【アラムナイインタビューvo.1】実践から身体智を積み上げ、言語化することで昇華させていく、「フィットネス3.0」を描く起業家の野望に迫る。
自己紹介と現在の事業について
ーまずは自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
株式会社バディトレ代表の星野雄三です。「離脱しない、日本最大のフィットネスコミュニティを創る」を掲げ、HIIT特化型・短時間パーソナルジム「バディトレ」や「世界一美味しいラーメン屋」などを展開しています。ちなみにi.schoolは東大の修士課程在学中の2013年に修了しました。本日はよろしくお願いします。
ーなぜ起業して現在の事業を始めたのですか。
僕の原体験は、小学校もスポーツが下手でいじめられ、中学校はガリ勉で高校で都内トップの進学校だったものの、全てを注いだアメフト部で怪我をして、最後の大会を出られない、という挫折を繰り返した青年時代だったと思います。
病院の入院・通院時代を経て、医者になることを改め、運動指導者を目指すようになりました。それ以後、ずっとヘルスケアやトレーニング化学などを学んでおり、もともと18歳くらいの頃から、独自のメソッドを開発したいと思っていました。大学院では筋生理学を専攻し、現在は病院に頼らない健康を実現するため、日本最大の続けられるフィットネスコミュニティを創ることで日本最大級のフィットネスコミュニティを実現したいと考えています。
ー学部での研究と大学院の研究は何をしていたのですか?
疫学という医学における統計学のようなことをしていました。行動経済学や解剖学なども含まれます。振り返ると、もうかれこれ15年間ほど同じ領域にいるので、自分の才能はここにあると感じますね。世間では転職する人もいますが、私はずっと人の身体とフィットネスに関心があり、今まで継続しています。起業家として続けることができたら、いつかは勝てると信じています。
i.school時代の活動について
ーi.schoolはいつ参加されましたか?
大学を卒業した後、一年間フリーでバーやシェアハウス、ジムの運営などをしながら生計を立てていました。その後、大学院に進学して東大の修士二年の時にi.schoolに入ることになります。当時から結構有名だったこともあり、友達の紹介やチラシを見て入ったのがきっかけでした。i.schoolに集まった皆さんはオープンマインドで、新しい体験に対して理解する姿勢がある人が多い印象でした。海外の人たちと、知らないことについて議論をしながらアイディア創出した時間は良い経験です。
ー当時の思い出などはありますか?
ちょうど八年前の今日、Facebookの思い出機能でi.schoolでの合宿の写真が出てきました。これは、シンガポール人の学生と国内の伝統工芸品に関するワークショップを実施してたみたいですね。八年前に戻れるなら戻ってみたいです。同世代ではそこまで老けてない方だとは思いますが、この頃は若く見えますね(笑)
ー今の事業をはじめたのはいつですか?
ふんどしに関する事業が六年目、ジムが四年目になります。自分もまだまだ現場で教えていますね。会社はアルバイトや業務委託を含めて5名ほどのチームです。事業のメンターとしては、哲学や法学、医学を専門とするスイスの研究者と対話する機会を設けています。やはり、バイアスのせいで内部の人間が認識していない価値を外部から教えてもらえるので重要です。まだまだ零細企業ですが、ここからスピードを上げていき、新規事業におけるマーケティング、イラスト、PRなどができる全方位のクリエイティブ人材を募集中ですので、ぜひぜひ紹介してください。
起業家という選択肢について
ーなぜ起業家というキャリアを選択されたのでしょうか?
先述したように、怪我という挫折体験が大きなきっかけでした。これは起業のきっかけ、というよりは、この分野に進んだきっかけ、ですが、学び、個人で指導をしている過程で、そのまま事業にする形になったというのが実状です。まずは小さく試して、事業化する、というのを結果的に実践していたことになりますね。
解決したい課題としては、やはり「健康問題において、人は自分のためであっても継続できない」ということですね。楽しいことやお金が絡むこと、例えば仕事などの強制力が働くことはできますが、なかなか人は自分の理想に向けた行動はできないんです。そのため、知識や自分の経験を教えるだけではなく、ペース配分の指導やモチベートすることにも力を入れています。今週の土曜日もみんなで山に合宿に行きますし、「最近体めっちゃ鍛えているよね」といったことが自然に発生するコミュニケーション設計は心掛けています。
ー何が起業家としての原動力になっていますか?
原動力でいうと、この領域でしっかりと伝えていかなければ、皆さんの将来に不幸が待っているということを実際に肌で感じたからというのはありますね。また、トレーニングの楽しさそのものよりも、自分自身の毎日のルーティンであるという点も大きいですね。実践することと、教えることは全く違うことですが、運動すると明らかに良いことが多いということは原体験としてあります。またお金を払ってトレーニングしているのではなく、もらいながら仕事としてやっているので怠けられないですね(笑)そういう意味では自分は一生、離脱できない、環境という構造を作って、ある種、機械的に行うことで自身のクリエイティビティを高めています。
ーフィットネスという分野は大変そうですね。
大変なので、システムを構築します。例えば「if then」ルール。生徒に対して飲み会が入った日は朝昼ご飯を抜いてねと伝えています。他にもお酒を飲んだあとはノンアルコールを入れましょう、など。飲む量は飲む時間に比例しますし、「3杯でやめてください」って言っても、おそらく2次会に行ってしまった瞬間に約束は守られません。そうではなくて「何次会まで行ってもいいからその代わり、合間にソフトドリンクを挟んでください。それなら倍の時間がかかりますよね。」と、伝えてあげる。飲み会は断ってないので達成しやすい環境で、出来るだけハードルも下げつつ「あなたはできそうですか」と問いかけてあげます。
論理的に伝えてあげると、「星野さん明快ですね」とお声を頂きます。正直アルコール成分のどこが作用していて、どの飲み物ならどうで、どんな体の機能が働いて、って言ってもなかなか伝わらないし理解しにくいですよね。皆さん仕事に疲れ果てて、深夜12時にコンビニでスイーツを2つ買って食べています。人は理性が働かない状況において、適切な判断は難しく、そこから過食症、拒食症、スイーツ巡りが始まってしまいます。そこを「乾杯したら、水挟んでね。」これだけでいい、これならみなさんできます。
こういうことを話していると「星野さんってパートナーに対してすごい厳しそうだよね。」などと言われますが、全く逆です。ケーキを持ってきたときに「今日は美味しく食べて、明日から節制しようね」ぐらいに言える立場じゃないと、そもそも相手をモチベートできないので(笑)相手のポジティブな点に対して気付くのがプロの仕事だと思っています。
ー他人に指導するときのコツなどを伺ってもよろしいですか?
まずは、自分の経験を伝えることがステップとして大切です。そのためには教えられるメソッドが何かをしっかり言語化しなければいけないですよね。メタ認知しながら、自分の価値を理解することが大切です。また自分の思想がメソッドにちゃんと紐づいている必要があります。
トートロジーではないですが、言語化できないものをどうにかして言語化しないと、昔の弟子制度みたいな形でしか伝承できなくなっていきます。例えば「吸引の際に横隔膜を膨らませましょう」といっても伝わりにくいですが、「この風船を膨らませるイメージで」とか「後ろの椅子に持たれる形で突っ張ってみてください」とかの方が伝わりますよね。「骨盤を旋回させてください」といった専門用語ではなくて、「後ろを軽く振り返ってみてください」とか、「自分が猫になったような形で」とか全然伝わり方は違います。極めて誰もが明瞭に理解できるようにすることが肝心です。
ここを鍛えるには、そもそも身体智を増やす必要があります。ロジカルな思考だけでなく、身体智が寄り添っていかなければならないんです。ビジネスも同じく極めて身体智と言えると思います。大企業でも現場の連携で動いており、経験則と身体智に基づいているから失敗がないんです。
ーちなみに学生時代にやっておけばよかったことはありますか?
会社員はやっておけばよかったですね。社会的なマナーとか全くわからなかったので...。ただ、当時独立したいって言ってた友達はみんな独立していないですし、結局その時会社員だったら、私も今独立してないかもしれませんね。特に破産などもしていないのでなんとか生きることができているのでこれで良かったのかもしれません。
ー事業をする上で大変なことはありますか?
事業をやっている以上、お金の心配はしますね。期待してくれている人たちや雇っている人がいるので、そこに対する恐怖はずっとあります。恐怖感を感じながらも、続けていける理由としては単純に事業に陶酔しているからだと思います。事業の価値を信じ切っているからこそ、自分だけがそこに打ち込めると思いますし、世の中で価値を証明するには、芸術家になるか起業家になるか、学者になるか、これしかないと思います。アーティストではないなと思いつつ、自分は学者への道も断念したので、そうなると残った起業家で自分の価値を証明したいと思っています。
ある意味、現在はフィットネスで稼ぐということ自体は破壊的ではないのですが、フィットネスのサービスをどう破壊的に提供するかと言うことに頭を使っています。例えば、スローガンを「街ごとフィットネスにする」など、起業家として夢を描くことを意識しています。運動してから、スッキリと仕事に戻れるサービスなどは今はまだあまりないですよね。ここに、運動できるトレーラーや、地下鉄などのモビリティと絡めるなど、新たな未来を作っていきたいと思います。やるぞと思った時はジャンプしないといけないので難しいですけどね。やっぱり挑戦に対して、背中を押すことは必要だと思いますが、構造に組み込むということが大切なんですよね。論理を超えなければいけない。
ー最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします!
皆さんも、ぜひ良いアイディアで、光るものがあれば実際にやってほしいと思います。茶道の良さは行為の中に内包されており、言語化するのは難しいですが、茶道をしている人々は空間や身体所作、間が何を意味しているかを感覚的に理解しているはずです。きっと、その行為の中に価値があるんですね。
アイディアを出すことは若い方は得意なんですけど、実装するフェーズはもっともっと泥くさいことを知って欲しいとも思います。正直、やっぱりアイディア自体には価値はないというのが事実です。実装するために、目を見てコミュニケーションをとって、どうするかをしっかり話して、関係性を紡いでいかないと、形にはならない。だからこそ体験すること、アイディアからの即実装が一番大事ですね。ぜひ社会的なテーマで事業を立ち上げる方は、楽しんで企画を作って頑張ってください。
メインインタビュアー:安藤 智博(あんどう ちひろ)
i.school/JSIC インターン
拓殖大学 卒業
サブインタビュアー:下村 美来(しもむら みく)
2022年度i.school通年プログラム通年生
慶應義塾大学商学部4年
サブインタビュアー:彭 思雄(ぼう しお)
i.school/JSIC インターン
東京大学大学院新領域創成科学研究科 博士課程3年
サブインタビュアー:渡邊 清子(わたなべ さやこ)
2022年度 i.school 通年プログラム通年生
お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 修士2年
バナーデザイン:赤星 萌(あかほし もえ)
2022年度 i.school 通年プログラム通年生
多摩美術大学美術学部 卒業
撮影:林 亜琉斗(はやし あると)
2022年度i.school通年プログラム通年生
武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科
写真提供:インタビュイー星野さん