伊勢物語 第二段 春の雨
昔、男がいた。
奈良の都は離れて、この都(平安京)は、まだ一般の人の家が決まっていないときに、西の京に女がいた。
その女は、世間の人よりは優れていた。その人は、容貌よりも心が優れていたのだった。
一人ではなかったらしい。
それを例の誠実な男が、ちょっと語り合って、帰ってきて、どう思ったのであろうか
時は旧暦三月一日、雨がしょぼしょぼ降るときに贈った歌
おきもせず寝もせで夜を明かしては 春のものとてながめくらしつ
(起きもしないで寝もしないで夜を明かして、それで今日は
春の景物として長雨をぼんやり眺めながら暮らしました)
アンニュイなフランス映画のような雰囲気で、
時間的には後朝の歌ではないようだけれど、
そういう艶っぽい感じが漂っている。
一晩中愛し合って、今日はけだるい中で、
一日あなたのことを考えてすごしました
というお話。
「おきもせず」の歌は、古今集恋歌三の冒頭にある業平の歌で、
「やよひのついたちより、しのびに人に物らいひてのちに、雨のそぼふりけるによみてつかはしける」
という詞書がある。
物語のほうでは「西の京」とか「例のまめ男」とか、結構、前から話があったような書きぶりなのだけれど、
この話は伊勢物語の第二段になっている。