こし・いたお
削って削って、磨いて磨いて仕上げた140字小説です。
10秒足らずで読める物語にて、爽快な落ちをお届けします。
散文です
隙間時間にサクッと読めて、落ちを楽しめるのがショートショートの魅力です。
数万字に及ぶ小説を書いたのは「不死者の決戦場」が初めてです。創作初期の作品です。文字数が多くなると誤字や脱字が多発します。僕だけだと数百字の短い物語でさえ、誤字が発生しても気付けないことがあります。ましてや数万字ともなればもう…そこで力を貸してくれたのがMさんでした。Mさんは続編の「凍てつく魂の地下迷宮」でも力を貸してくれました。二作品ともMさんの力なしでは未完成のままだったと思います。Mさん、その節は大変お世話になりました!!
私は近所の井戸端会議に参加した。テーマは老いを感じる瞬間だ。白髪が目立ってきたとか、揚げ物を食べれなくなったとか、どうでもいい報告ばかり。私は出不精になったと言った。本当はお金がないだけだ。病院は出費が嵩む。でも残り少なくなった3種類の錠剤は、1錠ずつ飲んでいたのに数が合わない…
私は歴史の授業を受けていた。A先生は語り出した。「正義は時代や文化、立場の違いで変わります。私の中の正義とは…分かりますか?佐藤さん」「はい。生徒が1人しかいなくても授業をすることです」「当たり!」インフルで学級閉鎖になっていた。間違って登校した私は先生の正義を目の当たりにした。
ある日の夜、僕はスリが出ると噂の住宅街を歩いていた。中にはカップルで協力して稼ぐ猛者もいるという。ふと見ると、外は暗いのにカーテンを閉めず、電気もつけたまま着替えている女がいる。下着姿が丸見えだ。「あっ、すみません!」女に気を取られて通行人とぶつかった。帰宅すると財布がなかった…
記者の私は裏社会で暗躍する人身売買組織に追われていた。私は唯一の肉親である盲目の兄の棲家を隠れ家にした。だが仲間の1人が犠牲となり、隠れ家の場所が漏れた。組織がインビシブルと呼ばれる凄腕の掃除屋を雇ったとの情報も…迫る魔の手。「インビシブル…なぜ組織を裏切った…」襲撃は失敗した。
「ねえ…ここにあったパック、どこへ隠したの?」妻に詰められ凹む僕。隠したつもりはないけど結果的にそうなった。僕は探し物を見つけるために愛犬と走った。厳しい糖質制限も始まった。代わりにタンパク質と野菜を増やした。数ヶ月後、分厚い脂肪の下に隠れていた僕のシックスパックが姿を現した。
4年に1度の国主催サバイバル鬼ごっこが開催された。ゴーストタウンで庶民が逃げ回り、ハンター役の汚職議員たちが追い詰める。しかし気づけば群れをなした庶民に囲まれる汚職議員たち。真面目に納税してきた庶民の目が妖しく光った。「法が裁かないのなら……今度は、お前たちが追われる番だ!」
僕の毎日は朝から晩まで働き詰めだった。サービス残業は当たり前。給料はスズメの涙ほど。なのにミスがあれば上司から厳しい叱責が飛んだ。それでも僕は自分の役割を果たすだけ。文句も言わず働き続けた。ある日、意を決した僕は、労働基準監督署の人間に相談した。「いや、それは女王蟻に言ってよ…」
ある夏の熱帯夜。私の住むアパートのベランダから不審者が侵入してきた。不用心に窓を開けていたのがまずかった。手足の骨を折られ床に倒れた不審者。カーテン越しに私がダンスの練習をしていると思ったらしい。確かに前後左右、ステップを踏みながら練習していた。スチール製の特殊警棒を振る練習を。
物書きの僕にはプロットが閃く瞬間がある。寝起きだ。三歩歩けば忘れる鶏のような僕は、閃いたプロットをすぐにメモする。しかし今朝、その貴重なメモをペットのヤギが食べてしまった。取り返そうとヤギの口に手を入れた僕。「ちょっと!!」激しい頬の痛みで目が覚めた。隣で寝ていた妻の口だった。
男はここに来るまで数知れぬ悪行を重ねてきた。己の欲の為に人様の幸せを奪ってきた。「お先にどうぞ…」男は長蛇の列に並びながら順番を譲っていた。親切な振りをして逃げる好機を窺っていた。そんなことはとうの昔にお見通しの閻魔様。大木のような逞しく長い腕で男を摘むと、奈落の底へ放り投げた。
早朝、僕は駅の構内にある立ち食い蕎麦屋にやってきた。いつもより身体が軽い。券売機で食券を買おうとすると、スーツを着た営業マンが割り込んできた。次いでリュックを背負った旅行者が割り込んだ。眉間に皺を寄せていると、死神だと名乗る女が耳元で囁いた。「ホームに飛び込んだこと、忘れたの?」
僕は物音で目が覚めた。1階が何やら騒がしい。妻の声が聞こえた。「ねえーあなた!縛るもの持ってない?」今日は新聞や雑誌を捨てる日だ。妻が縛り、僕は捨てる担当だ。僕はビニール紐を持って階段を下りていった。しかし、リビングでは見知らぬ男が妻に関節をきめられひざまずいていた。強盗だ……
僕は窓ガラスの割れる音に気づいた。階段を駆け降りると、仕事の早い強盗はリビングに侵入していた。僕は攻撃を紙一重で避けながら大声で威嚇した。強盗はたまらず逃走した。するとヘッドホンを付け、アニメを観ていた女が2階から下りてきた「こらレオ!こんなに散らかして!」僕の困った飼い主だ。
過去に何度も危険な目に遭ってきた友人が、苺ジャムの瓶を持ってやってきた。蓋が開かないという。治安の話題になった私たち。近年は移民政策の影響もあり治安は悪くなる一方だ。友人は「誰も信じられなくなる」と嘆いた。私は瓶の蓋を軽く開けると力こぶにキスをした。「私が信じているのはこれだけ」
夜道で不審者に跡をつけられ怖い思いをした私は護身用品店に足を運んだ。店長は言った。「強盗対策なら自宅に隙を作らず、強力な武器を備えるべきです。でも外の場合、不審者は死角から突然襲ってきます。複数の場合もあるので護身具は無いよりマシなレベルです。でも心配しないで!僕がついています」
とある秋日和、私はマラソンの沿道応援をしていた。2人の選手が付かず離れず同じペースで走っている。私は懐かしい人物を思い出した。学生時代、コミュ症で鈍臭い私には、いつも行動を共にする友人がいた。彼女は何をやっても平均以下の私より、ほんの少しだけ前を走っていた。ペースメーカーだった。