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犬のピピの話 321 夜の庭のあじさい
庭へつづく通路のドアが開け放たれ、景色が見えるから、わたしたちはそっちへ顔を向けています。
「ねえ、ピピ。あじさいが、咲いているでしょ」
わたしは、わたしの顔のすぐななめ下で、みじかいみじかいちゃいろの毛をすべすべとそろえ、かわいい、あたたかい頭のてっぺんを見せているピピに、そっと話しかけました。
そうです。
庭の、東のかどのあじさいの木が、その芯(しん)の粒のところにあおく白い香りをとじこめながら、ひらひらとかるく舞い上がっていきそうな水色の花をたくさんあつめて、まるく整え、ふわふわと、そしてずっしりと、頭のようにいくつもいくつも、惜しみなく積みあげているのでした。
そのあじさいの頭たちは、青白い大きな顔や、小さな顔、ちゅうぐらいの顔を、闇のなかにうかべているようにも見えます。
みんなが、ひっそりと、同じなにかをのぞきこんでいるように。
・・やがて・・・
このうすあおい顔の花たちは、色を変えていくでしょう。
すずしい水色から、あかるい青紫、そして、ももいろ。
そうやって、あじさいの花はおわり、梅雨はおわり、また、くっきりしたあの夏がやってくるのです。
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