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創作メモ(2020/7/25):クズエルフ山脈シリーズ(一:葛廻流風山脈への路(二))

(これまでのあらすじ)

***

「葛廻流風(くずえるふ)の案内役、紐男(ひもお)は、我々にとっては狭く見づらい獣道を、いとも簡単そうに、すいすいと歩いて行った。
 我々もついていくが、ときどき遅れが生じて、その都度彼が振り返って、こちらをじっと見ているのを感じていた。
 まるで、野良猫が追いかけてくる人間を振り切って、遠くから振り返った時のような、鈍間(のろま)、とでも言いたげな目だった。
 どうも、その時から、いまいち歓迎はされていないのだな、という気配はあった。

***

 そんな紐男が、一度、血相を変えてこっちに戻って来たことがあった。
 何だ、と思ったら、その細身に見合わぬほどの大声で叫んでいる。
「いいか。そっちの道で迂回するんじゃない。そこは危ない。俺が来るまで、絶対に動くな」
 と言っているようだった。
 口調の変化に、ただならぬ気配を感じて、先輩も俺も、その場を動けずにいた。

 確かに、紐男の行く道が急な坂だったので、足が滑ることを懸念して、ややなだらかな道を行こうとしたのだった。
 どうやらそれがまずかったらしい。
 紐男は我々のところにたどり着いて、険しい面持ちで、我々の足元を指さした。
 叢(くさむら)の下に、長く伸びているのは、葛(くず)の蔦(つた)だった。もう少しで足を引っかけるところだった。確かに、これだけでも、既に危なく見えた。

 しかも、よく見ると、どうも何かがおかしい。
 たくさんの蔦が、紐で縛られている。明らかに誰かの手によるものだ。意図的に、簡単には切れない、かなり太くて強い束にしてある。
 なぜこんなことを?
 その理由は、すぐに分かることとなった。

「特別だ。今後のこともある。見せておきます。
 いいですか。そこからそっちの方へ、三歩退いて下さい。
 そうです。それでは、絶対に動かないで下さいよ」

 太い枝と大きな石を、紐で結わえ付けた、加工には使えるかも知れないが、武器としてはどうにも頼りなさげに見える石斧。
 紐男は、身をかがめて、縛られた蔦の束を、石斧で引っかけて、引いた。

 目の前を、凄まじい速度で、何かが音を立てて横切っていった。

 唖然として横を見た。
 その何かは、少し先の木にぶつかり、絡みつき、滑り落ち、枝に引っかかった。
 いくつかの石が、やはり少し太めに縛られた、葛の紐に結わえ付けられている。
 これが直撃していたら、臓腑(ぞうふ)が潰れるか、肋(あばら)か頭が粉々になっていただろう。
 後で聞いたが、紐男が身を包んでいた藤甲(とうこう)でも、石そのものは弾けるかもしれないが、勢いは防ぎきれないので、当たったらやはり危ない、とのことだった。

 先輩は、口を開けたままで立っていたが、不意に、ひっ、と獣のような声を上げた。
 俺は口を閉ざし、唾を吞み込んだ。ひどく喉が渇いているのを感じた。

 紐男は舌打ちしていた。
 そして、意外にも、陣笠を脱いで、頭を下げた。

「申し訳ない。
 ここに飛び微塵(とびみじん)の罠(わな)があるのは分かっていたのでした。
 なだらかな道の方に、わざと仕掛けられていることも。
 御存知ない御客様を案内するのに、そこはあらかじめ一言あるべきでした。
 土地収用委員会事務局(とちしゅうよういいんかいじむきょく)の御役人方は御存知ですが、そうではない御客様は久しぶりなので、うっかりしていました。
 いや、改めて、本当に申し訳ない」

 先輩と俺とは顔を見合わせた。
 先輩の顔が、恐慌を来しているのが、見て取れた。
 おそらく、俺も、似たようなものであったはずだ。

「それで、どうしますか? 行きますか? 帰りますか?」

 先輩は、少しの間、困惑していたようだった。
 だが、きっぱりと首を横に振った。

「行こう。今度からは、正確に、君の後を追うことにする」

 紐男は、ひゅう、と口笛を吹いた。

「大したものですね。では、行きますか」

 紐男は、なだらかな道を、しかし曲がりくねった奇妙な軌跡を通って登って行った。
 今度は我々も迷わなかった。彼の進む道の通りに進んだ。
 おそらく、何も考えずにまっすぐに登って行ったら、今度こそ道半ばで死んでいただろう。
 急がば回れ、というやつだった。

***

 途中で川のせせらぎがあり、そこで清水で喉を潤したんだ。
 美味しい綺麗な水と、腹を壊す水があり、そこは彼らの中では頭の中に叩き込まれているようだった。
 美味しい綺麗な水の飲めるところを地点として、最適な移動経路を考えて案内する。腹を壊す水の湧く泉とかは最初から避けて通る。そういうことらしかった。

 一息ついた我々は、紐男と喋った。
 紐男にしてみれば、歩きながら喋るというのは、足元がお留守になるので危ない、ということのようだった。
 特に我々は葛廻流風山脈(くずえるふさんみゃく)に不案内だったので、ますます足元に気を付けねばならなかった訳だ。

 歩いている最中は訊けなかったことなどを、いろいろ話し合った。

***

「御役人方からの説明を受けて、案内されて来たんでしょう。
 御話は、御役人方から、確かに聞いておりますよ。
 あんまり御役人方も乗り気ではないようでしたが…」

 葛廻流風山脈のある、広域地方自治体、葛城地区(かつらぎちく)の行政部局の一つ、土地収用委員会事務局の面々の言葉を思い出していた。

(別に、役所としては、学者先生に、ああしてほしいとかこうしてほしいとか、そういうのはないんですよ。
 特に我々は用地取得が受け持ちで、大学が受け持ちじゃないんで、学者先生にどうこう言える筋合いでもないんです。
 しかも別の地区の管轄となると、なおさらなんですよ。そこはそうです。
 ただ、一つだけ。出来るだけ揉め事は慎んで戴きたい。また用地取得が遅れるから、そこは困るんです)

 だとよ。

 今のところ、話し合いの時点で揉めに揉めており、まだ境界を明確にして目印を残すところにさえ漕ぎつけていないと聞く。
 これでは、測量や調査など、はるか先のことだろうな。そう思った。
 まあ、この話は、後でする。

 土地収用委員会事務局の面々は、かなり慎重に物事を進めているようだった。
 つまりは、根回しが出来ていない限り、一歩も足を突っ込みたくない、そういう風な「石橋を叩いて渡る」姿勢のようだった。
 まあ、この辺の話も、また後でする。

 もちろん、役人にしてみれば、学者など、本来の自分たちの役所仕事と直接は関係のないことをごたごたとやっている、よく分からないやつらだろう。
 調べものには重宝するが、それ以上の関わり合いをあまり持たない。
 彼らがこの件で、実にどうでもよさそうな言動をしていたのは、そういう意味では納得の行く話だった。

「おっと、これは失礼。余計なことを申しました」

 我々の表情から何かを読み取ったのか、紐男が軽い感じで詫びた。

「いやいや、よくあることなんだ。まあ、いいさ、その話は。直接かかわりのある話じゃあない」

 俺の何となく発した言葉に、紐男が目を鋭く光らせた。
 俺は訝しんだが、すぐに合点がいった。
 要は、我々が土地収用委員会事務局の手先ではないか、別件で来たような顔をして、実際には用地取得のために来たんじゃあないのか、そう疑っていたのだ。

 すぐに、まずい、と思ったね。

 ここで否定するのは簡単だ。そうなったら彼らは安心して協力してくれるかも知れない。
 が、「直接かかわりのある話じゃあない」、つまりは何やっても葛城地区は基本的に我々を見捨てる、だったらそんな我々のことなどどうだっていいと解釈されるのは、これはとても困るんだ。
 我々を舐めてかかって、真剣味のない口から出任せしか喋らない可能性もかなりあった。民俗学の実地調査で、相手にこんなことを平然とされたら、まあ滅茶苦茶困る。
 じゃあ、黙っていて、どちらともとれるようにして、「そこは分からないから、あえて触らない方がいい、いずれにせよ真面目にやるに越したことはない」と思ってもらった方がいいだろう。

 そういう判断が働いたんで、我々はそこでその話については終わりにした。

***

「葛廻流風は、廻流風(えるふ)の支流なんですよ」

 紐男が話題を変えた。

「ほとんどの廻流風は、石や、木は面倒なので、縄張りにあるいろんな草を使って、それで生業(なりわい)としていますね。
 廻流風は、麓(ふもと)の村(むら)とは違う、自分たちだけの草木の呼び方を持っているんですよ。いわゆる竹(たけ)のことは万武(ばんぶ)、薄荷(はっか)のことは民斗(みんと)。

 ずっと離れた南蛮(なんばん)の人たちの言葉と通じるものがあるとのことで、一時期…何だっけ…言語学者? あちこちの土地の言葉を研究する学者の先生方、いるじゃないですか。
 彼らの訪問を受けて、随分と迷惑したみたいですね。

 万武、あ、竹を主に使う、万武廻流風(ばんぶえるふ)の連中、だいぶ怒ってましたよ。野武士(のぶし)として落ち武者狩りをしながら、雑兵(ぞうひょう)として雇われたりもしてた経緯(いきさつ)があるから、かなり血の気は多いやつらですよ。
 言語学者を竹槍(たけやり)や竹刀(しない)で袋叩きにして追い返したとか何とか。すごい失礼なことを言われたらしいんですけどね。それについては俺も詳しく聞いてないんですよ。

 後、民斗、いや、薄荷を主に使う、薬売りの民斗廻流風(みんとえるふ)の連中は、食い物や飲み物に下剤を仕込んで、へろへろになった言語学者を丁重に追い返したらしいですね。
 何があったかは知りませんが、余程腹に据えかねたんでしょうね。

 いや、我々は呑気なもんですよ? 葛(くず)は我々の間でも葛(くず)だし。だから言語学者も来ない。
 ミンゾク学者も確か今回が初めてです。
 そういう意味では、ようこそいらっしゃいました、といったところですね」

 両肩にかけた葛の紐に軽く指をかけ、へらへらとそんな物騒なことを言い出すから、最初は身構えたよ。

 そういえばお前も、この前まで万武廻流風山脈(ばんぶえるふさんみゃく)でずっと調査していただろう。
 やっぱり噂で聴くように、そんなもんなのか?
 え? そう言う単純な話でもない? ものすごくよくしてくれた人もいる? いろいろあった?
 そうか。まあな。どこでもそうだよな。我々の時も…まあいいや。その話も、また後だ。

***

「話を戻しますと、廻流風たちは、夫婦(めおと)や親子(おやこ)を中心に、群(むれ)を成しています。
 何か喧嘩があると、群としては割れて、別々に行動していますね。彼らは出来るだけ再び会わないようにしている。よくあることです。
 とはいえ、一人で割れるのは、これは本当に稀で、これは追放という扱いになりますね。こうなると、生き残るのはまず難しくなる。だから、皆、これは本当に避けようとしますね。

 大抵は山のあちこちをぐるぐる回って、食べ物が足りなくなったら次の拠点へ移動する、ということをしています。
 だから、群が割れるのも、特に困らないで出来る訳です。
 これが麓の村だったら、まあこうはいかないでしょうね。

 後は、珍しい良いものがあったら、それを麓の村や、遠くの廻流風の棲む山脈で売り買いする。これは俺たち行商人の仕事ですね。
 食べ物を拾って、珍しい良いものを売り買いする。この二つで大抵何とかしているんですね」

 紐男は、案外、かなり饒舌な男のようだった。
 そんな彼の長話を、我々は食い入るように聞いた。
 話の一つ一つに、奇妙な言い方であるが、群の狭さに囚われない、想像以上に深い知性を感じた。

 群以外の様々な相手と取引をすると、ものの見え方に幅が出てくるのであろう。そこは、まあ、分かるんだよ。
 しかし、ここまで話がうまく、また自分のものの見え方がちゃんと説明出来ているやつは、山の外でもかなり珍しい方だろう。
 やや大袈裟(おおげさ)に聞こえるかも知れないが、この千年都大学(ちとせのみやこだいがく)か、あのいけ好かない新成都大学(あらたなるみやこだいがく)くらいでしか見ないふうなやつだった。

 葛廻流風の調査をしに来たはずだが、それより何より、彼という一個人に、興味が惹かれていくのを感じた。
 おかしな話だろう。でも、そうだったんだ。

***

「ものをずっと持っている、ということはしないんですよ。どうせすぐに傷んで腐るから。
 保存食はあるとだいぶ嬉しいんですけど、そういうのを山で作るのは大変ですね。
 もちろん、火でも使えばもうちょっと楽なんでしょうが、山火事が本当に怖いんで、火の使用にはだいぶ気を遣いながらやっています。
 だから、ふつうはこれも買うものですね。

 逆に、これを言うとあなた方は怒るかもしれないんだけど、沢山(たくさん)のものをずっと持っている人たちのことを、あまりまともに見ていないんですよ。

 少なくとも、あんまりものに溢れている訳ではない山で、そんなことをするやつは、まともじゃない。
 しばしばそれは、多くはないいろんなものを独り占めしていることで成り立っているんで、群の他の仲間はそのせいで飢えていることが多い。
 ましてそれで、そいつの貯めていたものが傷んで腐って使い物にならなくなっていたとしたら、まあ最悪ですよ。

 ということで、沢山のものをずっと持っている人は、欲張り(よくばり)なやつ、業突く張り(ごうつくばり)呼ばわりされて、かなり強い蔑み(さげすみ)の目で見られる。
 それで、群の仲間全員に、御仕置き(おしおき)として、持っている沢山のものを「持っていかれる」ことがある。

 我々は、基本的にはそういう考え方しか持たないから、麓の村の人たちが沢山のものをずっと持っていると、ちょっと一緒に暮らしてはいけないな、と思ってしまいますね。

 彼らの感覚では、我々は盗人(ぬすっと)と呼ばれるんでしょうが、そもそも我々としては、彼らのことは業突く張りだと思ってますよ。
 盗人云々は、業突く張りが、御仕置きとかでものを取られたくないから、初めて悪口として成り立ったんだと思うんですよ。

 麓の村の中ではともかく、山の群の中では、業突く張りの方が、はるかにきつい悪口ですよ。
 盗人呼ばわりは、山の群の中では、ふつう通用しない。

 ものの扱い方一つをとっても、考え方がだいぶ違うし、お互いがお互いの善し悪しの考え方を呑み込むことはないから、そりゃあ揉めるでしょう。
 そんな訳で、我々はふつう、麓の村に住むことはないんですよ」

 紐男は、廻流風の一人として、自分たちが盗人呼ばわりされることに、どうやらだいぶ腹を立てており、言いたいことがたくさんあるらしかった。少なくとも俺にはそう聞こえた。
 俺の耳には、彼の言っていることには、それなりに理屈は通っているように感じた。
 少なくとも、廻流風たち本人が語る、彼ら自身の善し悪しの考え方としては、それまでで一番分かりやすくしてある説明だ、というふうに感じた。

 だが、率直な印象としては、そりゃあ揉めるのは当たり前だろうな、俺が麓の村人だったら、こんな人が目の前にいたら絶対に困るよな、とはどうしても思ってしまった。
 とはいえ、非常に大きな知見だったのは確かだ。こういうことがあるから、民俗学はやめられないんだよな。大きな危険が伴うことも確かだが…

***

「麓の村にも良いことがあるのはよく分かりますよ。そこはそうです。
 特に、田畑(たはた)は、五穀(ごこく)や木綿(もめん)が穫れるんで、ものすごく便利でしょうよ。
 けど、我々は、田畑を耕して作物を穫るやり方を知らない。

 というか、村人は、ふつうの廻流風と同じかそれ以上に、余所者を嫌うんで、田畑の耕し方を教えてくれ、という話にもなかなかならない。
 田畑の土地も、水も、そう簡単には分けてもらえない。訳の分からないくらいに入り組んだ、掟(おきて)の通りにしないと、そういうものは手に入らない。
 もちろん我々も様々な掟を守っているんですが、もうそれどころじゃないほど、村の掟は難しい。

 村の掟を知らない者が、村の掟を全部呑み込めるようになるまで、わざわざ村で生きるうまみはあんまりない。
 じゃあ、やり方を知らないだけじゃなくて、我々としては、当面うまみのまるでないことを、わざわざするつもりもない。
 結局、あんまり豊かとも言えない山で、細々と暮らしてる。訳です」

 大体この辺で、我々にもようやく何となく分かってきた。
 これは、彼は、葛廻流風の風習の説明をしてくれているのだ。
 そうだ。口伝だから、正に、民俗学の大事な情報源だ。

 彼は、民俗学のなんたるかは分からないにせよ、おそらく我々が、地方の口伝や風習を特に重んじて調べに来ているということについては、そこは概ね、役人たちから正確に説明が伝わっていたようだ。
 これが彼なりの善意であり、職業意識であり、「案内」の一環なのであろう。
 当然、我々にとってはとてつもなく有難いことだった。俺も先輩も必死に記録した。

***

「その手帖(てちょう)と鉛筆(えんぴつ)、便利ですよねえ。
 筆(ふで)は筆で丁寧に書けるけど、鉛筆は力加減や太さがあんまり変わらないし、硯(すずり)や墨(すみ)が要らないのがいい。
 書けなくなったら削るために小刀は要りますが、そりゃあ葛廻流風は誰でも黒曜石(ほしくそ)の小刀を持ってますからね。問題なく使える」
「そうなんだよ。欲しい? もっといろいろ話をしてくれたら、まっさらな手帖もあげようか」
「おっ。話が早いですねえ」

 先輩は紐男と取引を始めた。いきなりいいのかとも思ったが、先輩としては、とりあえずやってみる、という姿勢のようだ。

***

「掟、で思い出しました。
 群の掟の話をしましょう。大事な話ですから」

 我々は背筋を伸ばした。それは確かに、鉛筆や手帖なんかよりも、はるかに値打ちのある、大事な大事な話だ。
 どこの群でも村でも、もちろん領(しま)でも国(くに)でも、掟を守らないでやっていくのは極めて難しい。
 人一人で人生をやっていくのは難しいし、やることなすこと、すぐに限界が来る。
 が、複数人でやるからには、お互いの都合の擦り合わせや、押し付けが、どうしたって生じるものだ。

 葛廻流風の掟。それは。

「くれぐれも、上から目線でとやかく言わないで下さいよ。
 葛廻流風山脈の群には群の、再統一国家(ひのもと)のあなた方にはあなた方のものの考え方がある。
 特に善し悪しの考え方が違う。それをお互いが呑み込むこともないでしょう。
 俺だって、再統一国家の人の考え方は、少しは分かりはするんですが、もちろん呑み込めてはいないんですよ。そういうものです。
 だから、それはそれ、これはこれ。そう割り切って欲しいんです。そこだけです」

 我々は頷いた。当たり前のことだと思った。
 後で、我々はこの安請け合いのせいで、非常に高い授業料を払わされる羽目になった。
 その話を、後で必ずしたいと思う。

***

「さて、行きましょう。もうすぐなんですよ。俺のいる群の野営地(やえいち)は」

 時間の経過も分からぬまま、我々はうろうろと紐男の後をついて行った。

 やがて、ぱっと視界が開けた。
 紐男の声が、聞こえたような気がした。

「と、いう訳で。ようこそ、葛廻流風の群へ」

 と。」

(続く)

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