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持ってる安部公房全部読む ー第四間氷期ー

気が付いたら8月も後半、相変わらず暑い。前回の飢餓同盟で「日記を書き始めた」と書いたが、今のところ毎日きちんと書いている。ただ、原付の鍵を落としたとかドアに額をぶつけたとか、バスを乗り間違えそうになったとか格好悪いことばかり書いている気がする。日記を書くことで、変わり映えしないと毎日だと思っていたけど、意外とそうじゃないということに気が付いた。では、今日も安部公房の話をする。


2022年12月17日。第四間氷期を読んだ。この話は、万能な電子頭脳”予言機械”を開発した博士が、とりあえず実験台として何処にでもいる平凡な中年男性の未来を予言しようとする。だが思いもしなかったハプニングが起きてしまい、そこから人類がこれから迎える過酷な未来が語られる、というもの。


読み終わって思ったことは、これはただ単純にSF小説、或いはディストピア小説として読んでも物凄く面白かったということだった。予言機械の実験台として連れてこられた男の様子が挿絵にあるが、人でなし感が強い。死人に対してのこの冒涜、あんまり過ぎる。挿絵として可視化されることによって、更にインパクトが感じられて、正直引く。本文を読んで更に引く。多分これを面白いと感じてしまうのは、この先に何があるのか気になって仕方がない好奇心と、見てはいけないものを見てしまった背徳感みたいなものが、頭の中でゆらゆらと鬩ぎ合っているからなんだろう。そして物語に引き込まれてしまい、ページを捲る手を止められなくなる。

日常の連続する先にあるのが現実で、それが積み重なって未来が出来ていく。だけどその未来に、今の現実が糾弾される日は来るだろうし、その時に誰かがツケを払わなくてはいけない。私は作中ではそのツケとして出てくるのが、水中で暮らす新たな人類(水棲人)に取って変わられる世界だと思う。「私が水棲人に対する裏切り者なら、君達は地上の人間にたいする、裏切りものじゃないか!」と博士は言う。

飢餓同盟の時にも書いた、ユートピアとディストピアは表裏一体というのが、ここにも現れている。博士の側からしたら水棲人の世界が珍妙なものに見えるが、それは水棲人も同じこと。そのうち水棲人の占める割合が大きくなると同時に、彼らの声も大きくなる、そして双方の世界が入れ替わり、地上の人間たちは肩身の狭い思いをするのだ。だけどそれこそが、連続の先にある現実が積み重なって出来た未来の辿り着く先なんだろう。それは、あとがきで安部公房が言っている”残酷な未来”についての話に繋がっていく。今の日常の先にある現実のちょっとした綻びが、やがて大きな穴になってしまうその前に、目を背けずにしっかりと対峙しなければいけない。


第四間氷期/安部公房(新潮社)

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