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#491 夢なし先生が行う進路指導の本質とは?

笠原真樹氏が描く、『夢なし先生の進路指導』(小学館)が話題になっているそうです。
この作品は、元キャリアコンサルタントの高校教師、高梨(たかなし)が主人公。彼は生徒から「夢なし先生」と呼ばれ、進路指導時、生徒の「夢」に対し現実的なデータや世の中の実情を突きつけ、否定し、覚悟を問う、そんな物語です。



 学校教員は、児童・生徒の意欲を引き出し、彼らの「やりたい」を応援する立場にあると、一般的には思われていると思います。作中でも、彼の指導方法に対し、生徒が「先生なのに自分の夢を否定するなんて」と高梨に対して否定的な意見を持つ生徒が描かれています。

 一方で、彼らの「夢」が本当に「職業名」にあるのかは、疑問に思うことがあります。医者、弁護士、教師、CAなどなど。社会的地位が高いとされる職業や、華やかなイメージがある職業に、子ども達は憧れるでしょう。しかし、職業の本質はその業務内容にあるわけで、その職業でしかできないということは実はあまりないのではないか。例えば、「人を救いたい→医者」という理論は非常に曖昧で、人を救う職業は医者以外にもたくさんある。また自分の夢である職業でなければ、自分の存在が否定されるわけでもない。大切なのは、自分がどんな職業につきたいかではなく、本質的に何を求めているのかをじっくり考えること。そして、その道は1つだけしかないのではないことを理解することだと言えるでしょう。

 以前、「キャリア教育を通じて培われるレジリエンス」というコラムで、法政大学のキャリアデザイン学部教授を務める児美川孝一郎氏の

「まず1つ目は『夢は全員が実現できるわけではない』ということ。だから夢を持つなというのではなく、できなかったときにどうするかを考えようということです。進学や就職の際には現実を見ろと言うのに、その前の段階の教育では『夢』を強調しすぎている。これは日本のキャリア教育の構造的矛盾です(中略)夢が見つかった、なりたい職業名が出てきたからといってそこで終わりにするのではなく、なぜそれをやりたいのかの根拠を一緒に考えることです。ゲームを作りたいという夢の根っこにあるものが『ものづくり』への思いだとしたら、自動車や食品業界でもいいかもしれない。それがわかれば実現できることの選択肢が増え、まっすぐ行けないときのリカバリーもできるようになるはずです」

という言葉を紹介しました。



夢なし先生は「夢が自分が本当に望んでいることをぼやかすこと」に対する警鐘であるのかもしれません。

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