技術起点のイノベーションを社会実装する過程で価値獲得を目指す-【Innovation Quest】vol.6 DK-Power株式会社〈後編〉
<前編>の記事はこちらからご覧いただけます。
企画の趣旨はこちらのnote記事にてご覧いただけます。
■DK-Powerについて
■プロフィール
松浦 哲哉さん
株式会社DK-Power 取締役社長
■株式会社DK-Power設立の経緯
ー本日はよろしくお願いします。最初にTICから、DK-Power社の立ち上げに至った背景を教えてください。
松浦さん:ダイキン工業では省エネに向けて努力しているものの、空調はエネルギーを消費する機械であることには変わりがありません。世界中でビジネスを展開している以上、エネルギーを作る側もやっていかないとバランスが悪いと、研究所にいる時から再生可能エネルギーの研究、またエネルギーをどのように使っていけばいいかを検討していました。私がTICに来たときに、ビジネス化するパイロット事業の形で携わらせてもらい、一年くらいで子会社を作り独立しました。
ーTICでの一年間での具体的な試みやパイロット事業のお話をもう少し詳しく教えてください。
松浦さん:当社の水力発電システムというのは、元々私が開発したわけではありません。滋賀製作所の研究所にいた技術者が、ダイキンのモーターとインバーターを使えば水力発電できるはず、ということで始めた技術でした。私自身は太陽光ビジネスを手がけていたのですが、社内で新規事業を多く立ち上げてきた実績を買われて声がかかり、水力発電をビジネス化するパイロット事業を経て事業会社を立ち上げるに至りました。
ーなるほど、社長のバックグラウンドはビジネスで、TICで技術者の技術と合流したわけですね。
松浦さん:そういうことになります。私は技術開発は担当せず、どうやって技術を活用してビジネスにするかということを考えてきました。
ー面白いですね。そこは、実際TICに来なかったら生まれなかったということですね。
松浦社長:そういうことにしておきましょう(笑)。いろいろな研究者の方と一緒になったことでDK-Powerが生まれました。
■モーターを活用した新たな水力発電とは
ーモーターを使った新しい水力発電事業についてお聞かせください。
松浦さん:私たちのターゲット顧客は水道局です。水力発電事業が市場に進出しにくい理由は大きく二つあります。一つは水利権です。水の権利というものがあり、川を利用して水力発電をしようとすると、様々な利権を持った人たちを説得して許可をもらわないといけません。また二つ目にゴミの問題があります。川で水力発電をしようとすると、流れているゴミを除去しないと機械がうまく作動しません。このゴミを除去するのに多大なコストがかかります。まさに、発電しているのか、ゴミ掃除しているのかよく分からなくなります(笑)。
一方、水道局は水を綺麗にしていますし、水道事業をしているので、水利権は水道局が全て押さえています。よって、水道局の水道事業の従属発電という位置づけで事業ができれば、この二つの問題が解決するので、水道局を顧客ターゲットとしてビジネスを展開しています。
ー水道局と連携することで水利権とゴミ問題をクリアできました。
松浦さん:はい。水道局は、山の上のダムに水をためて、そこから浄水場に水を引いてきて、浄水場で浄化して、それを町中の配水池と言われるタンクまで持っていき各家庭に配水しています。水道局は、水を落としながら送水や配水をしています。
浄水場から配水池に水が落ちる間に落差があり、そこに圧力がかかります。圧力管で送られているのですが、配水地に入る手前で、どれだけの水量を入れるか調整する弁があります。その弁で絞ることにより、上から落ちてくる水の圧力を殺して水を流しています。これはつまり、水圧というエネルギーを捨てていることになります。捨てるのであればそのエネルギーを回収しましょうということで、その調整弁に私たちでバイパスをつけ水力発電を設置し、流量をコントロールしながら配水池に流しています。
■技術を未来のニーズと結びつけてビジネスにする
ーそもそも、なぜ小規模な水力発電に注目したのでしょうか?
松浦さん:もともと水力発電とは、ダムを作って発電する事業ですが、今や日本では大規模なダムを作れなくなっています。大きくて新しい水力発電を作る余力がないのです。そこで私たちは大きな水力発電ではなく、もっと小規模な水力発電を考え、既存の水道管というインフラを使った発電を創発しました。
ただし、大きな水力発電は採算が合うビジネスですが、規模が小さくなればなるほど、機材代のコストがかさみ、採算が合わなくなります。具体的には、大規模水力発電を扱っているメーカーは、水車側のプロペラの羽の向きなど、ものすごく緻密に作り上げ、まるで芸術品のようなものを作ることで、効率を上げています。また、ちょっとした変動に対応できるように、ガイドベーンといった水流量を調整できる複雑な機構をつけています。これらは規模が大きければ採算が合いますが、小規模だとコストが合いません。そこで私たちは、ダイキンのモーターとインバーターを使い、水道局が使っているような普通のポンプを逆回しにして水車として利用することにより、採算性を合わせています。
ーポンプを逆回しにして、水車として利用するとはどういうことでしょうか?
松浦さん:「ポンプ逆転水車」と言うのですが、ポンプの羽根車とケーシングを使い、ダイキンのモーターを載せて、モーターを逆回しにすると発電機になります。そしてインバーターで回転数を制御し、できるだけ効率がよくなるようコントロールをすることで、十分な発電ができるようにしています。
機械的な作り込みをなるべく少なくするよう仕組みを考え、ダイキンの持つモーターとインバーターを流用することで、コストを安く抑えることができました。すなわち、汎用かつ量産されているポンプを流用し水車として利用することでコストを抑え、モーターとインバーター技術で効率を上げました。
私たちがターゲットとしているのは、200キロワット以下、特に100キロワット以下のクラスです。そのクラスの水力発電は絶対高コストになる、と言われていたところを、ダイキンが低コストで実現したことで、今はほとんどライバルがいない状況です。この勝機があるうちに、積極的に営業して全国に拡大しています。
ーすごいですね、全国の水道局はすぐにでも導入したいのではないでしょうか。
松浦さん:そうでもありません。水道局に「いい機械ができました」といってご紹介しても、水道局は予算が潤沢にあるわけではないので、購入は簡単ではありません。議会を通して予算編成しないといけませんし、時間もかかります。
そこで考えたのが、まず私たち自らが投資するということです。ランニング費用も私たちが出します。水道局からは水流と場所を借り、私たちが水力発電をします。発電事業者になって、固定価格買い取り制で電力会社に電気を販売することで収益を得ます。それによりイニシャル費用、ランニング費用を回収しつつ、残りが利益になるモデルです。その利益のうち一部を場所代と水の利用料として自治体にお支払いしています。自治体のみなさまには、このシステムを利用することにより、費用負担することなく、環境に貢献できるということで、非常に喜んでいただいております。
本システム運用には数千万から億単位の初期費用がかかりますが、金融機関のセール&リースバックというスキームを利用しています。これは、作った発電所を金融機関に売却し、その後リース契約を結び、売却した発電所を使い続けるという手法です。所有権を金融機関に売却することで必要な資金調達を行うことができ、それで費用を全て賄うことができます。電気の固定価格買い取り制度の期間が20年なので、20年間のリース契約を結ぶことで売却した資産をそのまま使い続けることができます。水力発電からの売り上げがあれば、毎月のリース代金を支払い、初期投資もランニング費用も払えます。会社を立ち上げる時に一番困るのは現金がショートすることです。そんなことが絶対起こらないように仕組みを考えて会社を作りました。
■地道な営業戦略と価値獲得の重要性
ーセール&リースバックというスキームは魅力的ですね。その後はどのように営業されていますか?
松浦さん:自ら発電した後は、水道局に発電機の営業をする必要があります。このため、金融機関とタイアップして、彼らの営業マンに全国五百くらいの自治体に一次営業をかけてもらいました。そこで関心を持ってもらった自治体に私たちが改めて営業に行き、技術的な説明をしていきました。当初はそのような営業でした。金融機関の営業では技術的な説明が難しいこともあり今はトップダウンで市長などから話をしてもらっています。
現場の水道局は、安全な水を作って供給するというミッションの下に仕事をされているので、実は環境は二の次ということがよくあります。自治体の環境課や環境部は私たちの水力発電に強い関心を持ってくれるのですが、水道局は「これでは取りつけられない」といった技術的なハードルがあるとそこで話が止まってしまいます。そこで私たちが直接出向き、丁寧に技術的説明をしたり、隣の市の水道局の事例などを紹介したりしています。他の水道局の事例を紹介するのがとても効果的です。
ーダイキンの優れたモーター技術を活用できるビジネスモデルがなかったところに、このビジネスが立ち上がったのですね。
松浦さん:はい、そうです。「技術はあります、発電もできます」、それをどのようにビジネスにしていくかを一生懸命考えて、会社を作りました。研究所では、研究開発費が税金を優遇されていますから、事業がしにくい背景があります。
外部の真のニーズは、お金が介在しないと分かりません。「この技術いいですか?」と聞くと多くの人が「いいですね」と言います。ですが、「この技術買いますか?」と聞くとなかなか買っていただけない。技術が購買に耐えうるニーズがあるかどうか検証したいという思いがありました。
経営学の延岡健太郎先生は、価値創造と価値獲得という二つのフェーズがあると仰っています。日本の会社は、価値創造の方は一生懸命やるのですが、ビジネスモデルとしてお金をどうやって回収するか、価値獲得はあまり考えない。私は価値獲得をきちんと考えたかったのです。
ー現在の課題は更に早く広く連携先を増やしていくことですか?
松浦さん:はい。規模の経済を生かすためにも、自治体の意思決定をどうやって早めるか、どうやってスピードを上げていくか、ということが喫緊の課題です。別の視点では、国内市場だけでいいのか、とも考えています。水道局にも順調に入り、評判もついてきたので、もう少し違う展開も考えていきたいです。ただ、海外進出の場合、サービス体制はどうするのか、など問題が山積みなので、まだ時間がかかると思っています。ですが、世界市場に出ないとスケールも生かせないと思うので、何らかの形で進出したいと、今、強く思っています。
ーなるほど。保守管理やサービス体制など、海外にそのままもっていくのは難しいですね。
松浦さん:そうですね。国内でやっていることを海外でやるには、エンジニアが海外出張しなければならないなど難しいです。やはり現地の協力会社を見つけなければならないでしょう。総合商社など色々な組織と協力して考えていきたいです。
また、新しい領域にも注目しています。ダムの放流しているところでは発電が難しく、川を堰き止めているので、ある程度横から水を流しています。これを維持放流水と言うのですが、そこに当社の水車に合う水流量や落差があるので、そこも新しい市場として検討していきたいです。ゴミ問題があり、工夫しなければなりませんが、チャレンジしてみたいです。
■DK-Powerの目指す展望とダイキンへの接続
ー省エネだけに留まらず新しいエネルギーを作り出す、というダイキンの視点から、新しい方向性や可能性についてお聞かせください。
松浦さん:私たちは、全国数十の自治体と環境についてお話できるようになっています。実際、ゼロカーボンシティ対応などで、多くの自治体が困っています。それに対して、私たちの創エネと空調の技術、ゼロエネルギービルディングなどのパッケージを組み合わせてご提案し、空調ビジネス拡大にも役立ちたいと思っています。まだ具体的に成功した事例はありませんが、あと数年で形にしたいです。
また、ダイキンにお世話になってきたので、空調機が売れる仕組みもきちんと作っていきたいと思っています。DK-Powerの売り上げや利益には直結せずとも、ダイキングループの売り上げを伸ばせるような施策を考えていきたいと思っています。
ー地域拠点との連携や、今後目指していく方向性についてお聞かせください。
松浦さん:今後の展望としては、エコシステムを作りたいです。様々な競合企業さまを巻き込んでメニューを豊富にしていきたいです。日本市場はすでに成熟しており、ここから新しく経済的に大きく発展していく事は難しいと思います。日本は、海外に何兆円も払って化石燃料を買って電気を作りますよね。この何兆円という海外へ出るお金を、もう一度国内に戻す仕組みを作る必要があると感じています。電力、再生可能エネルギー、国産エネルギーとして国内に還流させるチャンスだと思います。
さらに、一極集中で東京にだけお金が集まるようなスキームではなく、地域と親和性の高い再生可能エネルギーで、地方にお金が循環する仕組みをつくりたいです。再生可能エネルギーから得た利益を地域で再投資し、経済を活性化するような仕組み、メカニズムを最終的には作りたいです。
ーエネルギーを地産地消して国産化するという点、日本ならではの課題でもあります。
松浦さん:海外に仕組みを売って経済を回すということは、日本にとっても重要な意味があると思います。さきほど空調の話をしましたが、東南アジアのような、特に電気が不足する地域に対して、電気を作る仕組みと空調をセットで輸出できれば良いと思います。
ーロマンと算盤ってやつですね。(笑)
松浦さん:そうです(笑)。ロマンだけじゃ食っていけないし、算盤だけじゃつまらない。
ー実際に事業として進める上での思いや、今後先行きの見えない日本をどう動かしていくか、松浦さまのパッションが伝わる貴重なお話でした。ありがとうございました。
インタビューを終えて
メインインタビュアー・ライター:安藤 智博(あんどう ちひろ)
2021年度 i.school 通年プログラム修了生
i.schoolプロジェクトアシスタント
<企画・運営>
【Innovation Quest】は、イノベーション教育プログラム「i.school」とイノベーション・デザインファーム「i.lab」の共同プロジェクトです。