び出して「お前は何屋だ、言ってみろ」とド詰めしてザッカーバーグの顔面がFaccebookブルーに染まった顛末を思い出します。
その後Facebookが鳴りを潜め、いや今ではMetaの名を隠れ蓑に相変わらずというかもっと極悪非道な広告を垂れ流す地獄のアプリに変貌しましたが、その間に隆盛を極め無事爆発四散した俺たちのTwitterも、結局は大正義イーロンマスクにしめやかに買収され魔改造され、インプレゾンビがはびこるマッドシティとなってしまいました。彼がTwitterをどう変革したかったのかについてはすでにまとめましたが、結局みんなWechatが作りたいんですよね。人間の社会をスコア化して、その人間のスコアに応じて広告流して買ってもらえるようにするやつ。
日本でそれを行おうとしていたのはYahoo!とLINEであり、つい先日もLINEYahoo!は韓国と距離近すぎだろボケと総務省から激しいお叱りを受けておられました。合弁に事実上失敗し、結局TikTokの後追いみたいな謎の機能を追加したLINEと、ゴシップ拡散アプリとして爆サイとの違いが分からなくなりつつあるYahoo!がこの日本に残すものは少ないのだろうなと思います。
ピクミン4の難易度と未就学児
で、我が家では目下就学準備、卒園準備が迫っております。迫っておりますが、子どもがピクミンにハマっております。で、ピクミン、むつかしいんですよ明らかに。私も小6の時に初代をやりましたが、思った以上の殺伐とした世界観にヒリヒリさせられた記憶があります。それは今子どもがやっているピクミン4でももちろん受け継がれており、いやほんと食べられるんですよピクミン。敵が針飛ばしてきて、それが刺さってあっけなく死ぬんです。アーってあまりにか細い声を出して。助けてやれなかった。赦してくれ。彼らに魂の安息があらんことを。
そうすると、もちろん子どもは不機嫌になります。つまらないと。それはそうです。ゲームはクリアできてなんぼなので、当然面白くありません。で、それで露骨に不機嫌になって、「代わりにやって!!!!」とブチぎれたり、ご飯を食べるときもブツブツ言ってたりして食卓の空気はもう最悪なわけです。そうなったときに、じゃあワイが代わりにやったるかとなるわけですが、いや難しすぎないかこのゲーム。初見の大人でもクリアの方法がわかりません。あの緑の生き物はどうやって倒すんだ。
そうなったときにはやはり攻略サイトです。と思いGoogleで検索しますが、今や個人の攻略サイトなんてものは存在せず、あっても広告まみれで非常に見づらい造りになっています。ブラウザをプライベートモードにしていようが、時には子どもと一緒に見るには厳しいようなお色気系の広告まで出てしまうため、Google自体の検索アルゴリズムが地獄になってしまった事もあり、攻略サイトを探して中を確認すること自体がハクスラになってしまいいまいちピンときません。ワイは何を探しとるんや…
絵本→攻略本
この激しいもやもやを一気に解決したのが攻略本でした。現行のゲームでも攻略本売ってるんだねまだ。クリアできずにふてくされている子どもに、「この絵本なーんだ?」と見せ、「この本はね攻略本っていうんだよ」と。「攻略って何?」と聞くので、「攻略はクリアするって事かな」と答えました。「ピクミン4がどんなゲームで、どうやったらクリアできるかのヒントが書いてあるんだ」と伝えるとピンときたようで、「読みたい!」と分厚い攻略本を読み始めたのです。もともと絵本が大好きで、親の読み聞かせは勿論、5歳ごろには親に絵本を読んで聞かせるタイプの本好きなので、これは奏功したと思います。
ただ正直内容は小学校高学年レベルであり、フリガナも振ってはあるものの漢字も多く、未就学児にはよくわからない絵本でしかないのでは…とも思いましたが、好きこそものの上手なれとはよく言ったもので、驚くことに、とにかく読める漢字が格段に増えました。賞味期限とか。攻略本に限らず、積極的に外の看板の漢字を音読してはドヤ顔をみせるようになり、そしてあっという間に攻略法も理解し難敵を攻略するに至りました。完全クリアまでの長い道のりも把握できたようで、今では「攻略本を読む日」と「ゲームをする日」が交互に来るようになりました。我が家の「本に糸目はつけない」方針もあり昔から溢れる本に囲まれる生活ではありましたが、ここにきて攻略本という文化に触れ始めたのは面白いなと思います。ようやっとる。
デジタル化には向かうんだけど
実際のところ、そのうちPCやスマホで検索をするようにはなると思うんですよ。とはいえ、IT関連の仕事をしている身でこういうことをいうのはなんですが、残念ながら今のGoogleやYahoo!、SNSでの検索では質の高い情報(=推敲された文章で構成された、ソースの正しい情報)のみを引き当てることは非常にむつかしい状況にあります。これは、各プラットフォームが正確性よりもビュー重視になっているためであり、それは大多数の人間がそれを望んでいるということでもあります。正確性よりも噂話が大好きというのは人間の歴史上常に見られたことであり、90年代から一部のダメインテリが作り上げてきたインターネットもそうした「世間」に飲み込まれた証左でもあります。そういう意味で、情報を大切にし、今後の見極め力を養う意味でも、まず本の文化に触れられたことはよかったように思います。
スウェーデンのある市がデジタルからアナログ回帰をするというニュースも流れてきましたが、やはりデジタル機器を扱う前にまず自身の言語(言葉、文字)を正しく把握する力が必要となるのはPCの発明、開発、発展の歴史を見ても明らかであり、現在検索エンジン以上に利用されつつある各種AIサービスも平気で嘘をつくなかで、それを見分けるリテラシーが育っているかどうかだと思うんですよ。教科書に載っている内容なのに、AIの誤答をそのまま転写して不合格といった文字通り馬鹿げた出来事もおこりつつある中で、やはり質の高い文章を読むことやそれを正確に読み解く力の必要性はますます高まっているのだなあと感じます。村上春樹がSNSをやらない理由を問われた際、「上等な文章が存在しないから」と答えたのはまさにこの瞬間を語る最上かつ唯一の言葉であり、ではそれによってどうなるのかは自明の理と言えるでしょう。船頭多くして船山に上るのだなあと思いますし、改めてLINEもYahoo!もXもアンインストールして良かったなあと思っています。
余談ですが、先日マツキヨで子どもが「12種類の成分!」と急に店頭のビタミン剤のPOPを音読し、「すごいなその漢字読めるの」と言うとドヤ顔だったため、「で、それってどういう意味…?」かと問うたところ、「・・・・・・・・・・・・12個違う、中身・・・・?」とほぼ正解でいいのではという答えを出してきたので、「だいたいあってる」の称号を与えました。これも攻略本効果…なの?
画像はAIが考える「パソコンの前で常に怒っている中年を攻略本の力で理解しようとする未就学児」です