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SS【シェルター】


このシェルターに彼女と避難できたのは幸運だった。

ここが誰の家の地下室なのかなんて知らない。家の住人が戻らないところをみると、もう生きているとは思えない。

外には大国の研究所から逃げてきたという遺伝子操作によって作られた軍事用のモンスターの群れ。

軍事用ロボットも脅威だったが、異常なほどの俊敏さを兼ね備えた奴らはそれを超える恐怖だ。

中には知能が人並みのものまでいるという。


知能が低く身体能力も人間に近い奴らは、武器になる物をもてば対抗できるが、群れをなすことが多いので厄介だ。それに馬鹿みたいに繁殖力が強い。

奴らは街中のいたる所で遭遇するので、いくら倒してもキリがないのだ。

どこへ行ってもモンスターが襲ってくる地獄のようなこの世界では、安全な場所などどこにも無い。ここを除いては。

ぼくには最近、ツレができた。

モンスターから逃げる人たちの中に彼女の姿があった。

逃げ遅れた彼女に巨大なネズミのようなモンスターが襲い掛かろうとした時、モンスターは鉄パイプを持ったぼくに気づいたのかブルっと身体を震わせ逃げていった。

ぼくは知り合ったばかりの彼女を連れて富裕層の家に逃げこんだ。

そこで食糧や水を探しているうちに地下シェルターへの入り口を発見したのだ。

ここの住人は予期せぬ自然災害や有事に備えていたらしい。

階段下の収納スペースの床が一部外せるようになっていて、開けると地下シェルターへ続く階段がある。

かなり分厚いコンクリートの壁に覆われたシェルターの中には、数ヶ月分くらいの水と食糧が貯蔵されていた。

それだけではない。屋根の太陽光パネルのおかげか電気も使えた。

シェルターの中からは監視カメラで家の外の様子がよく見える。


数週間が過ぎ、監視カメラに映る人の姿は減り、モンスターの数はさらに増えていった。


「そろそろね」と彼女は言った。


彼女の予想では、この街は特に強力なモンスターが集まっていて、爆撃されるのは時間の問題だろうと言う。

この地下にある丈夫なシェルターならどんな攻撃にも耐えられる。

むしろモンスターが大量に徘徊する今の状況なら、爆撃してくれた方が生き残る可能性が高くなるかもしれない。

いつまでも水や食糧がもつわけではないからだ。

彼女はほとんど水くらいしか口にしなかった。

こんな状況下では食欲が無くなるのは無理もない。

それでも何か栄養をとらないとと言うと、彼女は肉の缶詰を開けて食べた。いつも肉しか食べない。

彼女に理由を聞くと、彼女からは以外な答えが返ってきた。


「私たちはね、人間がエサであると洗脳されているの。だから人間を食べるの。でもね、知性の高いモンスターの中には人間がコントロールしきれない者もいる。利口で強いモンスターほど慎重で我慢強い。無駄な争いも避けるわ」


ぼくは壁に立てかけていた鉄パイプを握りしめ、彼女との距離をとった。


「私がなぜ女の姿をしているか分かる? 理由は三つあるわ。一つ目はこの女を喰ったから。私は食べた人間の姿になることができるの。二つ目はあなたみたいな男の下心を利用するため。でもあなたはおとなしいのね、草食かしら? 三つ目は生き残るため。この姿ならモンスターとは気づかないでしょ? 安心して、この戦いが終わっても私もあなたも生き残る。あなたは生き残ると言っても、私の一部としてだけどね」


その時、大地が揺れた。

地上にとてつもない衝撃波が走ったのが分かった。

ついに街を爆撃したらしい。

これでこの街の生き残りは目の前のこいつだけだ。


ぼくは武者震いした。

今まさに生き残りを賭けた人生最後の戦いが始まろうとしている。

相手は最強クラスのモンスター。

相手にとって不足はない。

「さあ!! 正体を見せろ!!」


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こし・いたお
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