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十一話 ベーゴマ納入

 あくる日、工場に浅井がやって来た。
 二日後にベーゴマガチンコ勝負を控えてるらしい。
 噂では渋谷の連中と日比谷公園で五対五のゴチャMANをやると聞いた。
 
 「林君、できた?」
 「はい!宏さんに気に入っていただけるかどうかわかりませんが、自分なりにやってみました」
 林は、ベーゴマを紙袋に包んで渡した。
 浅井が包みを剥ぎ、ひっくり返してウンコ風の見栄えに気付いたら困る。
 
 「明らか重くなってるな」
 ずっしりとした重みに、浅井は手ごたえを感じていた。
 「そうでっしゃろ!以前がフライ級とすれば、今はヘビー級です」
 「なら、デンプシーロールで鎧袖一触だな」
 「さすが、宏さん!拳闘にも詳しいですね」
 「相撲なら十両から横綱になったというところか。林君、ありがとう」
 
 おだてろ~、おだてろ~、林は自分に言い聞かせた。
 商売上手な関西人になり切ろうとした。
 このままさっさと立ち去ってくれ・・・。
 切にそう願う。
 しかし、浅井はニコニコ微笑み、なかなか帰ろうとしない。
 よく見もせず、要求を超えるが出てきたと感激した浅井は、この余韻を分かち合うとしていた。
 発注主と職人。言葉はいらない。
 林、お前はよくやった。お前は日本人だ。日本の職人だ。
 微笑みながら、林の肩をポン、ポンッと叩き、そう称えた。
 以心伝心。浅井は昨日國語の授業で習ったこの四文字熟語の内容を早速実践できたこと深く自己満していた。

 品川三丁目に降りそそぐ夕日を背に、無言の時が流れる。
 「この宏さん仕様のベーゴマ、名付けて銀魂です」
 たまりかねて林は口走った。

 「おっ、その心は?」
 「側面に注ぎ込んだ鉛が銀色に渦巻いてます」 
 そこまで言って、はっ、言うてもうた!と林は焦った。
 「なんと」
 その場で包みを剥ぐ浅井。
 「おおっ、これなら紐もよく締まるな」
 
 浅井は気付いてなかった。

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