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なんでそうなった?|TL小説『高嶺の花(やや腹黒)令嬢は生真面目な文官伯爵をどうにかして落としたい 』
※この作品はTL作品です。
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ファラーデ侯爵家の次女・クラリスは絶世の美女である。
本来であれば、その容姿だけで良い思いをしている……のかもしれないが、彼女はそうではなかった。
「……クラリス。とにかく早く嫁いでくれないか。この際相手はもう誰でもいい」
侯爵家には2人の娘しかおらず、クラリスの姉であるナタリアは後継ぎだ。
そのナタリアの3回目の婚約が破断になった。
理由は ――クラリスである。
そりゃあ婚約していた青年達に三度も『君より君の妹の方が好きなんだ』なんて理由で乗り換えられそうになったら、女として立つ瀬がない以上に、その心が深く傷つくだろう。
とはいえ、クラリスは何もしていない。
1度目こそ家族になると思って愛想良くしていたが、2度目以降は寧ろ姉の婚約者とは接触を最低限にしていた。
それでも、これである。
これだけではない。
クラリスに懸想する男達が常に屋敷の周りをうろつき、時には既成事実を作ろうと忍び込もうとすることは日常茶飯事。
追い回され、口説き続けられ、追い詰められ、あわや、という経験は既に両手の数では足りない。
家族は疲れ果てていた。
後継ぎ娘の度重なる婚約の破断、侵入者に対する警戒。
理解はできる。だが、クラリスは深く傷ついていた。
自分に何の咎もないのに、家族に見放されたのだから。
王宮主催の大舞踏会の夜。
クラリスは、「この際相手はもう誰でもいい」と言われた結婚相手を探す為に会場へと赴いた。
しかし。
「レディ・クラリス! どちらにいらっしゃいますか、どうか逃げずに私の話を聞いてください! クラリス嬢!」
相手を探すどころか、屈強な騎士隊長に追いかけ回されていた。
城の庭園に逃げ込んで、そこで彼女を助けてくれたのが……
「……ニール様?」
「……クラリス嬢?」
王太子エイベルの秘書官・ニールであった。
クラリスは以前、その容姿から王太子の婚約者候補となったが、お互いに恋愛感情はなく、兄妹のような仲になった経緯がある。
ニールともその時に知り合った。
ニールはすぐに状況を把握すると、クラリスに隠れるように促し、騎士団長を追い払ってくれた。
そして、騎士団長の背中を見送ると、クラリスの無事を確認してくれる。
その優しさに、クラリスは日頃の“淑女の仮面”も忘れて、泣きながらニールにこれまでの顛末を話した。
姉の婚約者のこと。
話も聞かずに自分を追いかけ回す男達のこと。
そして、それを理解してくれない家族のこと。
こうなったら、修道女になる!と自棄をおこすクラリスをニールは宥めた。
「どうか早まらずに。きっとあなたの容姿だけでなく、そのまっすぐな性格を好ましく思う人物が現れます。殿下にも相談しましょう。俺にもできることがあればご協力しますから」
ニールとしては、クラリスの極端な行動を何とか止めたいだけだったのだが。
翌日。
クラリスは王太子エイベルを訪ねた。
「……お兄様。ニール様との仲を取り持っていただけませんか?」
ニールは昨晩、クラリスの身体を無闇に触ろうとはしなかったし、真剣に話を聞いてくれた。
有体に言えば、クラリスは恋に落ちたのである。
※この作品はKindleUnlimitedで配信しています。
前に読んだ作品も面白かった!
著者は 逢矢沙希
TL小説を中心に活動されている作家さんです。
『幼馴染みを理想の夫に躾けようとしたら逆襲されました』も読んだことがありますが、面白かったです。
出版社は くるみ舎
掲載誌・レーベルは こはく文庫
発売 2023年12月
既刊1巻。完結済。
ハイスペックを武器に強引なヒロイン
「え?!地味で目立たない私に、何でこんなハイスペイケメンが寄ってくるの?!」
ってのが、女性向けコンテンツの定番なのですが(そして、これはこれで嫌いじゃない)
この作品は逆。
女性としてハイスペックなクラリスが、地味で真面目なニールを好きになるお話です。
ただ、クラリスの取る行動が、腹黒っていうか強引……
それが許されるのはクラリスがハイスペックだからこそ、ですかね。(但しイケメンに限る、の法則)
この後、クラリスは王太子エイベルに、いきなり押したら上手く行かないから、偽装婚約を持ちかけて、婚約中にモノにしろ!と入れ知恵されて、その通りにするのですが。
「ニール様に無理強いはできませんわ。ご迷惑なことだと承知しておりますもの……私は大人しく修道院へ行くか、潔く顔に二目と見られない傷を」 「判りました! お引き受けいたします! ナタリア嬢のご成婚まででいいんですね!!」
ほぼ、脅迫(笑)
ニールはというと、極端な行動を取ろうとするクラリスのことが気がかりなのもあって偽装婚約を了承したものの。
つまるところ、クラリスがニールとどうこうなろうとなんて思いも寄ってない。
それもそのはず。
ニール・ケインズ伯爵は若く才覚にも恵まれた将来有望な青年だが、社交界ではあまり目立つことのない、地味な文官である。
というのが、世間の彼の評価なのだから。
真面目な彼は偽装婚約でも婚約は婚約だから、クラリスの経歴にも傷がつくし、婚約破棄後のことを聞いても歯切れが悪いのがどうしても気になる。
そして、1つの結論に辿り着き、学友でもある王太子に
「……もしかせずとも、最初からそれが目的で俺とクラリス嬢の偽装婚約を提案しましたね?」
と、なるのですが。
クラリスとニールのテンポの良い会話がすごく楽しい作品です。
こはく文庫にもこんな作品あるんだー、と思いましたが、レーベルの傾向よりも、作家さんの力量に寄るところが大きそうです。
コミカライズとかしても面白いと思うんだけどな!
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