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【新連載】「さくら、舞う」第一章 #1 新しい出会い
本日より新連載「さくら、舞う」がスタートします!
物語としては「愛の歌を君に2」の続きになりますが、
原点回帰、男女の交流を描く予定です(ただし年齢は30前後 σ(^◇^;))。
<第一章の登場人物&バンド紹介>
サザンクロス(アコギバンド):
麗華(ボーカル&アコギ)、拓海(アコギ)、智篤(ボーカル&アコギ)
実年齢は内緒💕麗華はメジャーで「シンガーソングライター・レイカ」として、拓海と智篤はインディーズバンド「ウイング」の名で活動していたが、拓海の病を機にかつてのバンド「サザンクロス」を再結成した。
拓海を死の淵から救ったタイミングでなぜか20代の容姿に。ミュージシャン歴は30年以上。
数ヶ月前に、市営球場で一万人を動員してのライブを成功させた。現在はブラックボックスとともに新しいバンド「サザン×BB」を結成、活動の幅を広げている。(詳しくは「愛の歌を君に」1、2を参照)
ブラックボックス(三人組バンド):
◎ユージン(第一章の主人公)(祐仁・エレキ→ドラム)、セナ(星夏・ボーカル)、リオン(理恩・キーボード)。三人はきょうだいで、長子ユージンは25歳、双子のセナ・リオンは21歳。自分たちの曲に振りを付けたミュージックビデオをウェブ配信してブレイク。サザンクロスと一緒にライブしたのを機に六人バンドの結成を提案し、実現させた。
◎水沢さくら(第一章の主人公):
麗華の弟、水沢庸平の娘。現在32歳。
20歳の時に両親が円満離婚し、その後父親とは一度も会っていない。
職業は画家だが、なかなか芽が出ず苦戦中。人の顔色を見るのが得意だが、常に胃痛を感じながら生きている。
シンガーソングライター・レイカ時代からのファン。
西森有理沙:
「ゆうび奏社」社長。その前は「ハイスカイ・ミュージック」で社長を務めていたが、アリーナライブを失敗させた責任を取る形で辞職。しかし辞職の真の理由は麗華たちの音楽に感化されたから。現在では自らもピアニストとして活動しながら彼らと共に音楽で人々の心を癒やす活動をしている。美魔女との異名を持つ。
第一章
1.<祐仁>
思いつきで言った「六人でバンドを組む」と言う案が、まさかこんなにも早く実現するとは思っていなかった。「サザン×BB」という新しいバンド名は、麗華さん、拓海さん、智篤さん属する「サザンクロス」と、オレたちきょうだいのバンド「Black Box」の頭文字を組み合わせたもの。メジャーとインディーズの中間に位置する音楽事務所、「ゆうび奏社」に在籍しているオレたちは現在、リアルイベントを中心に全国各地を巡っている。
ここ数年は兄妹仲が悪く、バンド活動を続けていけるかどうかすら怪しかったブラックボックスが復活できたのはすべてサザンクロスの、中でも麗華さんのおかげだとオレは思っている。姉さんがいなければ、途中でメジャーの音楽事務所に引き抜かれた弟を連れ戻すことは出来なかったと思うし、そのまま解散していたとも思う。
その出来事を抜きにしても、共演ライブが終わる頃には麗華さんの歌声にオレ自身が虜になっており、ライブ終了と同時にそれぞれの活動に戻っていくのが寂しいと感じるまでになっていた。思わず飛び出した「一緒に活動しませんか?」と言う台詞には誰よりもオレが一番驚いたが、麗華さんたちがあっさり了承してくれたのは正直に言って嬉しかった。
この先もずっと麗華さんの歌声を間近で聞ける……。こんな幸せなことはない。もちろん、麗華さんには拓海さんという、これまた素晴らしい人間性を持つ恋人がいるし、美声と優れたギターテクニックを持つ智さんも麗華さんを好いているらしいから、オレみたいな若いのが何を言ったってライバルにすらなれないのは分かってる。しかし、だからといって黙って眺めているオレではない。自分の想いは常に表に出していく、それがミュージシャンであるオレのポリシーだ。
「どうっすかねぇ、麗華さん。オレの新しい楽器テクニック。エレキだけじゃなくてドラムも叩けるなんて、多彩な才能を持ってると思いません?」
今日はサザンクロスの三人が住む家の一角にある音楽スタジオに来ている。六人組になってからドラムに転向したオレは、他のメンバーより多く練習する必要があるため、以前にも増して彼らのスタジオに厄介になっている。そんなオレのために新しいドラムまで用意してくれた麗華さんには感謝の言葉しかない。
「素晴らしいと思うわ。アコギ以外を弾けと言われてもあたし、無理だもの」
「……惚れちゃったり、しません?」
「そうねぇ、何でも出来る人って尊敬しちゃうわね」
「もう! レイさまったら!」
姉さんの様子を端で見ていた妹のセナが、イライラした様子で口を挟み出す。
「お兄ちゃんはそういう返事を期待してるんじゃないのよ。レイさまに、『ユージンのことが好きよ』っていって欲しいのよ!」
「……え? ユージン、あたしのこと、好きなの? まぁ、嬉しい。ありがとう」
麗華さんは妹のストレートな言葉を聞いてもどこか他人事のように答えた。理由は分かっていたが続く言葉を聞いて、やはりと思う。
「んー、だけどごめん。あたしには拓海や智くんがいるから……。それに、好きだと言ってくれるのは嬉しいけど、あんまりにも年が離れすぎてるわ。ユージンは若いんだから、もっと年の近い子に恋するべきだと思う」
「見た目年齢的には変わらないじゃないっすか……」
実年齢は親のちょっと上くらいだが、今はなぜか二十代の容姿になっている。本人たちにも理由は分からないらしいが、見た目だけで言えばオレたちと麗華さんとは同年代。一緒にいても何ら違和感はない。
「ふーん……。ユージンって案外、情熱的なのね。知らなかった」
麗華さんはオレの不満を聞いても冷静に対応する。
「……ねぇ。見た目があたしにそっくりで、年がユージンに近い子を紹介してあげましょうか。もしかしたら氣が合うかもしれないわ」
彼女には子供はいないはずだが、その条件を満たす人間などいるのだろうか……? 首をかしげているとすぐに答えが示される。
「あたしの弟の娘。つまりはあたしの姪っ子で、名前はさくらちゃんって言うの。もう何年も会ってないけど、あのライブはどこかで見てくれてたっぽいのよね。実は、彼女の名前でお花をいただいていて。『水沢さくら』名で届いてたから未婚だとは思うんだけど……。ああ、ちょっと待ってて」
麗華さんがその場をあとにすると、そばにいた弟のリオンに肘で小突かれた。
「……今日は拓海兄さんと智篤兄さんが風邪で寝込んでるからって、急にアピールしちゃって。おれたちが一緒についてきてなかったらどうなってたことやら……」
「……想いを伝えるくらい、いいじゃんか。ライバルが不在の時にやらずして、いつやるってんだ?」
「まぁ、それもそうか。しっかし、まさか兄ちゃんが熟女好みだったとは……」
「……素敵な声の女性がたまたまそういう年齢だっただけだよっ!」
「たまたま、ねぇ……。おれは姉さんの言うように、年の近い姪っ子さんの方がまだいいと思うけどな」
「麗華さんが推薦する人だからって、見たことも会ったこともない人だぜ? 姉さん込みで会うのなら話は別だけど」
「もちろん、あたしも同席するわ。いきなり二人にするなんて、さすがにあたしもそこまで鬼じゃないわよぉ」
どこからか古いアルバムを持って戻ってきた麗華さんは、「この写真。ほら見て、そっくりでしょう?」といって指し示した。
確かにその人物は麗華さんと言われても納得してしまうほど似ていた。しかし隣には、今の見た目より少し年のいった麗華さんと、先日会った麗華さんの弟さんが写っている。
「この人が、さくらさん?」
「そう。かわいいでしょう? 弟が離婚してからはあたしも疎遠になっちゃってたんだけど、いただいたお花に、差出人名と電話番号が書いてあったから連絡を取ることは出来るわ。ちょうど久しぶりに会いたいと思ってたところなの。連絡がついたら、一緒に来る?」
「会ってみろよ、兄ちゃん」
「そうよ、レイさまが紹介してくれる人だもの。一度だけでも会ってみたらどう?」
「…………」
リオンとセナが面白がるように言った。もう一度、写真のその人を見る。
「……何か、寂しそうな顔してるな」
どこか、影がありそうな表情。こういう人を見るとなぜか放っておくことが出来ない。
「じゃあまぁ、会いますよ。ただし、一回だけ。それと、会った帰りはオレとデートしてください。それなら会います」
「いいわ。……うふふ。ユージンとデートすると知ったらあの二人、どんな顔をするかしらね?」
こっちは真剣なのに、やっぱり姉さんはオレを子供だと思っているのか、弄ぶように笑った。
2.<さくら>
シンガーソングライターのレイカが伯母であることを、私は誇りに思っている。売れない画家である私は絵を描く以外何の取り柄もないが、彼女が身内だと思うだけで強くなれる。だから、レイカがアコギバンド「サザンクロス」のメンバーとして再出発し、更なる進化を遂げたと知ったときはめちゃくちゃ嬉しかった。自分から直接会いに行ったり、連絡を取ったりする勇氣はないが、代わりに楽屋に花を贈り、ライブ会場に足を運んだ。これからも影ながら応援しているという、その氣持ちをほんのちょっとでも伝えたくて。
◇◇◇
相手がミュージシャンとは言え、自分の伯母のポスターやグッズを買い込むのはおかしなことだろうか。たとえ母でもこの部屋に上げたくないと思ってしまうほど、ライブ後の部屋は「サザンクロス」のグッズで溢れかえっている。
◇◇◇
そんなある日のこと。私のもとに知らない番号から電話がかかってきた。人見知りなので普段だったら無視するところだが、今日だけはピンときてすぐに通話ボタンを押す。
『あ、もしもし。水沢さくらさんの携帯電話ですか?』
「はい」
『ああ、良かった。あたし、麗華よ。水沢麗華』
予感は当たった。やはり麗華ちゃんだった。私はなぜか幼い頃から彼女のことをそう呼んでいる。妹が欲しかった彼女はちゃん付けで呼ばれるのが嬉しいらしく、姪の私が大きくなってもそう呼ぶことを許してくれていた。その麗華ちゃんが嬉しそうに言う。
『先日はお花をありがとう。おかげさまでライブは大成功だったわ』
「会場で聴いたよ。ますます進化した麗華ちゃんの歌声を聴いて痺れちゃった。グッズもたくさん買ったんだ。おかげで人には見せられない部屋になってるー」
『やっぱり来てくれてたんだ、嬉しい! ねぇ、久しぶりにどこかで会おうよ。ライブの裏話とか、色々してあげる』
「え、ホント?! 会いたい、会いたい!」
十年以上話していなくても、ひとたび会話が始まれば最後に会ったときにまで時間がワープするのが女というもの。つい長電話になりそうだったが、適当に話を切り上げて残りは直接会った時にと言うことで会う日を決め、電話を切った。
◇◇◇
クリスマスが終わり、街が一氣に正月モードに変わろうかという日に私たちは都内のとあるカフェで会うことになった。もこもこのパーカーにだぶだぶのジーンズという、普段通りの冴えない格好。伯母と会うだけだからと高をくくったのが間違いだと氣付いたのは、彼女の隣に男性が立っているのが目に入った時だった。
(やばっ、彼氏も一緒……?! 聞いてないんだけど!!)
こんなことならもっと氣張ってくれば良かった、と慌てても時既に遅し。諦めた私はため息を吐きつつも、小さく手を振ってぺこりと頭を下げた。
「……って言うか、麗華ちゃんだよね? 最後に会ってから十数年が経つはずなのに、その時より若く見えるのは氣のせいかな?」
「氣のせいじゃないわよ。なぜか分からないんだけど、ある出来事をきっかけに若返っちゃってね……」
「それで若い彼氏を……?」
「え……? ああ、違う違う! 彼はバンド仲間のユージン。今日はあなたと会わせたくて連れてきたのよ」
「私に会わせたくて……? どういうこと……?」
「まぁまぁ。詳しいことはあとで話すわ。寒いから早く中に入りましょ」
先陣を切る彼女の後に続く。いったい何がどうなっているのやら……。
彼女の、一本の白髪もない後頭部を見つめながら思う。ライブの時は後ろの方の席で、はっきりと顔を見ることが出来なかったから、まさか自分と同じくらい……いや、私よりも肌や髪がキレイだなんて思いもしなかった。バンド仲間だという男性は本当に恋人ではないのだろうか? もし麗華ちゃんが恋をしているなら、若々しい肌艶をしている理由も分かるのだけど……。
(それにしてもこの男性、どこかで見たことあるような……?)
一度でも話せば顔と名前は覚えられる。しかし、テレビで見ただけの人や紹介のみで言葉を交わさなかった人のことはすぐに忘れてしまう悪癖がある。きっと彼も「見たことがあるだけ」に該当するのだろうが、一体どこで見たのだろう? 思い出せない……。
*
店に入ると、真っ先に目に入ってきたのはクリスマスツリーだった。
「いらっしゃいませ」
そう言った店員はクリスマス用の飾りを正月用の飾りに変えている最中だった。なるほど、長く利用するためにツリーの色は白なのか。画家の目から見ても配色センスが良いと感じる。店内のテーブルクロスやカーテンの色も落ち着いた色に統一されており、麗華ちゃんが、大人氣でなかなか予約が取れないと言っていた理由も分かる。
「時間制限もないから好きなだけしゃべれる。遠慮しないで飲んで食べてしゃべりましょ」
メニューを見ながら盛り上がる麗華ちゃんを余所に、私も連れてこられた男性もどう振る舞っていいやら分からず、注文した料理が運ばれてくるまではお互いに無言だった。しかし食事が始まり、先日のライブの話が出始めてようやく麗華ちゃんから男性を紹介される。
「こちら、音村祐仁くん。普段はユージン、って呼んでるわ。先日のライブに来たなら分かるわよね? 司会進行とエレキを弾いていたのが彼」
「……ああ! どうりでどこかで見た顔だと思ったら……!」
会ってから三十分以上が経ったというのに、今ごろ目の前にいるのがブラックボックスのギタリスト、ユージンその人だと氣付いて赤面する。顔を覆っている私の前で彼はがっくりと肩を落とした。
「まぁ、この前のはサザンクロスのライブだったから、オレの顔見てもすぐに分からないのは仕方ないかもだけど、ちょっとショックだなぁ……。もっと表に出ないとダメってことか……」
「ごめんなさい……! 私、子供の頃から『レイカ』のファンだったもんで、正直今回も麗華ちゃんのことしか見てなくて……」
「なんとなく、分かる。その、バッグにじゃらじゃら付けてる麗華さんのグッズを見れば」
「…………!」
見せびらかしたつもりは一切ないが、氣付かれていたことにまたまた恥ずかしさを覚える。再び赤くなった顔を覆うと、なぜか彼はふふっと笑った。
「よっぽど好きなんっすね、麗華さんのこと。実はオレも好きなんっすよ。いやぁ、恋人がいるのは分かってるんだけど、どうしても自分の氣持ちを伝えたくて先日、さりげなくアピールしたら軽く流されました……。で、ふて腐れてたら顔の似てる姪っ子を紹介してあげる、って言われて……」
「ああ、それで……。っておかしくない? 麗華ちゃん。どうしてそれで私を紹介するって流れになるのよ?」
「んー? だって二人ともあたしが好きなんでしょう? 共通点があれば話も合うかなーって。年も近いし」
言われて「確かに」と思ってしまった私がいた。よくよく観察してみると、ユージンさんもさっきから麗華ちゃんの顔ばかり見ている。私に負けず劣らず、彼女のことが好きなのはその様子からも窺える。
「……ねぇ、どう? ユージン。さくらちゃんと話せそう?」
麗華ちゃんに突っつかれた彼は「そんなのまだ分かんないっすよ」と答えた。
「まぁ、麗華さんの話で盛り上がれそうだなってのは分かりましたけど、それだけじゃあね。きょうだい関係とか、普段何してるのかとか、親しくなるにはそういうのも知らないと……。でしょう? それと、オレは別に恋人作りたくてここに来たわけじゃありません。このあとの麗華さんとのデートを楽しみに出てきたんですからね!」
「もう、わかってるってば。……だけど、せっかく出会ったんだからさ。連絡先くらい交換したら? ああそうだ。あたしもさくらちゃんのメアド聞いちゃお」
世話を焼きたがる感じがいかにも伯母さんのそれに見えて、やはり実年齢は父と同じくらいなのだなと痛感する。
(両親に離婚されたのを知った麗華ちゃんが、私を不憫に思って世話しようってことなのかな……?)
しかし私も三十二歳。親や親戚に身の回りの心配をしてもらうような年ではない。ましてや「お見合い相手」を紹介してもらうつもりもない。私はきっぱりという。
「ユージンさんを紹介してくれたのは嬉しいよ、だけど……。今日はユージンさんの氣持ちを大事にしてあげて。だってユージンさんが好きなのは、顔の似てる私じゃなくて麗華ちゃんなんだもの」
「……変わってないね、その性格。そうやっていつも人のことばかり心配するところ。そろそろ自分を幸せにすることを考えてみない?」
「……心配しないで。私は大丈夫だから」
「そうは見えないけど? 痩せてるのを隠すみたいにだぶついた服着てるみたいだし、悩みがあるならあたしが相談に乗るよ?」
麗華ちゃんが言ったことはすべて当たっていた。だからこそ、腹が立った。
「……大丈夫!」
怒りたいのをなんとか我慢し、それだけを言い放った。
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