見出し画像

奇才・アヴちゃんを、見届けようぜ|映画『犬王』感想

舞台は室町時代。

呪いによって、盲目になった琵琶法師・友魚。
同じく呪いによって異形となって産まれ落ちた猿楽の一座の子・犬王。

「オレたちは、ここにいるんだ」

二人が京の都で出会って、型破りなパフォーマンスで人々を魅力していく。

どこか似てるんだ、そう俺らに、暗い暗い闇から抜け出してく
這い上がるんだ天までも
己が刻む物語 今こそ名告れ
さぁ一緒に見届けようぜ
俺らもどもに見届けようぜ  今こそ名告れ

劇中歌『犬王 壱』

失われた平家の無念を、自分たちの存在を。
歌う度に犬王の呪いは解かれ、人の姿に戻っていく。

このまま、二人は登り詰めていくのだろうか。
自分たちの存在を刻みつける為に。


『平家物語 犬王の巻』をアニメ化

原作は古川日出男の『平家物語 犬王の巻』。

私は未読なのですが、観阿弥・世阿弥に並ぶ人気ぶりだったという実在の能楽師・犬王(道阿弥)を元に作られたオリジナルストーリー。

監督は湯浅政明。
『ピンポン THE ANIMATION』、『映像研には手を出すな!』、『夜明け告げるルーのうた』、Netflixオリジナルアニメの『日本沈没2020』などを手掛けている。

キャラクターデザインは松本大洋。

制作はサイエンスSARU。
今回の監督である湯浅政明とチェ・ウニョンによって設立された制作会社なので、監督と同じく
『夜明け告げるルーのうた』、『映像研には手を出すな』等の制作の他、TVアニメ『平家物語』の制作も行っている。

能楽師・犬王の声は、バンド「女王蜂」のアヴちゃん。

琵琶法師・友魚の声は、俳優の森山未來。

その他、犬王の父を津田健次郎、友魚の父を松重豊、時の権力者・足利義満を榎本祐が演じている。


アヴちゃんが全てを持っていった

大胆なカメラワークや現代的なパフォーマンスの演出は見応えがありました。
サイエンスSARUさんの本領発揮、という感じです。

しかし、ストーリーはアヴちゃんが全て持っていったような気がします。
存在感が違った。

本当にこの方のことを何も知らないのですが、ファンというフィルターがなくても充分、惹かれます。

ただ、映像の方は時間が無かったのかな? と思ってしまうような使い回しが多いのも事実。
特に肝である歌のシーンにそれが多かったのは残念。
歌が良かっただけに余計に残念。

落差が激しいんですよね。
背筋が凍るような美しいシーンと、白けてしまうような間延びしたシーンの差が。

ラストシーンは原作と少し異なるようで。
宣伝では犬王と友魚の深い絆……と書かれていますが、私は何とも言えない絆に見えました。

お互いがお互いのことをどう思っていたんだろう。

そして、その結末に対して、どう思っていたんだろう。

沢山の歌がありましたが、私は劇中歌である『竜中将』が1番印象的でした。
作詞はアヴちゃん……あ、やっぱり持っていってる……。

生きているのか死んでいるのか
亡霊のように立ち尽くすばかり
思い出せ己の名を 平家の中将それが誰であったか夢幻竜宮の果てに 誠も忠義も意味を成したのか
身投げた先に都があると
信じ潜った安らぎを求めて
「信じ抜く者なら辿り着けるさ」

劇中歌『竜中将』



いいなと思ったら応援しよう!

かおり
よろしければサポートをお願いします。

この記事が参加している募集