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創作メモ(2024/3/6):自己流の小説の書き方の記録_2024(前半)


0.何でこんな記事を書いているのか

小説を書きたい人で、「小説の書き方」に興味のある方は少なくないでしょう。
同様に、小説を書きたい人で、少なくない方が「自己流の小説の書き方」を持っていて、しかも言語化していない、ということがあります。

私は両方でした。
このため、一つ困ったことがあり、それに苦しめられて来ました。

何か?
自分がスランプになった時に、脱することが難しくなっていた、ということです。
スランプの時に、今までふつうに見えていた特定の視野や、ふつうに出来ていた作業が、まるで出来なくなることがあり、そこで引っかかって一切小説が書けなくなる訳です。
「自己流の小説の書き方」が障害されていた場合、今まで無意識のうちに書き方が分かっていた小説が、当然ながらまるで書けなくなります。
これがいかに恐ろしい事態か。
剣術の一門が、寝て起きたら剣の振るい方を忘れるとしたら、まあその一門にとってはこの世の終わりというやつでしょう。
(荒山徹『柳生百合剣』でいうところの、過去に遡って事象をマスクして「なかったことにする」戦慄の呪術、断脈ノ術が、そういうあれでした)

スランプは降って来るもので、抗うことはかなり難しいものです。
でも、スランプであろうが、小説を書く力をある程度残すことは出来ます。
「書き方」のいくつかは方法論であるため、それをマニュアルとしてやれば、一応は書ける訳です。
上手く行けば、比較的早期に
「ああ大体こんなことをしていたのだよな」
と感覚を取り戻すことができるかも知れない
のです。

これはそういう記事です。
基本的には、いつかスランプになった自分自身のための道標です。
それはそれとして、スランプで困っている方に、お役に立てれば幸い、という意図もあります。
(とりあえず2024/3/6現在の暫定的なものに過ぎないことはご了承下さい)

1.長期の前準備

自分で書いていて、読んでいてしっくりくる、我流の物語構造を用意しましょう。
今まで書いてきたものを読み返したり、その時に心に浮かんだ
「もっとこれをああした方がしっくり来るよな」
という感覚を抽出すると、物語構造が出来ます。

これはあらかじめ参考となる作品を複数用意しなければなりません。
また、当面は何も考えずにとにかく自作を書くことが避けられません。
そして、ほとぼりの冷めた頃に、その自作を読み返さねばなりません。
「結構イケてるじゃん」と「アカン」を高速反復横跳びすることになります。
「アカン」をメモるだけで、得る知見は大きいが、心身の消耗もまあまあシビアになるでしょう。
根気が要るし、時間もかかる工程です。

ですが、この工程は決して無駄にはなりません。
むしろ値千金と言えるでしょう。
スランプの時でも、これをなぞれば、多少腑抜けたクオリティにはなるものの、芯はブレてない小説が書けるからです。
とにかく芯だけでも書くことが第一歩です。
後は芯に沿って書いたり直したりすれぱ、書けるし、クオリティも補えるのだから。

1.1.我流の物語構造を作っておく

私の書き方を記録します。
とはいえ、かなり粒度を粗く取っておきます。
シチュエーションによっては、これでは適さないものもあることは百も承知なので、一般化しないことにする、ということです。

1.1.1.序盤

  • 事前の話を一切していない「読み切り」や「第一話」や「単発回」や「連載中で中編程度のエピソードを書く場合の初回」の序盤と、

  • ある程度話が開示されている最中の「長編や中編程度のエピソードの途中の小さな一里塚」の序盤は、

意味合いが異なるので、少し書きぶりを変えた方がいいです。

***

ただ、いずれにせよ、同じ展開になります。
具体的に言うと、私の場合、基本形は

  1. 状況としての出来事(初回または前回、何があった)

  2. キャラにとっての出来事(初回または前回、キャラに何が起きた)

  3. キャラの反応(こういう時にキャラはどんな言動をするのか)

  4. キャラの心境(こういう時にキャラは何を思うのか)

になります。

1.1.1.a.読み切り・第一話・単発回・中編初回

1.1.1.a.1.きっかけ

物語においては、主人公は何らかの題材に向き合うことになります。
そうでないと、読者としては読み味がブレます。
味がよく分かって来ない作品を継続して読むほど辛抱強い読者はあまりいません。
もしファンになったとしても、他人に勧める時に、
「この作品はここが売り」
とアピールすることはとても難しくなるでしょう。
これは、端的に、持っていない方が良い弱点です。

ということで、主人公が作中で一貫して向き合うことになる題材があるとして、それに向き合うきっかけを書きます。
これは、
「何で主人公がある題材に取り組んでいるのか」
という理由のために要ります。

主人公の姿勢は、基本的には以下の3種類に収斂します。
これらのどれかが書けるようになっていれば大丈夫ですし、自由自在に書ければますます便利です。

1.1.1.a.1.a.一般市民の巻き込まれ事故

主人公が平穏無事に生きている一般市民であった場合、何かに取り組むようになるには、物事への姿勢や態度を揺さぶるくらいには劇的な、何らかの事件によって駆動されることになります。
平穏無事に生きている一般市民が、そんな劇的な事件に自ら首を突っ込むことはふつうないため、それは巻き込まれ事故の形を取りがちです。

1.1.1.a.1.b.主体的な主人公のきっかけ

「巻き込まれたからその題材に向き合っているのは惰弱である。
主体的な主人公なら、巻き込まれ事故がなくても題材に向き合うものだ」
という主張もあり、それも分かります。
とはいえ、せめて何らかの形で、しっくりくるきっかけは作っておいた方がよいでしょう。
どんなに主体的な主人公であっても、
「何でこいつは主体的にこの題材に関わっているんだ。
傍目には理解不能で共感不能な理由による酔狂でやってるのか?
読者のこちらとしては付き合ってられないが…」

と思われることは、デメリットでしかないからです。

1.1.1.a.1.c.気合のある一般市民の藪蛇

中間として、善良で正義感の強い気合のある一般市民が、何らかの事態に首を突っ込み、そうしたら想像を超えてとんでもない事態になって巻き込まれるパターンもありますし、それは大いにアリなのです。
が、読者が理解不能または共感不能なレベルの気合に、主人公を満ち溢れさせないようにしましょう。
読者が「何だコイツ。ちょっとおかしいぞ」と思ったら、その作品は読まれなくなるからです。

1.1.1.b.小さい一里塚

話が展開している場合、第n回で毎回区切るでしょう。これを物語の一里塚と見立てます。
一里塚の序盤は、
「連載を途中から読んだ読者に、何が起きているか分かるようにする」
性質を持つものです。
つまり、展開中の前回の終盤からの続きでなければなりません。
このため、

  1. 前回の終盤に何があったか、

  2. キャラはどうなったか、

  3. どう反応したか、

  4. 何を思っているか

という書き方になります。

こうしないと
「分からない話が分からないまま展開されている」
ということで、連載を途中からいきなり読んだ読者は、何も分からないので、ふつうに頁を閉じてしまいます。
(単発回の後や、中編が一区切りついた後なら、ふつうに1.1.1.a.のパターンで書けばよいのです)

1.1.2.主題

ここで、大なり小なり、メインテーマを入れます。
「こういう観点価値観に鑑みて、こうしたいという動機がある
という形が自然であるように思います。

1.1.2.a.読み切り・第一話・単発回の大きな主題

読み切り・第一話・単発回では、大きな主題を書きます。
この場合、「こういう観点や価値観に鑑みて」の部分は省略できません。
省略すると、読者としては
「これがやりたいのは分かったが、なぜやりたいのかが分からない」
と困惑して、キャラにのめり込めないまま、後でやっぱりノリ切れなくなって、頁を閉じてしまいます。

でかい価値観はいくつかあり、快適さの話をすると

  • 予想以上に得をする

  • 願望を満たす

  • 快楽を刺激する

  • 辛さに手当てをする

  • ほっとする

  • 興奮する

とか、お天道様の道徳の話をすると

  • ケア(人助けをする)

  • 公正(やったことにちゃんと賞や罰がある)

  • 集団忠誠(仲間とやっていける)

  • 権威(まともに扱われる)

  • 神聖・清浄(警戒を余儀なくするおぞましい何かがなく平穏無事である)

  • 自由(やりたいことを妨げられない)

  • 誠実(誤魔化しがない)

  • 所有(奪われない)

  • 非効率・浪費(無駄がない)

などの話があります。
(これらは、多様な価値観を数個のカテゴリーに集約できるのではないかという、ジョナサン・ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』の諸カテゴリーを参照したものです)

「宝の山で一攫千金」とか「美形といい感じになる」とか、「得体の知れない脅威的な外敵を退けたい」とか「人助けをする」とか「誰にも妨げられない」とか、そういうざっくりとしたテーマを示すことになります。
もちろん、それを即しっくり伝わる形で伝えるには、どうするか、というのは実際の執筆の際にはよく工夫せねばなりません。
ただ、この段階では
「ざっくりとカテゴリーとしては何にするか、それだけ決めておく」
程度で結構です。

1.1.2.b.一里塚の小さな主題

小さいものだと「今の自分にとって、一番食べたい、あの料理を食べる」とか、「差し当たり目の前の敵を退けて先に進む」とか「突きつけられた問に答える」とかです。
個別の事案になるので、その都度具体的になります。
いずれにせよ、前回までで既に大きな主題は示しているはずなので、それをぶち壊しにしない、というところは気を付けねばなりません。

1.2.事件

過去の話は序盤でして、作中現在の話はここで行います。
「過去こんなことがあったから、現在何かあったら、こいつはこう動くんだよ」
という序盤の前置きが、ここで効いてきます。

  1. 背景(舞台の説明。作中事実の記述になり、かったるくなるのは避けがたいので、臨場感を保つよう工夫する)

  2. 経緯(事件発生・発覚までの経緯。カメラの向きを舞台から関係者に移す)

  3. 兆候(事件発生・発覚につながる何らかの違和感や異変を描く)

  4. 事件(作中現在での事件発生・発覚)

私はだいたいこんな感じで書くことを目指しています。

1.3.反応

主人公は事件に反応します。
とはいえ、やることはシンプルです。

  1. 困惑(「ええっ。マジか」)

  2. 覚悟(「じゃあ、やるぞ」)

この2つです。
困惑を少し描いて、覚悟でスパッとモードを切り替える訳です。
初回等なら
「きっかけの際にうまく動けなかったので、今度はキッチリやってやる」
とか、続きなら
「乗りかかった船だ。引き続きキッチリやってやる」
とか、そういうことです。

困惑抜きでいきなり覚悟を決める、迫力のある主人公もいます。
でも、ふつうは主人公が
「ええっ。マジか」
とか、場合によっては
「これはそのままにはしておけん」
くらいのことは表に出した方が、読者にしては
「ああ主人公はちゃんと理解可能で共感可能な心の動きをしているんだな」
となります。

恋愛ものなら困惑のフェーズがやや長くなります。
「これで変なことをして関係が壊れたらどうしよう。たぶんこちらは死ぬほど凹むことになる」
と悩むのはごく当たり前のことです。
むしろそこで悩まない、ドキドキした心の動きがない恋愛、傍から見れば理解も共感も難しいところではないでしょうか。
そういう平板な恋愛もの、ふつう読んでて全く楽しくないので、ここでの困惑は丁寧に書かねばならなくなります。

そして、ふつうはうざくない程度に質と量を調整しておかねばなりません。
読者がウッとなるくらい濃い描写や、長くてうんざりする描写では、読者はうざくなって頁を閉じてしまいますし、作者は困ります。

エンターテインメントでなく、
「うざったさなんて知るか。これが人の心の動きの本当のところだ」
とやるなら、調整はしないのが本当の描き方になるでしょう。
また、読者が翻弄される主人公に
「この人どうなっちゃうの」
と同情するべく書かれた話を書くのなら、これでも問題なく成立するのです。
が、あまりにもうじうじしているだけの主人公だと、いずれにせよ読者はふつうかったるくなって、読むのをやめます。作者? 困りますね。
どのフェーズでも気を付けるべきところですが、人を楽しませる話をやる以上、うざくかったるくならないようにするのは、ふつうの姿勢です。

1.4.実行前

これからやることの、事前の打ち合わせです。
打ち合わせは現実にも面倒なもので、傍から見ていてかったるくなりがちです。
なので、サクサクと物分かりよく進めたいですね。

  1. 確認(概ね何がどうなっているのかの状況確認)

  2. 要約(主人公がこれから概ね何に向き合うのかの要点)

  3. 対策(手持ちの札で、成功条件と失敗条件を明確にして、決定する)

  4. 準備(布石を打つ。かったるくないようにさらりと描く)

  5. 開始(「本当にやるぞ」と宣言することで読者に期待感を引き起こすか、いきなりやって読者の目を引くかする)

私はこんな感じで書いています。

1.5.実行

ここからやることは、我流の物語展開です。
しかし、物語の種類によっては「飛ばす」ところが多くなるでしょう。
というより、以下の11項目をフルでやる物語、あんまりないはずです。

  1. 単独行動(技術の熟練で話が進み、限界と突破で爽快感を得る)

  2. 縁なき他人と自分(人助けで話が進み、不意に助け返されることで有難くなる)

  3. 深入りしない人間関係と自分(請負で話が進み、報酬を得て信頼関係が深まることで仕事と生活が堅実になる)

  4. 深入りする人間関係(親近感や魅力や嬉しさで話が進み、場合によっては得難い理解者や恋人になる)

  5. 身内と人間関係(仲間内で親しくなり、裏切らずに根性を入れて仲間のためになることをして、さらに高い信頼と尊敬を得る)

  6. 組織と自分(協働と分業で話が進み、仕事が事務所や会社等や他の事務所の誰かの役に立っていると信じられることで、虚しさに勝つことができる)

  7. 後輩と自分(異動でやって来たうまく動かない新入りに戸惑いつつも引き継ぐことで、赤の他人に過去の自分を見出して本当の意味で優しくなる)

  8. 部下と自分(自分がチームを率いて、新入りやプライドの高い古株やこちらをナメている厄介者をついてこさせて、破綻しないようチームを回して、場合によってはプロジェクトの受け持ち分を完遂させる偉業を果たす)

  9. 他集団と自分(身内の常識が通用しない他集団と提携したり、揉め事を仲裁したり、ライバル集団と競争したりする)

  10. 社会と自分(「外」の社会の厳しさを前に、お天道様に恥じない真っ当な仕事をしたり、アウトローでやったり、革命を起こしたりする)

  11. 万人と自分(多様な価値観を持ち、最低限の社会規範を守ることにおいてすら合意の取れない人たちを前に、それでもシビアに何とかやっていく)

人間関係を描かないのなら、1.以外を書く必要は全くありません。
フリーランスで仕事ものをやるなら、3.の比重が大きくなります。
恋愛ものを描くから、4.以外を書く必要はないでしょう。1-3.はやるだけかったるい話になります。
家族ものをやるなら、5.の比重が大きくなります。
仕事組織ものとか、戦国時代の家臣や当主を題材とするタイプの歴史ものをやるなら、6.から10.まで、場合によっては11.までも描かねばならないでしょう。

全部書こうとすると、全体小説というジャンルに限りなく近づきます。
私はこの手の作品を一つ知っており、大傑作であることは間違いないのですが、根気がメチャクチャ要るタイプの作品なので、他人に勧める気はあんまりありません。
それに、11倍盛り上がるかもしれませんが、かったるくなるリスクが11倍上がるので、だいぶ恐ろしい挑戦です。

1.6.試練

しばしば、クライマックスを前に、自分の全存在をかけた弱点の克服が待ち受けています。
一切の交渉が通用しない厳しい現実を前に、誰の力も借りられないから自分でやるしかない類いの限界に立ち向かい、限界と弱点を同時に突破する、という工程です。
1.5.1.「単独行動」ハードモードと言えますが、1.5.1.では最初の熟練の工程で限界を突破するところを、1.6.では自分という存在の総仕上げとして行います。だから、重さが違います。
本人にとっては思い残すことのない、読者にとってはかったるさのない、完全に仕上がった状態で、決着に突き進んでいく訳です。

1.7.決着

ここはクライマックスなので、筆を尽くして土壇場を描き、特大のカタルシスが来るように決着させます。頑張って下さい。

1.8.結果

ふつうは
「こんなんなりました! うまくいきました! おめでとう!」
ということです。
そして、ここで一気に1.10.「終盤」まで行っても全然構わないのです。

1.9.後始末

ただし、描きたいテーマが
「成功したら全部めでたしめでたしという訳じゃあないんだよ」
というものだったら、このままでは終われません。
特に、きっかけや事件の際に受けた「不愉快の回復」が要請される場合、得られた結果だけで、溜飲が下がったり、傷が癒えることは、まずないでしょう。

それに、実行の際に傷が増えることはかなり当たり前のことです。
結果がその傷の埋め合わせに足りると、心の底から思えるか?
思えないなら、傷の回復は、別にやらなければなりません。

また、試練の際に仕上げたとしても、結果を見て
「この結果では副作用がある。その後始末は要るのではないか?」
という話はしょっちゅうです。

だからしばしば、結果の後で、そういう後始末の話も要請されます。
傷の回復は大変なことで、実際に時間もかかります。
簡単に治る傷の話なんか、読んでて「ケッ」としかならないでしょう。

ですが、これは同時に、読んでいる際に、下手をすると容易にかったるくうざったくなる、という意味でもあります。

そもそも、エンターテインメントは安全に楽しみたいのであり、たとえジャンルが悲劇でも、ふつう観客と役者には距離があるのであり、わざわざ傷そのものに深く共感させようというなら、それはエンターテインメントから外れていきます。
だからこれは、辛さに手当てをする類いのエンターテインメント以外では、特段必要のない工程であることを、あらかじめ申し添えます。
(ひょっとしたら、今まで書いておいた工程のバリエーション、ある意味での再演に過ぎないのかもしれないしな)

私の場合は、こんな感じになります。

  1. 副作用(結果のうち望ましくはないもの)

  2. 後遺症(結果の嬉しさはあっても、副作用を抱えながら、その後も生きていかねばならない)

  3. ヴァカンス(そういうのに疲れたので、離れたところで休養を取る)

  4. 不思議な体験(思考が変わる何らかの体験をする)

  5. 吟味(体験の意味を直ちには呑み込めないし、今の自分の価値観からも受け入れがたいところがある)

  6. 印象に残る(後日の宿題となる)

  7. 雑事に忙殺される(傷や副作用や体験を抱えながら、また日常に戻る)

  8. 不毛さ(つまらない日常に埋没し、うんざりしたり、うんざりしたことも忘れて埋没したりする)

  9. 気付きの訪れ(傷や副作用や体験から距離が出来たため、逆にそれらを客観視できる時が来る)

  10. 自分なりに納得する

  11. いろいろ手遅れになっている(傷や副作用の一部は取り返せるかもしれないが、もう取り返しのつかないところも多々あることを認める)

  12. やれるだけやろうという決意(取り返せるところは取り返す気になる)

  13. 後始末(痛い傷や面倒臭い副作用を今更ながらちゃんと片付けていく)

  14. 道半ばにしての挫折(あまりの痛みや面倒くささに、力尽きたり行き詰まりを感じたりして、道半ばで諦めかける)

  15. 啓示(もう諦めても良いという慰めを受けたり、全く関係ないが頭の中で勇気づけられるような体験をしたり、閉じた思考を吹き飛ばすような呆気にとられる体験をしたりする)

  16. 自分なりに救済された気になる(諦めてたまるかという気になったり、勇気づけられたり、思考を吹き飛ばされたりして、自分の今は無駄ではないと思えるようになり、救われた気になる)

  17. 再出発(諦めに打ち勝ってまたやり続ける)

  18. 出口(あと少しで終わる、という予兆を受け、さらに勇気づけられながら、粛々とやる)

  19. 成就(本当の意味で仕上がる)

  20. 成果(手元に、今までの答え合わせとなる、完全に仕上がった傷のない事柄が残る)

  21. 受容(手元に残ってくれた事柄を、毅然として有難く受け止める)

だいぶ細かい? 私自身もそう思います。
だからあくまで参考程度にして下さい。

なお、4.「不思議な体験」については注意が必要です。
本来のテーマで物語を駆動した後の諸問題の後始末で、本来のテーマとは別の「余談としてのテーマ」を、ここで出して、物語を軌道修正して上手く着地させることになるのですね。
だから、ここの「余談としてのテーマ」については、
「本来のテーマだけでは足りない。
あれとこれの話も、実はしなければならない。
それを主人公はいつか受け入れて、後始末としてやっていくことになる」

という意味合いを持ちます。
つまりは、そのように機能するよう、テーマとして相当吟味しなければならないところです。

1.9.幕引き

やることをやり、失われたものや増えた傷の手当もしたら、
「この人はこんなことになり、そのためこんなことをして、そしてこうなった」
という今までの長い話は終わりです。
単に「終わった」ということならそれで良いのですが、主人公として綺麗に物語から抜けるためには、どうすれば後味が良いか、ということを考えねばなりません。

ここでつい主人公の引退に対して「死んで退場」という発想をしてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しけし、別に引退だけなら生きていても出来ますし、そうして主人公に新しい人生余生を与えて退場させても良い訳です。
だからキャラの生死は退場の本質ではない訳です。

***

成果の中には、世の中を少しマシにするために寄与するものや、そうでなくても誰かのためになるものがあったりします。
そういう財産を、世の中や誰かにあげることがあります。

もし「死んで退場」の場合は、遺産をあの世には持って行けないし、この世において単に無主になって朽ち果てるのももったいないので、ますます誰かに託すニーズは大きくなります。
生きてるなら、新しい人生や余生のための分はもちろん取っておくことになります。世のため、人のため、自分のために、よし、という形にしたら、これもこれで綺麗に終われるでしょう。

ちなみに託す先の方から「要らん」と言われるパターンもあります。それはそれで話は成り立ちます(ジブリアニメ映画『君たちはどう生きるか』はそういう話でもありました)。

***

ということで、私の場合、幕引きは以下の通りです。

  1. 信託(成果の一部ないし全部を、それを必要としているかも知れない、後世や誰かに託す)

  2. 幕引き(退場する)

1.10.終盤

1.10.a.中編完了で次回がある場合は次回に続く


これは簡単で、このまま終わって、次の物語の中編ないし単発回を書けば良いだけです。

1.10.b.次回がない場合は大団円

主人公が物語を手放したので、誰も手綱を握らなくなった物語は、物語としては終わっていきます。

私の場合は以下のように終わります。

  1. 解体(特筆すべき物語ではない世の中に、皆が帰っていく)

  2. 総括(作品の意味合いを際立たせる「隠されていたテーマ」。これは書いているうちはなかなか気付かないので、事後的に書くことになるが、もしえらかじめ気付いているのなら上手く着地させやすくなる)

  3. その後(皆も舞台も物語に引きずられることはなくなり、それぞれの日々が始まる)

  4. そして(この後で何かあるであろう次の物語の片鱗)

  5. キメ(物語がいい感じに終わる文章)

4.「そして」だけは注意が必要です。
2.「総括」で最後に示した「隠されていた」作品の意味合い、味わいを、この後で何かあるであろう次の物語のために、さらに別の意味合いで拡張再定義して、迫力を出す、というのがこのフェーズの役割です。

分かる人のために言うと、石川賢漫画の「そして」で終わるタイプの終わり方、通称KENDのことです。

時代伝奇ものではオチによる解釈の変化を史実に接続して、史実よりポジティブまたはパワフルな意味合いを持たせて味わいを増す手法として使われることもあります。
荒山徹『サラン』のオチは、山田風太郎『魔界転生』の、とんだ前日譚なのでした。これをあたかも史実のように扱うから恐ろしい剛腕ですよ。

この手法には好き嫌いが分かれるので、無理には勧めません。
「しっとりと終えたい時に、迫力を出すのが、果たして良いものか」
ということを考えると、向き不向きもあるのは確かです。
俺は大好きですが、そこは率直にそう思います。
(石川賢も晩年の漫画『武蔵伝〜異説剣豪伝奇〜』はものすごーくしっとりと終わったしな)

2.物語構造を自己流にカスタマイズする

もちろんこの書き方に汎用性がなければ別の書き方を模索して下さい。
要らんところはガンガン「今回省略」という扱いにしていくことになるでしょう。
また、「自分ならこうする」というのがあれば、そうすれば良いのです。
是非自分なりの書き方を見つけて下さい。

3.短期の前準備に備える

そして、この話には続きがあります。
もちろん、いざ小説を書くなら、短期の前準備もしておく必要がある訳です。
その話は次回行います。乞うご期待。

(続く)


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