SS【青春、自由への疾走】
中学最後の夏休みが終わり、憂鬱な授業が始まった。
みんなが夏休みの宿題を順番に提出していく中、ぼくもカバンから宿題を取り出した。
先公がこう言った。
「まだ提出してない者は? 小林!! お前今年もやってこなかったのか?」
ぼくの心は宇宙に居た。
「先生、宇宙には無数の銀河があり、その中には数えきれないほどの星が存在しています」
「そうだな」
「しかしその始まりは謎に満ちています」
「そんなことを今考えてどうなる?」
「今だから考えているんです。大爆発により宇宙の歴史が始まり、本当に今も膨張し続けているのか?」
「それが今何の関係があるんだ」
「ぼくは思うんです。本当はこの宇宙を形成しているのは人間の目には見えない精神的価値観なのではないだろうかと。いわゆる天国とか霊とか、そっちの世界のことです」
「なんだそれ? ロマンがあるな」
「今、ぼくの机の上に置かれているのは、答えの書かれていない白紙の問題集です。でもその答えを埋めたところで、宇宙誕生の謎には近づけません。問題集もしょせん物質でしかないからです。だからぼくは物質ではなく精神を充実させるため、思いっきり遊んで思い出を作ることに集中しました。それがぼく自身に課した夏休みの宿題なのです」
「つまり俺の出した宿題は何一つやってこなかったってことだな?」
「結論から言うとそうなります」
ぼくはネチネチとした先公の無駄な説教を受けながら、竹刀の先で何度も腹部を突かれた。
そして八分目まで水の入った大きなバケツを両手に持たされ廊下に立たされた。
校内に授業終了のチャイムが鳴り響くと、教室から生徒たちが飛び出してきた。
「小林!! 大丈夫か?」
数人の仲間たちが集まってくる。
未提出の宿題のある奴らだ。
ぼくが宿題をまったくせず、さらに屁理屈をこねて先公の注意を一点に引きつけたおかげで、仲間たちはたいした被害を受けなかった。
まあ宿題は最初からやる気はなかったが。
ぼくは一人屋上に上り地面に座り込んだ。そして隠し持っていたタバコに火をつけると、真っ黒に日焼けした肌をポリポリかきながら、真っ赤に染まった西の空を眺めて呟いた。
「本当の自由ってなんだろう?」と。
終
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