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アマミノクロウサギが好き

 「甘味の苦労詐欺」いえ、「奄美の黒兎」。なんだか、因幡の白兎以上にすごい腹黒狡猾なウサギがやって来そうな誤変換です。確かに腹黒どころか全身真っ黒なウサギですが、狡猾なイメージはありません。不思議な生態をもつ憧れのウサギを紹介します。

 姿は、耳と後脚は短く、子どもが絵を描くウサギとはかけ離れています。ウサギの仲間でも、原始的な存在で、まだ耳と脚が長く進化する前のウサギだからです。生きた化石といわれるほど、はるか昔から変わらない姿を保っている古い古い種類になります。原種に近いという意味で、モグラの仲間でシャベルの手をしていないヒミズと一緒なのですが、と表現しても伝わる自信がないですね。難しいです。

 なんというか、アナウサギやノウサギは長い後ろ脚のキックから作られるパワーで跳び跳ねます。その時に体が熱くなりすぎないよう耳に風を受けて血液を冷やします。
 アマミノクロウサギは長い脚と機動力を持たない故にラジエーター・冷却装置となる長い耳も持ちません。必要ないのです。このように学校で飼育されているアナウサギとも、日本で在来するノウサギとも一線をかくしています。
 また斜面をのぼる為に爪も発達しています。見た目からして、「うさぎさん」のイメージとは、違いますね。

 生態もユニークで、赤ちゃんウサギは親と一緒に暮らしません。それどころか、穴に埋められて1日の大半を過ごします。子育て用の巣があり、その中で生活しているのです。お母さんウサギが2日にいっぺん、授乳のために短時間だけ訪問します。短い邂逅が終わると、お母さんは前肢で、また穴の入口を塞いで子どもの身の安全を図ります。

 そんな生態が驚きで、こんな生き物がいるのかと魅力的で、虜になってしまいました。一度、生息地で見てみたい憧れのウサギです。


そんなアマミノクロウサギとの出会いは学校の長期休みの課題でした。冬の課題レポートだったかしら。生きた化石と呼ばれる動物について調べてくること。図書館で宿題をこなそうとしたところ一冊の本に出会い調べてはまりました。

 本のタイトルは「時を越えて生きる アマミノクロウサギ(浜田太)」。この本は写真に短く説明がある写真集です。真っ暗な森を背景に、墨色の獣が写っています。文字の情報量は多くないはずなのに、ひと言ひと言が未知と出会う感動でした。

 まるでトトロのまっくろくろすけを動物したような、これがウサギだなんて。こんな生き方があるなんて。自分の想像を越えた生存戦略で、脈々と命をつないでいる小さなウサギが堪りませんでした。
 訳の分からない、不思議な習性を連綿と受け継ぐ、私などの考えが及ばない世界観が面白くてしょうがないのです。白くもなければ、時計も持っていませんが、見知らぬワンダーランドへ案内してくれるウサギです。

 課題として調べようにも、古い資料にはほとんど情報がありません。それだけ未知の生き物だったことも心を捕らえました。
 資料が少ないなりに努力して調べ上げ、レポートを提出した記憶が強く残っています。


 ずっとあとになって、映像で見られた時もやはり驚きを与えてくれました。子育て穴を埋める動作は、私の考えうるウサギの動きではありません。両前肢を持ち上げ、全身で入口を固めています。まるでヒトがパンでもこねているようでした。
 こんな面白い生物が日本の森に住まうなど信じられないくらいです。いくつになっても目を見張らせてくれる。学問の醍醐味を、世界が広がる感覚を揺らしてくれる存在です。これが惹かれずにいられようか!

 衝撃の出会いから奄美大島へ行ってみたいと願い続け、残念ながらまだ叶っていません。ですが相変わらず、会いたいと焦がれています。実際に野生の個体を見られるかは別にして、奄美大島行きはちゃんと叶えようと思います。

 もし私がアマミノクロウサギみたいと例え始めたらそれは賛辞です。笑ってやってください。

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