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シオンinucrab
2014年10月30日 19:47
ひたすらに歩いても、鳥の死骸は途切れることがない。辺りに微かな腐敗臭をまき散らし、ガラス玉みたいな瞳を乱暴に空へ投げ、大きなオレンジ色のくちばしを横たえている。たまに死骸を蹴りあげてみると、どれも一様にくちばしから身体がずる、と抜けて中からショウジョウバエが弾かれたように飛び出してくる。くちばしの抜けた身体を持ち上げてみると抜ける前と比べ格段に軽くなっていた。試しに死骸の身体を揺すってみるとからか
2014年10月30日 19:43
夜、一人で海まで出向いてみると、波打ち際に沢山の鳥の死骸が寝そべっていた。等間隔に点在し、見える範囲一直線にずっと続いているようだった。砂浜に下りて確認してみると死骸はカラスくらいの大きさで、白と黒のまだらな羽毛が海風でそよそよと揺れていた。オレンジ色のくちばしが異様に大きく突き出していて、小さな瞳はガラスのように光っていたが中心が濁って一切を映し出すことはない。腐敗が始っているのか、辺りには鼻に
2014年10月28日 21:45
朝目が覚めて台所から朝食を作る良い匂いがするだとか、洗濯機をまわす音がするだとか、父親が朝刊を読む姿だとか、私の家では十年前から見ることが無くなってしまった日常風景。朝は一人で目覚め、一人分の洗濯をして、一人分の朝食を作り、一人で食べ、家を出る。父はとっくにこの家から姿を消しているし、母はいるがひどく歪んでしまっているので家事炊事の一切をすることが出来ない。夕方ごろ家に帰ると、大抵母がリビ
2014年10月26日 01:06
ネリは金色の髪の毛をごわごわと風になびかせ、鼻の頭のそばかすを得意げにゆらし、いつも退屈そうに顔をしかめていた。母はネリの髪の毛を「町を蝕む」と毛嫌いし(しかしほかに理由がありそうな)、父はネリのそばかすを「人々を吸い込むから」と無関心を決め込んでいた(あれは父が変わり果てる前)。鉄塔は彼女をすする。彼女は喜んで自らを差し出す。何故、とか、どうして、とか、そういった理由めいた利害めいたものが鉄
2014年10月26日 01:00
夜の東京の街を踏みしめて歩くうちに、私はどんどん取り込まれていくのだろうと気付いた。雨に濡れたコンクリートが足の裏から細胞を肉を内蔵を吸い取っていく。よく冷やされた外灯、中心に陣取る鉄塔、狭い路地にしがみつく老人、私もその一部としてゆっくりと着実に駆け足で溶けだしていく。夜景だとかうまいご飯だとか、美味しいお金だとか自己消耗だとか、選択肢があまりにも多いくせにすべてを選ばせてくれない不自由を知
2014年10月26日 00:58
夏は鳥の死骸が宙に浮く夜があるんだよ、と言ったのは果たしてサトウ君だったか。私はいまいち思い出せないまま、むせ返るような沈黙が充満する砂浜を歩いていた。細く薄いまん丸の月が海の向こう側で発光して、房総半島がそれを抱え込むように腕を伸ばしている。遠くぽつぽつと点在する家やホテルもむきになって灯りをつけていて滑稽にさえ感じるが、月より綺麗な気さえしてくる。私もどうやら、どうかしているらしい。後ろを