十六話 遭遇戦
「鈴虫か?」
「いや、呼び鈴だ?!」
前を行く、宮本や猪木が話している。
「人間だ、人間の声だ!」
ざわつく渋谷少年たち。
「リーン」
「リンリンリンリ~ン」
後方、捕虜というか、お縄になった林の耳にも確かに聞こえる。リングウッド君だ。林は安堵すると同時に恥ずかしさを感じた。
近づくにつれ「リーン、いいかげん出てこいやー!」という浅井の声も聞こえた。浅井はこの頃林よりも鈴木の投げやりかつ極めていい加減な態度にムカついていた。
「コイツの名前じゃね?」
安原が言った。
一斉に渋谷勢の視線が林に向かった。
「お前、林(リン)とか言ったよな」
コクリと頷く。
「なら、案内しろ!」
調子に乗った猪が言った。安原の意を汲んだ気になっている。
最後尾にいた林はいきなり最前をゲットした。そこに喜びは微塵もなく、あるのは惨めさだけだった。
「なんだありゃ~!!?」
そろそろ浅井らをまいて帰ろうとしていた鈴木は目が点になった。
林が只ならぬオーラを出して五、六人を率いてやって来る。が、よく見ると林は縄で繋がれうなだれており、まるでこれから死刑場に連れ行かれる罪人か、なすすべなく雨に打たれる野良犬のようだった。身辺、負のオーラが漂っている。
「リンだー!リン出たぞー!!」
慌てて逃げる鈴木。初めて本気の声を出し、林の中を逆走する。
「人魂か幽霊でも出たのか。大袈裟なアピールだな・・・」
イラつきとやりきれなさを胸に、浅井は渋々声のする方に駆け足で向かった。途中、思ったより多数の足音が聞こえる。二、三十メートル先の木と木の間から、鈴木とその後を追う渋谷の少年団探偵団と思しき連中、さらには林の見え隠れした。いつの間にかゲリラ戦が展開されている・・・浅井は木の陰に隠れ、顔半分だけ出して様子をうかがった。
ザザッー。
鈴木が落ち葉で足を滑らし転んだらしい。
「イテェーーーーー!!!」
リングウッド君の声が楡木広場に鳴り響いた。