犬のピピの話 280 皆さんありがとう
この女の子たちのおじいさんのだんだん畑から、山の公園へもどり、さらに西側へ目を向けると、そこには老人ホームのゲートボール場があります。
ゲートボール場は、老人ホームの二階から陸橋のような廊下でつながっていて、この橋をわたって、老婦人が二人やってきます。
それは、日暮れ頃、少しおそい時刻なので、夕ご飯を食べた後の散歩なのかもしれません。
その様子を、公園のはしっこからわたしと一緒に見下ろしていたピピは、ひとかけらの迷いもなくゲートボール場へとのりこんでいきました(ピピには、わたしみたいに「境界」という考えはないのです)。
いそいそとご婦人たちの前に参上すると、あの、かわいい顔で見あげます。
これでもう、ふたりの老婦人とピピは「なかよし」です。
やがて、老婦人たちはゲートボールではなく、おもちゃのボーリングを始めました。
ころころころころ・・
大きいけれど、いかにも軽そうな赤いボールが、しろい砂地のコートの上をころがっていきます。
ピピは、その様子を
(わくわく、わくわく!!)
見つめています。
そして、次にボールがころがった瞬間、ピピはおもわずボールを追って走り出し、すぐに
(はっ!!しまった!!)
というように立ちどまったのです。
「あはははは!!」
老婦人たちは、ピピの様子を面白がって明るい声で笑います。
ピピは
ぱうぱうぱうぱう!!ぱうぱうぱうぱう!!
と手足をおおきくひろげ、砂けむりをあげて、とてもうれしそうにはしゃぎました。
・・・・・・
こんなふうに、ピピはほんとうに、いろいろな人びとや、犬たちに会いました。
なかよくさせてもらい、もし、なかよくできなくても、そのたび、ピピのこころはおどりました。
ピピの一日が、よろこびや輝きや、やさしさやかしこさで満ちました。
みなさん、ありがとう。
ピピに出会ってくださって、ほんとうにありがとうございました。