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私がいっぱいいるもんだから

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詩たち
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#現代詩

ナンセンス

向こうの海岸で火の手があがっている。わたしは目が悪いのでよく見えない。季節外れのどんど焼…

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よるは、いっしょに

夜の淵が 手を取り合って 襲ってくる 波のように 白いしぶきをたて 防波堤もない わたしの夜 …

9

りんじん

液晶越しの 若者たちの往来が 両手ですくったように からりと消えた 誰もいない交差点の 赤信…

10

いのり

グッバイ世界から 見えていた風景 公園の遊具たち あふれていた足音 笑い声 コンクリートに…

6

不安の種

マスクで覆われた顔が ぞろぞろと ひとつのスーパーへ行進する こころだまりに 不安の種が浮…

4

滑り込む

一月頭の三連休、夜十時の副都心線は煌々として明るい。爪を見ながら眉をひそめて、スマホをい…

15

声がする

頭の中に十字架がたっている。あれは座標か墓標か、まだわからない。懺悔のような声だけはよく聞こえる。お母さんごめんなさい。 とうきょう、おはよう。さようなら。つらいからさよならするわ。彼の顔が最近よく思い出される。 またここは海沿いの街。彼女が懺悔している。彼や母に向かって必死に頭を下げている。 約束はついに果たされなかった。それでもいいと笑っていた遠い過去だった。現在はとっくに消えている。ご飯を食べずに肥えていく。料理だけは毎日つくる。 工事中の交差点、あの下で地下鉄