Introduction2:初めての茶摘み、忘れられない風景
前回書いたのは、無農薬栽培のお茶農家さんと出会った経緯だった。
今回は私の初めての茶摘み体験について書こうと思う。
茶畑を見学したのは4月上旬だったので、初摘みはまだ2週間ほど先だということだった。天候と茶葉の生育により決まるため、はっきりとした日にちはこの時点ではわからない。「おそらく4週目からになるだろう」ということで、はれて茶摘みのバイトをさせてもらえることとなった。
茶の栽培や農業について無知の素人ができる仕事なのかわからなかったけれど、やらせていただくからには迷惑はかけれない。息子さんからも「怪我だけは気をつけてください」と注意深く言われたので、気を引き締めて臨もうと思った。
その後バタバタと別仕事を終わらせ、ついに初の茶摘みの日を迎えた。
4月21日の朝7時、自宅から20キロ弱の道のりを軽自動車で移動する。8時に農家さん宅に集合の約束だ。農家さんの自宅と加工所・直売所が一緒の敷地内にあって、裏手の山を上ったところが茶畑になる。
到着後、荷物を客間に置かせてもらって買っておいたワークパンツと長袖のTシャツ、ジャンパー姿で外に出る。長靴にカバーをはめ、腕にもカバー、エプロンと紐付きの日除け帽子を借りて装着した。農家さんの親戚の男性も加わった計5名で、軽トラに乗って上の茶畑へ向かった。
「おお〜!」と思わず声が出る。
茶畑に到着し見渡すと、明るい緑色が目の前に飛び込んできた。新芽が芽吹いたお茶の木が陽に照らされて、春の訪れを感じた。こんなにも一面の緑色をこれまで見たことはなかった。
段々畑になっているため茶の木の長さや形がそれぞれ違っていた。斜面ギリギリまで茶の木が植えてあり、足元は平坦ではなく岩肌が見えてゴツゴツした歩きにくい場所も多い。狭い茶の木の間を通り、袋を運ぶ。「最初は見ていて」ということで、茶摘みの作業が始まるのを少し離れて見守った。
穏やかな空気が風に乗っている。
”バババババババ……!!”
突如、エンジン音が響き渡った。
これから今年初めての茶摘みが始まる。一年の幕開け、お茶農家さんの一番の仕事がここで行われる。茶畑に流れていた時間が、急にアクセントを強め、リズミカルに動き始めた。
ここでの茶摘み作業は、手摘みではなく「可搬」と呼ばれる二人用の摘採機を両サイド一人ずつが持って行われる。機械の後ろには巨大な袋を持つ係が二人。エンジンをかけたらゆっくりと歩き始め、茶の木のレーンを往復して茶葉を摘み取る。新芽が出ている上部の表面を、高速回転する刃で摘み取っていき、機械後方に取り付けられた大きな袋へ空気とともに茶葉が送り込まれる仕組みになっている。茶の木の上部はゆるやかにラウンドしているので、一度では摘み取り残しが出てしまうのだろう。行きは左サイド、帰りは右サイド〜というような流れで往復する。
短いレーンは一袋で足りていたが、長いレーンでは途中で袋を替えていた。大きな袋がすぐに茶葉でいっぱいになってしまう。いっぱいになった袋は一旦茶の木のレーンの端に置かれ、軽トラに積まれる。
そしてついに、私にも役目が回ってきた。
茶摘みは(ここでは)機械を持つひとが二人、後ろで袋を持つ人が二人。そして人員がいれば摘み取った茶葉が入った袋を集めていく係が一人。5名のチーム編成だ。
私は袋を持つ係を任された。袋を持って進むだけと思いきや、これが意外にも難しいことにすぐに気づいた。まず、前の袋持ち係が機械に袋を装着するのだが、ゴムの張りが強い。硬いゴムのおかげで爆風に飛ばされないようになっているのだろうが、パソコンのキーを打つくらいしか手指と腕を使っていなかった貧弱な私にはどこの筋肉が必要かすらわかっていない。(笑)。
「え……全然伸びないんだけど……」(汗)
つい鼻息荒く「ふん……!」と心の中で掛け声を出し(漏れていた気はする)、6箇所のフックに教えられた順にゴムを掛けていく。「ふん!ふん、ふん……フン!!ふん!ふん」(4箇所目が一番きつい)
なんのこっちゃわからないだろうが、私もわけがわからない。私はゴムの不良品かと思うくらいに硬く感じていたが、農家のお母さんがいとも簡単に(やわらかそうに最速で)掛けていく様子を見て、ああ自分は非力なのだと理解した。
初日、苦戦続きの午前の茶摘みがあっという間に終わった。
暑い陽気だったので休憩を挟み、お茶をいただいた。4月末、すでに気温が高く汗だくになった。慣れない作業の合間に、農家のみなさんと同じお茶、無農薬のこの畑で採れたお茶を飲むのがまたおいしかった。今年の茶葉の出来について、天候についてなどを話していた。
午前中、摘み終わった袋いっぱいの茶葉を軽トラに乗せて畑を下った。
加工所では集めた茶葉をすぐにクールダウンさせ、午後には蒸して加工が始まる。あっという間の茶摘み初体験だったが、これから1ヶ月弱、ここで作業をお手伝いすることになる。
曇りのない青空の下、体を動かして冷たいお茶を飲む。
最高のおもてなしだった。
see u soon!
gn.