「折楊柳」にふれて
春は、昔から新しい出会いに喜び、悲しい別れに沈む季節と言われる。
年を重ねると、そんなことで一喜一憂することが少なくなっている。というより、現実的な世界に馴染んでしまっているのかもしれない。一方、遠く離れた故郷を思う気持ちは一層膨らんでくるのは不思議なものである。
そんなときに中国古典の漢詩「折楊柳」などに触れると、故郷を思う気持ちが増幅される。とくに李白の有名な詩「春夜洛城聞笛」は沁みるものがある。
誰家玉笛暗飛聲
散入春風滿洛城
此夜曲中聞折柳
此夜曲中聞折柳
何人不起故園情
いったい誰だろう、暗闇の中を笛の音が響いてくる。
笛の音は春風の中に乱れ入り、洛陽の町中に広がる。
この夜、曲の中に「折柳」の調べを聴いた。
これを聴いて故郷を偲ばない者があろうか。
といった訳になる。
当時、李白が30代半ば、洛陽に半年ほど滞在した時の作とされる。
夜、洛陽の宿屋に泊まった李白が、部屋の天井をながめながら、俺の人生これからどうなるのか、と考えていたとき笛の音が聴こえてきた。
そのときにこの詩を書いたと言われている。
むかし中国では旅立つ人に柳の枝を折って送る習慣があったようだ。別れの悲しみを歌った「折楊柳」は、いつ日かまた元気で戻ってくるように、という願いを込めた詩である。その歌が、笛で奏でられていたので、故郷を遠く離れて、洛陽の地にいる李白も、
思わず涙ぐんだという。
そんな情感に浸ることは、いまの通常の暮らしの中であるだろうか。有り難いことに、たまに何かのキッカケで、中国の古典にふれイマジネーションの世界を楽しんでいる。
リポート&写真/ 渡邉雄二 カラー/ フリー画像より転載
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