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恩田陸・ネバーランド

恩田陸さんの小説だ。高校一年生の時に初めて読んで、その後新宿の紀伊國屋で買った。なにか予定があって、時間をつぶさなくてはいけなくてパパっと知ってる本でいいやと思って買ったやつだ。

あらすじとしては、まあまあ良く見る学園物で、年末年始に松籟館という名の寮に残った男子高校生四人の話である。

年末年始に寮に残る生徒は少ない。いつもの学園生活であれば隠し通すことができる自分の過去、自分の性格というものが、年末年始には露になる。いつもの学園生活なら、お前はこの役割、あんたはその役割と割り振られた、自分で勝手に割り振った役に徹していればいい。そうすれば学園生活というものは、コマのように安定して回り続ける。だけれども、年末年始はそうはいかない。学園生活の中で与えられた自分の役割を全うしているだけでは、四人だけの閉鎖空間をやり通すことができないからだ。通常の学園生活で他人が担っていた役割を担うことが求められる。上っ面の、作られた、張りぼてのような自分ではなくて、本当の自分というものを感情に乗せてさらけ出す必要が出てくる。当然、自分が今まで明かしてこなかった暗い過去が表に出てくる。

いつもひょうひょうとしているけれども、母親の自殺/他殺について葛藤してきた統。賢く、温厚な人柄だけれども、大人としての選択権を持たせているように見せかけて、実際は、親の保護下でしかない子供の論理で両親の離婚という問題を解決するように迫られる寛司。女にモテるけれども、幼少期に父親の不倫相手に誘拐された経験が、高校生になって影響が出てきている美国。冷静沈着で、頼られているけれども、後妻に「飼われている」光治。通常の学園生活では一切見せないその影が、少人数で生活するとどうしても見えてしまう。高校での毎日なら、大体馬鹿話して終わるのに、二人で会うとなると、二人だけで一日行動するとなると、なんか言うはずじゃなかった過去の話をぽろぽろと話し始めてしまう自分に少し重なるところがあった。私の過去は、松籟の四人とは比べ物にならないくらいみみっちい話だけれども。

自分の暗い過去を受け止めてくれる仲間が、松籟館にはいたということが、彼らにとっては救いだったのだろう。そして、一人一人がそれぞれの人生をそれぞれの速さで消費し、他人の人生と自分の人生が交錯し続ける中で、自分の語ることができなかった過去を共有する時間の共有ができた松籟館という建物は、彼ら四人にとってのネバーランドなのだなと感じた。

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