犬のピピの話 323 とても意外に小さなあご
そんな、ある晩のことです。
私が勝手口のドアをあけると、左ななめ前方の寝箱の中の、くちゃくちゃにしたピンクの毛布のうずまきの上で、ピピは
すっかり!!
という開けっぴろげな様子で、おなかをだして眠っていました。
のびのびとひっくりかえった、そのからだの先端で、白いあごが
つん・・
と尖って、ランプのひかりに輝いています。
その、とてもほそい三角形の、ちいさなあご・・・
ピピの口は頑丈で、なんでもしまいこんでしまう馬鹿でかいカバン口で、くわえたらもう放さない貪欲な(どんよく)なキバのあつまりで・・・
そんなふうに思っていたのに、意外なほど、おどろくほど、繊細な下あごの姿なのです。
その、息をのむような呼吸の瞬間、わたしはふいに、こう思いました。
(この、ちいさなあごがひどいめにあうことは、けっしてあってはならない。)