犬のピピの話 318 今夜の犬は
この前なんか、もう夜もおそいのに、何度居間から出そうとしても、ちょうちょみたいにひらひらと耳をふって逃げてゆき、そのくせ、からだは眠くてたまらないものだから、すぐに勝手口のところへもどってきて、ドアに向かって立っているのでした。
だけど、今夜は・・
今夜は、ピピは
「ふいっ」
というかんじで、あっさりと、勝手口のふみ段をおりていきました。
そして、寝箱にとびこみます。
「カッタン!」
ピピの重みで、アルミ二ウムの箱の底が、おどけた歓迎の音を立てます。
・・ピピが、自分から、寝に行った・・・・
私はびっくりして、そのひょうしに、ピピが小さな子犬だったときのことを思い出しました。
幼いピピは、眠くて居間のカーテンの裏側にもぐりこみ、眠くて眠くて顔をしかめ、眠くて眠くて眠くてふたえまぶたになってしまっても、なんとか居間にとどまろうとしたのです。
でも、今、ピピは、じぶんで決めた。
じぶんでドアを出て、じぶんじしんで、寝床に入っていったのです。
・・・ピピは、おとなになった。
またひとつ、ピピの成長をまのあたりにして、わたしのこころは、かがやきました。