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こぶとりじいさんの教訓がイカツい
最近ちょこちょこと昔話の事を書いてるんですけど、調べれば調べるほど昔話って面白いと思うんですよ。ってのも、パターンによって全然感じ方が違うんですよね。
それこそ前に紹介した、はなさかじいさん。いじわるじいさんに犬を殺され、「枯れ木に花を咲かせましょう!」と灰をまき散らすちょっと心配になるお話でございます。この話、前に紹介したバージョンだと、優しいおじいさんといじわる爺さんのディティールがわからず「これは何なんや」と思う昔話として紹介いたしました。
ただこの話も、結構バージョンによってまちまちなんですよ。そもそも、この話の肝である「枯れ木に花を咲かせましょう」というところ自体も、行きつくまでの過程が全然違うんですよね。
例えば、wikiに掲載されているあらすじでは。
犬が夢に出てきて桜の枯れ木に灰を撒いてほしいと頼む。
ー花咲か爺【wikipedia】
犬が夢に出てきて、自分から灰を巻いて欲しいと頼むんですよ。
他にも、灰を持ち帰っている途中に風で飛んで、枯れ木から花が咲いたから巻いたというものや、畑にまいて供養しようとしたら畑から花が咲いたので枯れ木に巻いたなど、ココだけ切り取ってもかなりのバリエーションがあるんですよ。
他にも、おばあさんが登場したり、いじわる爺さんのいじわるっぷりが描かれていたりなど、本当に作品によって色んな手を加えられていて、「花咲か爺」というお題を使った、創作物が沢山あるんですよね。
そしてもう一つ面白いのが、教訓のつけ足され方なんですよ。それを一番感じたのが、こぶとりじいさんなんですよね。
まずwikiのあらすじですけど。
ある爺さんが、右の頬に瘤(こぶ)ができて邪魔に思っていたが、医者に診せた甲斐もなく肥大するばかりだった。ある日、山に芝刈りに出たが、夕立に遭ってしまった。木のうろで雨宿り中、大勢の足音がして、他の樵夫たちかと安堵するが、それは恐ろしい鬼共だった。
ーこぶとりじいさん【wikipedia】
こぶのあるおじいさんが、鬼と出会います。
鬼共は酒盛りを始め、その頭(かしら)が、手下の踊りを順に鑑賞したが、もっと面白い舞はできぬものかとぼやく。老人は、鬼の囃子が面白いこともあり、つられて出てきて自分の舞を披露した。鬼たちは、踊りが大そう気に入り、また次の日も戻って舞えと所望し、約束をたがえぬようなにかを「かた」(質)に取ると言い出し、頬のたんこぶを捻り取った。
ーこぶとりじいさん【wikipedia】
そして、鬼の前で踊りを披露してこぶを取ってもらいます。
この話を聞いた左の頬に瘤がある爺さんは、それなら自分の瘤も取ってもらおうと夜更けにその場所に出かけ、同じ木のうろで待っていると、日暮れごろに鬼が宴会をはじめ、特に頭の大鬼が待ち焦がれる様子だった。
ーこぶとりじいさん【wikipedia】
次に登場するのが、逆側にこぶがあるおじいさんです。
彼もコブを取ってもらおうと、鬼に会いに行くわけでございます。
そこで隣の爺さんが姿を現したが、踊りの心得もなく、扇を片手に出鱈目で下手な踊りを披露したので鬼は興ざめてしまい、瘤は返すから立ち去れ、と追い払った。
ーこぶとりじいさん【wikipedia】
ただ、踊りが下手で鬼に好かれなかったおじいさん。
こちらの翁は瘤を取ってもらえないばかりか、瘤二つヒョウタンのようになり、ほうほうのていで逃げ帰った。
ーこぶとりじいさん【wikipedia】
前のおじいさんの分も、こぶを付けられて帰ってきたって言う、そんな風なお話なんですよ。
これ、どちらかと言うと落語っぽい話じゃないですか。教訓を得るって言うよりは、昔のおかしな話みたいな感じで、ふたつのこぶを付けられてひょうたんの様になってしまった感じなんか、ちょっとユーモラスでしょ。
ある意味これが、ベースとなるお話なんですけど、ココへの教訓のつけ方が中々攻めてるんですよね。
昔々、右のほおに大きなこぶがある心優しいおじいさんがいました。その大きなこぶは握りこぶしほどの大きさがあり、おじいさんはどうにかして取れないものかと悩んでいました。
そこで、山奥のお堂でこぶを取ってもらおうとしました。優しいおじいさんは、自分と同じくこぶで悩んでいる意地悪おじいさんも一緒にと誘いましたが、意地悪おじいさんは断りました。
ー【こぶとりじいさん】あらすじをサクッと簡潔にまとめてみた!
まず、ただのコブを持ったおじいさんだったのが、やさしいじいさんといじわるじいさんに変わっています。
どうしてやさしいおじいさんに、「交友関係は選べ」と言ってくれる優しい友達がいないのかはさておき、優しいおじいさんはコブを取ってもらいに祈りに行くわけなんですね。
お堂につくと優しいおじいさんは一心不乱にお願いしました。疲れてうとうとしていると、外から愉快な音楽が聞こえてきました。優しいおじいさんが外をみると鬼たちが宴会をしていました。
ー【こぶとりじいさん】あらすじをサクッと簡潔にまとめてみた!
そして物語は展開します。
お願いをしていると、鬼に遭遇するんですよ。
盛り上がる宴会に我慢が出来なくなったおじいさんはついに外に出て踊り始めました。おじいさんのゆかいな踊りは鬼たちに大うけ。宴会が終わると、鬼たちは楽しませてくれた褒美としておじいさんのこぶをとってやりました。
ー【こぶとりじいさん】あらすじをサクッと簡潔にまとめてみた!
すげぇでしょ、じじぃ。
若いころ、遊びまくってたとしか思えんチャラさ。
大喜びのおじいさんは意地悪おじいさんにも教えてやりました。意地悪おじいさんは自分もと山のお堂へ行きました。しかし、めんどくさがってお堂でお願いはせず、寝ながら鬼たちを待ちました。
ー【こぶとりじいさん】あらすじをサクッと簡潔にまとめてみた!
そしてもう一人のおじいさんパートに移ります。このお話の優しいおじいさんは、きっと「まじ鬼、パネェ~!お後がヒュウィゴー!」とか言うたんでしょう。
とはいえここまで来ると、なんとなく展開が読めてくるやないですか。
熱心にお願いして願いが叶う優しいおじいさんと、努力もせず自分の欲望だけをかなえて欲しいと願ういじわるじいさん。
やさしいおじいさんといじわるじいさんという対比は、いかに教訓を与える設定として優れているかが、なんとなく読み取れるかと思います。
やがて外で鬼たちの宴会が始まりました。やっと来たと意地悪おじいさんが外に飛び出すと鬼たちが不思議な顔をしてこちらを見ます。意地悪おじいさんのこぶを見つけた鬼は、とってほしいなら踊ってみろと言いました。
ー【こぶとりじいさん】あらすじをサクッと簡潔にまとめてみた!
お願いもしない、いじわるなおじいさん。
適当にその場をこなし、こぶだけ取ってもらおうと悪知恵を働かせると言ったストーリーが想像される次の展開。
意地悪おじいさんは心得たとばかりに踊りますが、その踊りの下手なこと。鬼たちはすっかり白けてしまいました。
ー【こぶとりじいさん】あらすじをサクッと簡潔にまとめてみた!
どうですみなさん。
シンプルにダンスへたじぃ。爆誕ですわ。
怒った鬼は、意地悪おじいさんの反対の頬に昨日とった優しいおじいさんのこぶをべたりと貼り付けてしまいました。意地悪おじいさんは両方の頬に大きなこぶがついてしまいました。それ以来、山奥のお堂には二度と鬼は現れませんでした。
ー【こぶとりじいさん】あらすじをサクッと簡潔にまとめてみた!
ただお気づきでしょうか、この話。
やさしいおじいさんといじわるじいさんが出てくるのに、踊りが下手なだけでじいさんコブ付けられてんすよ。
一応バリエーションとして、いじわるじいさんの意地悪さを強調させるエピソードが付け加わってたり、やさしいおじいさんの善意を踏みにじるような事が足されてたりっていう変化はあるんですよ。でも、結局いじわるじいさんがコブを付けられる理由は、踊りが下手だからであって、どのバリエーションでも、コブと性格の良い悪いが全く関係が無いんですよね。
つまるところ別にいじわるじいさんでも、踊りが上手ければコブは取ってもらえたし、逆に優しいじいさんでも、踊りが下手だとコブを倍にされちゃってた可能性だってあるわけです。
そうなんですよ、詰まる所この物語の教訓。
「実力があれば、性格の良し悪しなんて関係ない」なんですわ。
さっき紹介したあらすじサイトでも「このお話からは『人を羨まずに、自分の身の丈に合った行動をしなさい』ということがわかりますね。」という言葉で、記事が締めくくられています。
教訓が、「人を羨まずに、自分の身の丈に合った行動をしなさい」ですよ?
この時点でめちゃめちゃ攻めてると思いませんか?
加えて、優しいおじいさんといじわるじいさんという対比があって、お堂に熱心にお願いする側としない側を分けてるんですから、そこも比較するべきじゃないですか。わざわざその設定を作って置いて、あえて使わずエンディングを迎えてるんですから、結局実力だけで物事が決まったってことでしょ。
すなわち教訓が「性格の良し悪しではなく実力」になるんですよ。ユーザーの八割が子供だと思う昔話の世界で、「実力があれば、性格の良し悪しなんて関係が無い」が教訓の昔話ってすげぇ攻めてると思うんですよね。
そしてこの形の設定が、王道になるってことが、俺はめちゃくちゃ面白いと思うんですよ。
このお話だって、「いじわるじいさんも踊りはうまかったが、お堂にお祈りもしない奴は、こぶを付けてやる」で良かったはずです。
ベタな王道まっしぐらなストーリーに見えて、実は攻めた展開をしている昔話の世界。これからもちょっとずつ楽しんでいきたいと思う次第でございます。