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聖地巡礼という行為は今も昔も・・・/La Capela Reial de Catalunya, Hesperion XXI, Jordi Savall - Llibre Vermell de Montserrat [Alia Vox]

Artist: La Capela Reial de Catalunya, Hesperion XXI, Jordi Savall
Title: Llibre Vermell de Montserrat
Label: Alia Vox
Genre: Classical, 
Format: CD+DVD
Release: 2016

スペイン王国出身、古楽器アンサンブル集団Hesperion XXIを率いる指揮者Jordi Savallによる、自身が主催する古楽を始めとするクラシック音楽レーベルAlia Voxより、中世の巡礼者のための音楽ライブ。

聖地巡礼とは、漫画・アニメ・映画・舞台など熱心なファンが原作の舞台となった場所や縁のある地へ実際に赴くことを指す。元々は宗教用語で、その宗教において重要な意味合いのある聖地へ訪れるという言葉に起因する。アニメや漫画などが一般的な認識となり生活に浸透するようになると共に、この言葉もメディアなどで取り上げられ社会現象となってからは誰しもが知る言葉となった。

この聖地巡礼という行為は、実は古楽にも見られる。
1399年に制作されたとされる「モンセラートの朱い写本」が例と挙げられる。この写本ができた経緯というのが非常に人間味に溢れていて面白いのである。

スペイン王国・バルセロナ郊外にあるモンセラート山には、黒い聖母像があることで有名なモンセラート修道院があるという。1025年に設立されていたようであるが、888年には礼拝堂があったことを確認されているという、歴史ある修道院である。黒い聖母像という、宗教的に重要な意味合いを持つモニュメントがあるため、敬虔なキリスト教信者は各地よりこのモンセラート修道院に聖地巡礼として赴いたという。こうして、世界各地より熱心な信者が世界各地より集まると、そこには聖母像巡礼というキーワードを基にした一つのコミュニティーが形成される。人と人が交わればコミュニケーションが発生することは容易に想像できるだろう。しかし、現代のように旅行先に宿泊施設が充実しているわけではないので、修道院付近で野営という形で滞在していたものと思われる。そうなると、次に何が起きるかというと、平たく言えば歌や踊りの祭りがモンセラート修道院の目の前で繰り広げられることとなる。モンセラート修道院もこれには困るが、遠方よりわざわざ巡礼のために集まった巡礼者に対して無下に追い返すことも歌や踊りを禁じることもできない。その打開案として提示されたのが、歌や踊りも聖母マリアを祀るものであれば許可するという内容であった。これにより、モンセラート修道院の前で聖母マリアを讃える歌や踊りで満ちることになった。音楽は聴覚を通して音の世界を楽しむものというが現在の一般的な価値観であるが、音楽には宗教的な行事や祭事、儀式に使われるという側面があり、その記録を残すために教会や修道院には音楽的な素養を持ち合わせる人間がいたという。このモンセラート修道院にも音楽的な素養のある人物はいたようで、外で行われている歌や踊りを譜面に起こして書き残したものが、本作のモンセラートの朱い写本の始まりである。この段階ではまだ朱くはなく、修道院側がモンセラートの地を治めている貴族に、この写本を寄付もしくは保管をお願いする形で収めた後、ただの紙束だった写本に朱い装丁を施したことで、現在も残っている朱い写本となったという。※装丁時期については要検証。

クラシック音楽の時代で言えば、本作はルネサンス期(15世紀~16世紀)より前の中世(5世紀~15世紀)にあたる時期で、14世紀は音楽は宗教的な枠組みを超えて協会に関係のない一般大衆にも普及し始めた頃である。日本では鎌倉時代に該当する。

本作はクラシック音楽に代表されるような音楽とは異なり、グレゴリオ聖歌のように荘厳な声楽や宗教音楽と呼ぶには賑やかなダンサンブルかつ大衆向けな歌謡曲であったりと、非常にバラエティーに富んだ楽曲が収録されている。ルネサンス期を含む、それ以前の古い年代のクラシック音楽の面白さは、何故だか現代的な音楽に聞こえるのである。一周回って端と端がどこかつながるような不思議な感覚がある。本作も例にもれず、現代でも違和感がないような不思議な様相がどこか漂っているように思う。

また、当時の巡礼者が聖地へ赴き何をしていたのかという音としての記録が楽譜として残っていること、更にそれを再現したという試みが非常に面白く、遠い過去と現代とが環としてつながったように思える。再現したというのは、当時の楽譜が現在の五線譜ではなく、計量譜と呼ばれる楽譜の先祖にあたる譜面であるからだ。聖地巡礼により人が集まることで、現在で言えば経済効果やSNSによるコミュニケーションが、14世紀のモンセラートの地で言えばお祭り騒ぎが、というように、重要な地へ遠くから赴くという行為は昔から存在して今も継続しており、人の行動原理は科学技術が発展しようと変わらない本質的なものがあるということは非常に興味深い。

余談であるが、バルセロナの州であるカタルーニャ州はスペイン王国からの独立運動が盛んな地域でもあるため、付属のブックレットはカタルーニャ語で書かれていることも興味深い点である。

※歴史や音楽の専門家ではないため、記載には誤りがある可能性がございます。予め、ご理解賜りたく存じます。

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