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HASSENBAは開業1周年を迎えます
球磨川くだり人吉発船場に令和3年7月4日に開業した観光複合施設HASSENBAは令和4年7月4日で開業1周年を迎えます。多くの皆様のお力添えで開業にたどり着いたHASSENBAは1年を経て目標としていた人吉球磨の新たなランドマーク・復興のシンボルとしての立ち位置を確立できたと自負しています。特に手応えを感じているのは観光客だけでなく、地元の皆様にも多くご利用頂いていること。地域の憩いの場としてもHASSENBAをご利用頂いていることはスタッフのモチベーションにも繋がっています。
HASSENBA開業までの1年間は下記の記事をご参照ください。
高い評価を得ているデザイン
HASSENBAを表す代表的なフレーズに”お洒落”があります。落ち着いた雰囲気の入口側と全面にカーテンウォールを採用した川側。デザインを担当して頂いたタムタムデザイン田村さんは私からのヒアリングをもとに意図的に川側を”施設の顔”としてデザインしました。私は「室内から川の景色がよく見えるデザインにして欲しい」と伝えたのですが、田村さんはその意図を深掘りした結果、川側がHASSENBAの顔になると感じたそうです。
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実は1年間で少しずつ外観は変化をしてきました。今年3月にテラスにパラソルを設置。本当は昨年開業時に設置したかったのですが、納品に数ヶ月かかることがわかり断念して春の行楽シーズンに合わせて導入しました。パラソル一つで雰囲気がガラッと変わり、パンケーキカフェの利用者も室内ではなくテラスから席が埋まっていくように。また、4月末に船倉庫が完成し入口側の雰囲気も一変しました。
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外観だけでなく内装もこだわり抜いているHASSENBA。観光業においてデザインは重要で、どんなに良いものでもデザインが悪ければ付加価値が低下します。そして何より見た目のデザインだけでなくビジネスモデルのデザインも考え抜かれているのがこのHASSENBA。残念ながらこれまでの人吉球磨地方においてデザイン経営の概念はほとんど見受けられませんでした。はっきり言えばデザインの価値をあまり重視していない地域だとも言えます。その結果、球磨川くだりだけでなく、人吉を訪れる客層自体が中高年メインであり若者・家族連れの集客ができなかったのです。加えて若者がやりたい仕事、働きたい企業もなく若年層が次々に市外に流出し、労働者も中高年が中心となっています。しかしHASSENBAの開業以降、球磨川くだり人吉発船場を訪れる約7〜8割のお客様が女性となり若者や家族連れ中心となり客層が激変。また、当社のスタッフも大幅に若返り、実は2021年・2022年と2年連続新卒(大卒)を2名ずつ採用できています。この事にベテラン船頭や地元関係者は一様に驚いており、リブランディング効果の凄さを感じています。
公共性も高く評価をされている
私はHASSENBAの開業にあたり繰り返し「復興のシンボルを目指す」と発信してきました。それは何もお洒落な施設を作ることを意味していた訳ではありません。私がHASSENBAには下記の拠点性を持たせることを意図しました。
・関係人口、交流人口の拠点になる
・経済復興のエンジンになる
・防災拠点としての機能を兼ね備える
これは零細企業が果たす役割としては重過ぎることではありますが、行政はインフラ及び生活再建で手が一杯であり、他の民間事業者も自社の立て直しで精一杯。だから誰かが実行しなければならない。だったら俺たちがやってやると気合いを入れて取り組みました。このことは自分達から対外的にアピールした訳ではなかったのですが、やはりちゃんと理解してくださる方がいらっしゃるんだと言うことが開業数ヶ月後にわかりました。
復興デザイン会議第3回「復興設計賞」を受賞
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ある日突然1通のメールが届きました。「復興デザイン会議主催の復興設計賞受賞おめでとうございます」と。初めは何のことかわかりませんでし、復興デザイン会議という団体自体を知りませんでした。
【復興デザイン会議について】
東日本大震災・原子力発電所事故から10年が過ぎても多くの地域は未だ復興の過程にあり、そうした中でも気候変動による災害の常襲化、感染症の爆発的な広がり、貧困や難民の発生等、さまざまな危機に日本・国際社会は晒され続けています。こうした災害や危機に対して、我々はどのように備え、また乗り越えていくことができるでしょうか。
復興デザイン会議は、復興の研究と実践に携わる活動を組織だて、その情報の交換、相互研鑽の場を提供することにより、復興研究の推進と復興政策・復興計画・復興設計技術の確立と普及、技術者・政策立案者・計画者・設計者の教育を推進することを目的に、2019年12月に設立されました。
復興現場で格闘を続ける実践者、災害と復興のメカニズム解明に取り組む研究者、そして未来の都市・社会の形成、復興を担う若手・学生が、互いの取り組み成果をもとに分野を超えた議論を行うことで、次の復興に向けた知見の体系化と、来るべき災害に備えるための実践的ネットワーク構築を目指してまいります。
応募した訳でもないのに一体誰が推薦してくれたのだろうと。そこで尋ねてみると同会議メンバーでもある熊本大学の星野准教授からの推薦があったとわかりました。星野先生は私も一度だけ食事をご一緒させて頂いた機会があり、本業のシークルーズが深く関わる県営三角東港のリニューアル工事の設計に携わっていらっしゃるなどご縁がありました。また、再建チームメンバーであるASTER中川さんと一緒に白川BANKSというまちづくり会社で熊本市内の中心を流れる白川の活性化に取り組んでいらっしゃいます。このような様々なご縁があったこともあり、星野先生は普段から気にかけて頂いていたようで今回の推薦となりました。そして何より嬉しかったのが受賞理由。我々再建チームがHASSENBAに込めた意図をここまで理解して頂けているのかと感銘を受け本当に嬉しく思いました。
【審査員コメント】
HASSENBAは,令和2年7月豪雨により被災した球磨川下りの人吉発船場をリノベーションした観光複合施設です。まず驚かされるのは,そのスピード感です。豪雨により,発船場は1階が1.5メートル浸水し,川くだりの舟は全て流出するなどの甚大な被害を受けましたが,1週間後には泥出しや掃除を終え,1ヶ月後にはプロジェクトチームを作って再スタートに乗り出しました。プロジェクトの具体化にあたっては,なりわい再建補助金を有効に活用するなど,民間ならではの実行力で,被災からわずか1年で再建されています。また,再建されたHASSENBAは,被災前の乗船券発売所と待合室の機能だけではなく,地域交流を促すカフェやショップ等も合わせた人吉市民にとっても望んでいた複合施設となっています。またその空間も,球磨川越しに人吉城を望むという素晴らしいロケーションを最大限に活かした開放的で居心地の良いものです。被災建物が解体され空き地が広がる人吉において,晴れやかな気持ちで気持ちよく集える場所が存在することの価値は計り知れません。過去2回の復興設計賞は全て公共プロジェクトが受賞していますが,公共が届かないことを,優れたパブリックマインドを持って実現しており,新しい復興の姿を示すものだと評価できます。以上より,令和2年7月豪雨からの復興デザインとして復興設計賞として選定します。
リノベーション・オブ・ザ・イヤー2021総合グランプリを受賞
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この賞は正直狙って応募しました。リノベーション・オブ・ザ・イヤーは名前の通り優れたリノベーション物件を表彰するコンテストで2021年が第9回。田村さんはこれまでの8回で2度の総合グランプリを受賞しており、業界では名の知られた存在です。また、ASTERも九州リノベーション業界の主力メンバーでもありタムタムデザイン×ASTERのユニットでの応募はそれだけで最有力候補の前評判でした。だからこそ審査員の方々は選びにくかったでしょうし、参加者からも出来レースが疑われるほどだったので逆に我々再建チームとしてはその空気感から受賞を逃すのではという不安感いっぱいで授賞式に参加しました。結果はタイトルの通り総合グランプリを受賞。本賞の審査委員長である島原万丈氏の講評がとても印象的でした。
【島原氏 講評より】
本作品は、2020年7月の豪雨により洪水被害を受けた熊本県人吉市において、観光施設「球磨川くだり発船場」をリノベーションで再生したものだ。
一見、本作品はコロナとは無関係のように思うかもしれない。しかし、HASSENBAが観光レジャー施設である以上、コロナ禍と切り離してこの作品を見ることはフェアではない。コロナ禍において政府や首長、あるいは感染症の専門家やマスコミは、外食や観光・レジャー、芸術、芸能、スポーツなど、いわゆる“遊び”とみなされる活動を、さしたる根拠もなく不要不急と切り捨てたことを思い出してもらいたい。HASSENBAは、もっとも強烈にコロナの逆風が吹いた分野でのリノベーションなのである。関係者がどれほどの決意で再生プロジェクトにあたったのか、胸が熱くなる思いだ。
この2つの受賞は心の底から嬉しかったですし、再建チームメンバー全員が1年間苦労した甲斐があったと充実感に満たされました。受賞は副産物ではありますが、本当にハードな1年をチームで過ごしたこともあり、表彰して頂けた事は今後の励みにもなります。
交流人口・関係人口の拠点へ
まずはこの動画を見てください。子供たちが走り回り、人々が寛いでいる。人吉の街に壊滅的な被害をもたらした球磨川だとは想像できないほどの川が憩いの場所となっている。これがHASSENBAが目指した”復興の拠点”です。災害からの復興は長い月日が必要。だからこそ、市民が観光客がほっと一息つける場所が必要だし、長く恵みをもたらしてくれた球磨川の良さを再認識する場所が必要だと考えます。それがHASSENBAプロジェクトの根幹にある想いです。
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様々な用途でHASSENBAは地域の関係人口・交流人口を生み出す場となっています。そして私たちはHASSENBAを利用して頂くお客様からの言葉で立ち位置を理解することができます。観光関係者の方からは「もしHASSENBAが無かったら観光客は来ていたのかな?」。地元出身の方々からは「HASSENBAが出来たので帰省しました。同級生と集まります!」。年末年始はおじいちゃん・おばあちゃんから「孫が2年ぶり帰ってくるからHASSENBAに連れてきたよ!」と言って頂きました。このように人吉の生活に密接に関わる場として確固たる地位を築きつつあります。
さらに進化を続けている
HASSENBA開業が第一期としたら4月末の船倉庫完成しが第二期のスタートと言えます。この船倉庫は船の整備はもちろん、ラフティング・アクティビティの拠点にもなります。更衣室・シャワールームを完備し、一般のツアーから修学旅行まで幅広い対応が可能となりました。
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人吉発船場は本来アクティビティの拠点。HASSENBAへのリニューアルに伴い、九州パンケーキカフェやショップのイメージが強くなっていますが当社の本業は川下りを中心としたアクティビティ。川下り・ラフティング・サイクリングの三本柱をこれまで以上に伸ばしていくことが重要だと考えます。
2年目に向けて
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現在の人吉市街は被災後いちばん更地が多い状況で、復興はまだまだ時間がかかるのは間違いありません。水害によって地域経済は大きく衰退しました。特に観光業はただでさえコロナ化で厳しい状況下にある上に主要温泉旅館がほとんど被災し、JR肥薩線も復旧の見通しが立ってないなど逆風だらけ。しかし、HASSENBAがあることで観光の復活への道筋が立ち始めてきました。また、年末から来春にかけて続々と被災旅館がリニューアルオープンする予定です。2023年からが本当の意味で観光産業が生まれ変わると言えます。復旧から復興へ。HASSENBAの2年目は「復興のシンボル」から「観光産業の牽引役」へ立ち位置をアップデートさせながらスタッフ一同頑張っていきたいと思います。
ここから先は
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水辺のまちづくり|観光・公共交通・三セク再生のリアル
熊本県をフィールドに観光と公共交通を軸とした水辺のまちづくりに取り組んでいます。また、補助金なしで公共交通立ち上げや債務超過の三セク再建な…
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